かなり専門的な話になりますが、"temporal heterogeneity"というのは特発性肺線維症における組織所見・HRCT所見を示す用語でした。
昨今はこの"heterogeneity"が肺がんの領域にも輸入され、原発巣と転移巣における腫瘍性状の多様性を表現する用語になっています。
今回の報告はその"tumor heterogeneity"を裏付ける報告で、再生検を行うにあたって知っておくべき内容です。
原発巣よりも、アプローチ可能な転移巣から再生検する方が、適切な治療戦略を立てる上では理にかなっているのかもしれません。
原発巣と転移巣では、分子標的プロファイルが異なる
Date: 15 Apr 2016
Topic: Pathology/Molecular biology / Lung and other thoracic tumours
・10764件の非小細胞肺癌組織バンクの検体を、採取部位別に分類(原発巣、リンパ節転移巣、遠隔転移巣)し、分子標的の発現状態について解析した
・免疫組織化学、in-situ-hybridisation(ISH)法、Sangerシーケンス法、次世代シーケンサーを用いた
・既にある治療薬の効果予測ができるバイオマーカーについて、原発巣、リンパ節転移巣、遠隔転移巣における発現状態を調査し、154人では同一の患者における各病巣の発現状態を比較した
・扁平上皮癌、腺癌に対して、さまざまなバイオマーカーの発現が検討された
・ALK再構成の発現割合は2.4%
・ROS1再構成の発現割合は1.0%
・HER2増幅の発現割合は2.9%
・cMET増幅の発現割合は4.0%
・EGFR過剰発現の割合は49.2%
・EGFR遺伝子増幅の割合は29.5%
・EGFR遺伝子変異の割合は12.3%
・PD-L1発現の割合は25%
・他に化学療法の効果予測因子としてBRCA1 、BRCA2、ERCC1、TUBB3、RRM1、TOPO1、TSについても検討された
・原発巣と転移巣の間に、バイオマーカー発現状態の相違が見てとれた
・腺癌患者におけるリンパ節転移巣と原発巣でのバイオマーカー発現頻度は、以下のように異なっていた
−ALK-IHC陽性率:8% vs 1%
−PD-L1陽性率:36% vs 25%
−ROS1再構成率:3% vs 1%
−EGFR-IHC陽性率:50% vs 39%
−EGFR-ISH陽性率:39% vs 28%
・cMET増幅の割合は、遠隔転移巣では7%で認めたのに対して、原発巣では3%だった
・扁平上皮癌では、ALK発現率はリンパ節転移巣で10%、原発巣では1%だった
・PD-L1発現率はリンパ節転移巣で42%、原発巣で33%だった
・治療戦略を立てるに当たり、腫瘍組織採取と分子プロファイリングを行うことが重要なのは言うまでもないが、病巣によって、採取時期によってバイオマーカーの発現状態が異なることも踏まえておかなければならない