もう一度、免疫チェックポイント阻害薬使用時の効果判定について

 nivolumabが非小細胞肺癌に使えるようになって3ヶ月を超えましたが、大分でも裾野が広がりつつあるようです。

 患者さんも、どの担当医の先生方も、不測の有害事象におびえながらも勇気を持って使用されていることでしょう。

 幸い、大分県内で深刻な有害事象が出たという話はまだ聞きません。

 甲状腺機能に異常をきたした方がいた、というくらいです。

 昨年の夏以降、どの学会、研究会に出席しても免疫チェックポイント阻害薬の話題が出ないことがありません。

 ただ、

 「標準治療よりも全生存期間が優れていた」

 「効果予測因子の開発が必要だ」

 「薬価が高すぎて、このままでは国家財政が破綻し、ゆくゆくは戦争になる」

 「稀ながらも免疫関連有害事象が出たら深刻で、適正使用と早期の有害事象発見、診療科横断的な対応を」

といった話題はよく聞くのですが、なぜか、

 「治療効果判定をどのように行っていくのか」

という話は、意外なほど聞く機会が少ないように思います。

 高価な薬なので、治療を継続するか中止するかの判断基準は患者さんのためにも医療経済のためにも大切なことです。

 そして、免疫チェックポイント阻害薬の効果判定には特有の基準があるので、担当医には必須の知識です。

 immune-related response criteria(irRC)と名づけられていますが、改めて本稿で触れます。

 以前に一度、簡単に触れたことがあります。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e820190.html

 学会のメモを整理していて思い出したので、今回は原著論文も紹介しつつ、まとめます。

 改めて精読してみると、実地臨床における免疫関連療法の効果判定のみならず、今後の臨床試験のデザインを考える上で、掛け値なしに重要な論文であることがわかります。

 分けても、WHO criteriaでPDと判定された患者の中に、少なくとも10%はirRCではPDとならない患者が含まれていて、生存期間解析を行うとWHO criteriaでCR / PR / SDと判定された患者に比肩する生存期間が得られたということは、肺癌診療に携わる全ての医師が知っておかねばなりません。

 「そろそろ抄読会の順番が迫ってきたけど、ネタがなくて困ってます」

という先生は、是非今回の記事をパクって、聴衆にウンチクを垂れてください。

 そのつもりでがんばってまとめました。

Guidelines for the Evaluation of Immune Therapy Activity in Solid Tumors: Immune-Related Response Criteria

Jedd D. Wolchok, Axel Hoos, Steven O'Day, Jeffrey S. Weber, Omid Hamid, Celeste Lebbé, Michele Maio, Michael Binder, Oliver Bohnsack, Geoffrey Nichol, Rachel Humphrey, and F. Stephen Hodi

Clin Cancer Res 2009;15(23) , 7412-7420, December 1, 2009

 まずは、irRCのポイントを<結果>の項から抜粋してまとめます。

・治療開始前に、標的病変を決める

・標的病変は1臓器5病巣まで、内臓病変は計10病巣以下、皮膚病変は計5病巣以下。

・各病巣の長径と、それに直行する短径を測定し、長径X短径の総和(積和)を計測し、「ベースラインの腫瘍総量」とする。

・治療効果判定時には、これら標的病巣の積和とともに、新規に出現した病巣も積和の計測対象に加える。

・新規病巣を計測対象に加える際の基準は、

 積和が5mmX5mm以上であること(短径が5mm以上でないといけないのか、積和が25平方mmを超えていればいいのかははっきり記載されていない)

 1臓器あたり計5病巣まで

 内臓病変は計10病巣まで、皮膚病巣は計5病巣まで

・治療効果判定時には

 腫瘍総量=標的病巣の積和+新規病巣の積和

 を比較する

・効果判定基準は以下の通り

irCR

 全ての病巣が消失した場合

 初めてirCRの基準を満たしてから、4週以上経過した後の検査で同様の所見を確認して、確定となる

irPR

 「ベースラインの腫瘍総量」と比較して、50%以上の腫瘍総量縮小が得られた場合

 初めてirPRの基準を満たしてから、4週以上経過した後の検査で同様の所見を確認して、確定となる

irSD

 irCR, irPR, irPDのいずれにも当てはまらない場合

 irCR, irPR, irPDと異なり、irSD確定には異なる時点での再確認は必要ない

irPD

 「腫瘍総量がもっとも少なくなった時点」と比較して、25%以上の腫瘍総量増大を認めた場合

 初めてirPDの基準を満たしてから、4週以上経過した後の検査で同様の所見を確認して、確定となる

<序論>

・腫瘍縮小効果の判定は、薬物療法の主たる治療効果である全生存期間の延長を反映する代替エンドポイント(surrogate endpoint)として受けいれられている=腫瘍が縮小したら、その分だけ患者さんの長生き期間も延びるだろう、という考え方で、腫瘍が縮小するかしないかは、今の治療を続けるべきか、他の治療に変えるべきかの選択基準になる。

・細胞障害性抗腫瘍薬の効果判定基準として、RECIST criteriaやWHO criteriaが用いられてきた。

・RECIST criteriaやWHO criteriaでは、腫瘍縮小効果を判定する場合には、腫瘍縮小は異なる2回の効果判定時点で確認する必要がある(1度の効果判定ではいわば「仮判定」であり、引き続く次回の効果判定でも縮小効果が持続していたら初めて「本判定」となる)。

・RECIST criteriaやWHO criteriaにおいて明らかな病勢進行(progressive disease, PD)と判定されたら、1回の判定で「本判定」となり、直ちに治療を切り替えるように推奨されてきた。

・分子標的薬が使用されるようになって、腫瘍縮小が得られなくても長期生存する患者が見られるようになったが、病勢安定(stable disease)=静的腫瘍制御という概念で概ね対応できるため、新たな効果判定基準が必要となるまでにはならなかった。

・免疫関連療法を行う中で、一旦RECIST criteriaやWHO criteriaでPDとなった後に、腫瘍縮小や長期の病勢安定に至るような事例(HIV関連カポジ肉腫に対し、抗HIV療法を行いながらrecombnat IL-12療法を行ったときなど)が出始めた。

・RECIST criteriaやWHO criteriaにおけるPDは、免疫関連療法においては必ずしも治療失敗を意味しないため、より長期的な視野から治療効果を見る必要が出てきた。

・2004年から2005年にかけて、腫瘍医学や免疫医学等の専門家が集まって幾度かのワークショップを開催し、悪性腫瘍患者に対する免疫関連療法の経験について話し合い、以下のような結論に至った。

1)免疫関連療法においては、測定可能な治療効果は細胞障害性抗腫瘍薬よりも長期にわたることがある

2)免疫関連療法においては、PDとなったあとに治療効果が現れることがある

3)免疫関連療法においては、PDであることを異なる2回の効果判定時点で確認しないと、不適切な治療中止につながってしまう(本来は効果が得られているのに、中途半端に治療を中止してしまう)ことがある

4)「臨床的に意義の乏しいPD」(=たとえば、他の病巣が縮小している一方で、新規病巣が出現した場合など)という概念を受け入れる

5)SDの状態が長期に続いている場合、治療効果が得られていると判断する

・以上のコンセンサスを反映させた新しい治療効果判定基準(irRC)を作成して、妥当性を検証することになった。

<方法>

・細胞障害性Tリンパ球抗原-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen-4)抗体であるipilimumabを進行悪性黒色腫に使用する臨床試験を行う過程で、irRCを使用してみた。

・対象となった臨床試験は多施設共同第II相試験3つ(CA184-008, CA184-022, CA184-007)であり、のべ487人の進行悪性黒色腫患者が評価対象となった。

・治療効果判定には、WHO criteriaとirRCの両者が用いられた。

・全生存期間、1年生存割合、治療の忍容性などが評価された。

・ipilimumabによる免疫賦活とそれによる腫瘍縮小のために十分な期間を稼ぐため、治療効果判定は治療開始後12週間目に行った。

・12週を超えるまではたとえPD基準を満たそうとも、明らかな病勢悪化により患者の状態が悪くなったり、有害事象により治療継続不能になったりしなければ、プロトコール治療を継続した。

・12週の時点で治療担当医がPDと判定した場合にも、独立した効果安全性評価委員会が追認するまでは治療変更しないように推奨した。

・WHO criteriaでPDと判定された場合にも、その前後の画像診断データを比較し、新規病変は測定対象に組み入れて評価対象とした。

<結果>

・12週時点で、臨床試験参加者の約30%は、WHO criteriaにおけるCR / PR / SDと評価された。

・SDと判定された患者の中には、長期の経過観察中にCR / PRに至った者もいた。

・12週時点でPDと判定された患者の中にも、その後の経過観察中に、ipilimumab以外の治療を行っていないにも拘らず腫瘍縮小やSD維持に至った者もいた。

・12週時点以降にも治療効果が得られた患者には以下の4つのパターンがあり、A)、B)はRECIST criteriaやWHO criteriaで規定されているが、C)、D)は新しいパターンだった。

A)12週時点までに標的病変が縮小したもの

B)SD範囲内で経過したもの

C)標的病変が一旦PD基準を超えて増大した後(WHO criteriaではPDと判定される状態)に、腫瘍縮小に転じたもの

D)新規病変が出現した(WHO criteriaではPDと判定される状態)にも拘らず、その病変を含めて後に腫瘍縮小に転じたもの

・計227人の患者がipilimumabによる治療に割り付けられた。

・奏効割合は7.5%(17 / 227)、CRは0.9%(2 / 227)、PRは6.6%(15 / 227)、SDは20.3%(46 / 227)だった。

・18.1%(41 / 227)は早期にPDと判定された後、再評価されていなかった("unknown response")。

・54.2%(123 / 227)は12週の時点でPDと判定されていた。

・PDと判定された123人のうち、57人は次の治療に入る前(16週時点、20週時点、それ以降)に再評価されていた。

・WHO criteriaによる評価が確定した後に、全ての患者に対してirCRによる評価が行われ、WHO criteriaでPDと判定された患者の中にirPRが5人、irSDが17人含まれていた。すなわち、全体の9.7%(22 / 227)はWHO criteriaでPDと判定されていながらも、ipilimumabによるなんらかの治療効果が確認されていた、ということになる。

・実際には、もっとたくさんのirPR. irSDの患者が、WHO criteriaでPDと判定された患者の中に含まれていたかもしれない。

・waterfall plotを見ると、WHO criteriaでPDとされた患者のうち、irPR / irSDのcriteriaを満たした22人の位置づけがよくわかる(図表内では、*で標識された患者がこの22人に該当するが、ほとんどが腫瘍縮小に至っている)。

・生存曲線を見ると、これら22人の生存曲線では、WHO criteriaでCR / PR / SDと判定された患者に比肩する結果が認められた(驚くべきことに、この生存曲線が描かれた段階では、この22人の患者の半数以上が生存しており、3年生存割合が50%を超えそうな勢いで、生存期間中央値は算出できていない)。

 ・・・今回の検討は進行悪性黒色腫に関するものですが、2000年代初頭には既に検討が始められており、論文化されたのが2009年です。

 すでに7年が経過しています。 

 同様の検討が肺癌の領域でもなされることを願っていますし、今後計画される臨床試験では、irRCによる評価はもちろんのこと、どのようにPFSやTTF等のsurrogate endpointに落とし込んでいくかという視野に立ってデザインされることを願ってやみません。