2013年4月21日 第162回ICD講習会(東京国際フォーラム)
・会場で、研修医時代にご指導いただいた岡本竜哉先生にたまたまお目にかかった。
熊本大学医学部微生物学教室から、国立国際医療研究センターのICUに異動されたとのことだった。
今回鳥インフルエンザの講演をされた河内正治先生からHead Huntingされたらしい。
1)新型インフルエンザ等対策特別措置法の概要(一瀬 篤先生:内閣官房新型インフルエンザなど対策室 内閣参事官)
・2009年の世界的なH1N1新型インフルエンザにおける死亡者数は、米国では1万人を超えているが、わが国では200人程度だった
・新型インフルエンザ等対策特別措置法は、2012年5月11日に公布され、今春施行
・本法の対象は、新型インフルエンザと、同様に危険なその他の感染症(SARSなど)
2)高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)の動向(河内 正治先生:国立国際医療センター手術部麻酔科/ICU)
・高病原性鳥インフルエンザのヒトへの感染の初めての報告は、1998年香港での12例
・2003年から東南アジアを中心に発生し、2012年7月までに610人の感染例が確認されている
・ベトナムでは123人発症、61人死亡、死亡率50%
・インドネシアでは192人発症、160人死亡、死亡率83.3%
・エジプトでは169人発症、60人死亡、死亡率35.5%
・中国では43人発症、28人死亡、死亡率65.1%
・タイでは25人発症、17人死亡、死亡率68%
3)特措法によって変わるインフルエンザ医療(川名 明彦先生:防衛医科大学校内科学(感染症・呼吸器))
・本法が成立しても、日常臨床におけるインフルエンザの診療は特に変えなくていい
・平素からのインフルエンザ対策が重要
・毎年ワクチンを接種する
・咳エチケット
・職員教育
・患者の早期発見と治療、必要に応じた予防的抗ウイルス薬投与
4)感染症専門医の立場からみる新型インフルエンザ等対策特別措置法(新型特措法)の問題点(渡辺 彰先生:東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門)
・スペイン風邪やアジア風邪で大量の患者が死亡した時代とは、現状は異なる
・インフルエンザによる死亡のほとんどの原因を占めていた二次性細菌感染に対しては、有効な抗菌薬がある
・抗インフルエンザ薬も複数ある
・ワクチンもうっている
・2009年の新型インフルエンザ流行時のわが国の死亡者数はわずか200人
・高病原性鳥インフルエンザが流行した中国、ベトナム、インドネシア、エジプトには共通点がある
・これらの国では、鳥インフルエンザが発症しても屠殺をせず、鳥にワクチンをうつ
・ワクチン接種により鳥が重篤なインフルエンザ感染にかからないだけで、ヒトにはかかる
・エジプトでは、死亡率が低下傾向で、もともと30%をこえていたのが現在では10%以下になろうとしている
・発症から3日以内に抗ウイルス薬を投与することにより、死亡率を50%台から6%台まで抑えられた
5)国家の感染症危機管理対策としての特措法(大石 和徳先生:国立感染症研究所感染症疫学センター)
・有効な治療法がない新興感染症発生時は、初期感染者の封じ込め、集会自粛、学校閉鎖で時間を稼ぐことが大切
・集会自粛や学校閉鎖には経済的な損失、国民の権利侵害といった見方もある
・2003年に中国でSARSが発生した際には、WHOは香港・広東への渡航延期勧告を行った
・その結果、流行は比較的早期に終息し、人的被害は最小限に抑えられた
・経済的損失は数百億ドルにおよんだとされるものの、このWHOの対応は高く評価された
・今後、新興感染症が発生した際、日本政府にも本法を活用した適切な対応を期待したい