私が医師になりたての頃は、まだ明治生まれの患者さんを拝見する機会もありました。
最近ではとんと拝見しなくなりました。
それもそのはず、明治生まれとなるとみなさん100歳以上です。
今朝診療依頼を受けた患者は、丁度100歳の方でした。
連休の合間に腰痛で当院を受診し、脊椎骨折を認めて安静目的で入院。
後日、精査目的で撮影した胸腹部CTで、
1)胸椎の転移性脊椎腫瘍
2)肺腫瘤
3)肝腫瘤
を認めました。
家族をお招きしてよくよく話を伺うと、3月に他院で肝腫瘍生検が行われ、悪性腫瘍と診断がついているそうです。
ただし、肝細胞癌としては非典型的で、原発巣は不明とのことでした。
原発性肺腺癌、肝転移、骨転移という筋書きなら、すんなり説明がつきます。
気管支鏡で診断をつけるのが手っ取り早いのですが、なんといってもそこは100歳の患者さん。
できるだけ少ない侵襲で、というわけで、他院の主治医に連絡をとり、肝腫瘍の原発巣として肺癌の可能性がないか、より詳しく調べていただくことにしました。
それで肺癌の転移と証明ができなければ、なんらか次の検査を考えます。
仮にこれで肺が原発巣と診断がついても、
・100歳の本人にどう病状を説明するか
・抗がん薬治療をするのか
といった問題が残ります。
EGFR遺伝子変異もしくはALK再構成陽性であったとしても、画像上特発性肺線維症を思わせる陰影があり、分子標的薬の使用はとてもためらわれます。
困ったことに、両下肢の運動・感覚障害が既に出現しており、近い将来の対麻痺・膀胱直腸障害は避けられない状況です。
100歳とは思えないくらいに頭のはっきりした方で、かえって可哀想です。
まずはトラマドール・アセトアミノフェン合剤と抗RANKL抗体を使用して、緩和的治療を開始します。