今年になって、気管支鏡検査の現場から、スライドグラスが消えた。
肺がん診断のための気管支鏡検査の際、スライドグラスへの塗抹細胞診標本は、受け付けてもらえなくなった。
塗抹細胞診標本に慣れ親しんだ身からすれば寂しい限りだが、以下のような理由があるのではないだろうか。
・とにかく煩雑
一人の患者につき、十数枚も提出されたら、確かにたまらない
まともにパパニコロウ染色をやって、全部二重鏡見したらそれは大変な労力で、働き方改革なんて実現しない
パパニコロウ染色は、指導医に教わって研修医のころに病棟でやっていたが、数十に及ぶ手順があり、とてもじゃないけど耐えられなかった
・セルブロック作成を求められることが多くなった
免疫染色や遺伝子変異検索に供するため、セルブロックを作成する機会が増えた
組織型の推定程度にしか役立たない塗抹細胞診標本よりは、より治療に結び付きやすいということなのだろう
・塗抹細胞診標本の、診断における意義が低下した
セルブロックのところで述べたことと重なるが、もはや細胞診だけで組織型を類推すればいい、という時代ではなくなった
では細胞診技師さんの仕事がなくなったかというと、そんなわけではない。
ブラシ擦過や気管支洗浄を行ったら、洗浄細胞浮遊液を提出して、それを処理して細胞診に供してもらう。
ただし、経験的にいえば、塗抹細胞診で診断がつき、細胞浮遊液で診断できなかった、という例は、少なからずある。
洗浄細胞浮遊液での細胞診にそうした限界があることは、臨床医、病理医、細胞診技師、それぞれが踏まえておくべきだ。
ともあれ、生検の重要性が増したことは間違いない。
着実に病巣へ至る気管支の走行を見極めて、使える技術を駆使して、できるだけしっかりとした生検組織を得るように努めなければ。