atezolimumab

 Nivolumab, Pembrolizumabといった抗PD-1抗体が臨床現場で使えるようになりつつある中で、他の免疫チェックポイント阻害薬の報告も続いています。

 今日は抗PD-L1抗体、Atezolimumabのお話です。

 AtezolimumabはNivolumab, Pembrolizumabとは治療対象が異なります。

 一般に、PD-1タンパクは細胞障害性T細胞の表面に、PD-L1タンパクは腫瘍細胞の表面にあり、これらが結合すると免疫反応を起こさなくなるとされています。

 したがって、Nivolumab, Pembrolizumabは細胞障害性T細胞のPD-1にくっついてこれを阻害し、腫瘍免疫応答が起こるようにします。

 一方で、Atezolimumabは腫瘍細胞側のPD-L1にくっついてこれを阻害し、腫瘍免疫応答が起こるようにします。

 この辺の機微は、以前ちらっと触れました。

 

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e806518.html

 

 Atezolimumabに関する第II相試験、POPLAR studyの結果が2015年の米国臨床腫瘍学会で報告されました。 

 今回、Lancet誌に論文掲載されたようです。

 第II相試験ではありますが、腫瘍組織のPD-L1発現状態が治療効果予測因子であることが明らかにされています。

 PD-L1発現状態をかなり細かく区分していますが、実地臨床で使用する段階になったら、腫瘍組織全体のうち1%以上の領域でPD-L1が発現していればatezolimumabが有効そうで、このくらい簡単な基準なら将来は自動解析で評価できるようになりそうです。

Atezolizumab versus docetaxel for patients with previously treated non-small-cell lung cancer (POPLAR): a multicentre, open-label, phase 2 randomised controlled trial

Louis Fehrenbacher et al

Lancet 2016

背景:

 既治療非小細胞肺がんの予後は不良である。抗PD-L1抗体であるAtezolimumabは、非小細胞肺がんを含む各種の癌に対して臨床的に有効で、腫瘍細胞や腫瘍内に浸潤した免疫細胞がPD-L1を発現している場合にはとりわけ効果が高い。今回、既治療非小細胞肺がんの患者を対象に、AtezolimumabとDocetaxelの有効性と安全性を評価する臨床試験を計画し、その結果に対して腫瘍細胞や免疫細胞のPD-L1発現状態がどのように関わっているかも検証した。

方法:

本試験はオープンラベル、無作為化第II相臨床試験で、欧米13カ国、61の参加施設において、プラチナ併用化学療法後に病勢進行をきたした非小細胞肺がん患者を対象にして行われた。ECOG-PS 0-1, RECIST基準で測定可能な病変を有する、血液・臓器機能が保たれていることが主要な適格基準だった。参加者は腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現状態、組織型、過去の治療内容を割付調整因子として、3週間ごとにatezorimumab 1200mg/回を点滴投与する群(A群)とdocetaxel 75mg/?を点滴投与する群(D群)に1:1の割合で割り付けられた。治療開始前のPD-L1発現状態は免疫染色により評価された。分類した。腫瘍細胞のPD-L1発現状態は、全腫瘍細胞のうちPD-L1を発現している細胞の割合によってTC3:全体の50%以上、TC2:全体の5%以上50%未満、TC1:全体の1%以上5%未満、TC0:全体の1%未満と分類した。腫瘍浸潤炎症細胞のPD-L1発現状態は、腫瘍組織面積のうちPD-L1を発現している炎症細胞が占める面積の割合によってIC3:10%以上、IC2:5%以上10%未満、IC1:1%以上5%未満、IC0:1%未満と分類した。主要評価項目は全生存期間とした。効果予測因子として、バイオマーカー解析も探索的に行った。少なくとも1回以上試験治療を受けた患者は、安全性評価対象とした。

結果:

 2013年8月5日から2014年3月31日にかけて患者を集積した。144人がA群に、143人がD群に割り付けられた。A群のうち142人、D群のうち135人が少なくとも1回の試験治療を受けた。全生存期間はA群で12.6ヶ月(95%信頼区間は9.7-16.4ヶ月)、D群で9.7ヶ月(8.6-12.0ヶ月)で、ハザード比は0.73(95%信頼区間は0.53-0.99)だった。PD-L1の発現状態が高いほど全生存期間も向上する傾向にあった(TC3もしくはIC3の場合はハザード比0.49(95%信頼区間0.22-1.07, p=0.068)、TC2/3またはIC2/3の場合はハザード比0.54(95%信頼区間0.33-0.89、p=0.014)、TC1/2/3もしくはIC1/2/3の場合はハザード比0.59(95%信頼区間0.40-0.85、p=0.005)、TC0かつIC0の場合はハザード比1.04(95%信頼区間は0.62-1.75、p=0.871))。探索的解析では、治療開始前のエフェクターT細胞インターフェロンγ関連遺伝子の発現状態が高い患者ではA群での全生存期間が改善する傾向にあった。A群のうち11人(8%)、D群のうち30人(22%)で、有害事象により治療が中止されていた。A群のうち16人(11%)、D群のうち52人(39%)にGrade 3-4の有害事象を認め、A群のうち1人(<1%)とD群のうち3人(2%)が治療関連死した。

結論:

 atezolimumabはdocetaxelと比較して、既治療非小細胞肺がんの全生存期間を有意に改善した。改善効果は腫瘍細胞と腫瘍浸潤炎症細胞のPD-L1発現状態と関連しており、PD-L1発現状態がatezolimumabの治療効果予測因子であることが示唆された。atezolimumabの忍容性も化学療法と比較して良好だった。