いきいき健康塾でのたばこのお話

 論文作成やら患者管理やらで忙殺されて、更新が滞ってしまいました。

 久し振りに書くとなると、何から書いたらいいやら困ってしまいますね。

 

 6月5日に、当院最上階の大会議室で、近隣にお住まいの方(主として別府市内)から希望者を募って、いきいき健康塾を行いました。

 広さに限りがあるため、人数限定で開催していますが、それでも65人の方々が参加され、会場は一杯になってしまいました。

 私のお話の内容は、

 「たばこの怖さ-肺がん・肺気腫について-」といった内容でした。

 ご存知の方も多いと思いますが、日本国内の成人喫煙率は年々減少しています。

 私がよく参照する「厚生労働省の最新たばこ情報」のHPには、たばこに関するさまざまな内容が記載されています。

 http://www.health-net.or.jp/tobacco/front.html 

 厚生労働省日本たばこ産業は、それぞれ独自に成人喫煙率の年次推移を発表しています。

 日本たばこ産業の報告では、平成24年の成人喫煙率は男性32.7%、女性10.4%となっています。

 昭和41年は男性83.7%、女性18%でしたから、いずれもかなり減少しています。

 肺がん死亡者数は今のところ年々増加していますが、今後は喫煙関連の肺がん患者数は減少すると予想されます。

 ・・・そうはいっても、現在でもたばこを吸い続けている愛煙家の方々は、筋金入りです。

 たばこを吸う方も吸わない方も、街角でたばこの自動販売機を見かけたら、ちょっと立ち止まってみてください。

 現在流通しているたばこのパッケージには、例外なくその半分から2/3の領域を使って、「たばこと健康被害」に関して記載されています。

 その内容を以下に抜粋して記載します。

 もし同じ内容が、他の嗜好品、たとえばおせんべいやあられのパッケージにかかれていたら自分はどうするだろうか、と想像しながら読んでみてください。

 

 ・未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません。

 →じゃあ成人なら大丈夫なのかよ?と思いませんか。

 ・妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。疫学的な推計によると、たばこを吸う妊婦は吸わない妊婦に比べ、低出生体重の危険性が約2倍、早産の危険性が約3倍高くなります

 →じゃあ妊娠してなければ吸っていいのかよ?と思いませんか。

 ・たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。

 →じゃあたばこを吸っている当事者の俺は大丈夫なのか?と思いませんか。

 ・喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります。

 →パッケージにここまで書いてあるのに、たばこを吸って、肺がんになって、病院に行って、治療を受けるのですか?病院で肺がんと診断された方の70%程度は、治癒不能の状態まで進行した時点で診断されていますよ。日本人の死因の第1位は悪性新生物で、悪性新生物の中での死亡原因第1位は肺がんですよ。

 ・喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は心筋梗塞により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。

 →日本人の死因の第2位は心疾患で、その大部分を心筋梗塞をはじめとして虚血性心疾患が占めますよ。

 ・喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は脳卒中により志望する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。

 →日本人の死因の第3位は、脳血管疾患もしくは肺炎です。

 未成年や周囲の人の健康を害し、妊娠・出産に悪影響を及ぼし、日本人の三大死因にも密接にかかわっている。

 もしこんなことがせんべいやあられの袋に書いてあったら、安心して食べられますか?

 僕は無理です。

 でも、それを食べられるのが、現在喫煙を続けている方々なのだと思います。

 

 僕はたばこが嫌いです。

 父親が重喫煙者で、居間の壁紙がヤニで黄色くなってしまうほどでした。

 そんな環境で育ったので、僕や姉2人はみなたばこを嫌っています。

 73歳の父は現在どうしているかというと、複数回の脳梗塞、脳の中心部を圧迫する、しかも治療のしようのない脳動脈瘤、転倒による外傷性脳挫傷、胸腹部大動脈瘤心筋梗塞で主要な冠動脈に2-3本ステントが入っています。

 脳梗塞や脳動脈瘤脳挫傷の後遺症のため、支えなしでは自力で1歩も歩けず、介助があっても数mの距離を歩くのがやっとです。

 背もたれがないと、座位を保つことすらままなりません。

 医師としてたくさんの肺がんの患者さん、その他の呼吸器疾患の患者さんに携わってきました。

 また、40台前半で初回の脳梗塞を発症して以来、最も身近な喫煙者の父の体がどのように蝕まれていくかも目の当たりにしました。

 僕は肺がんにはなりたくないし、父のような体にもなりたくありません。

 この気持ちを、できるだけたくさんの人たちに共有していただきたいと願っています。

 それでもたばこを吸いたい、という方に無理にやめろというつもりはありません。

 たばこを吸う方がいらっしゃるからこそ、たばこ農家の方々の生活が成り立ちます。

 製薬会社は世の中から喫煙者がいなくなると、薬が売れなくなってしまいます。

 われわれ呼吸器内科医も、喫煙者がいなくなると仕事が減ります。

 ただ、少なくとも呼吸器内科医の仕事は、減った方が世の中のためであると、僕は思っています。

 喫煙関連の健康被害がなくなるだけで、相当な医療費削減につながると思います。

 肺がんの化学療法に用いる抗がん薬が1瓶数十万円、なんてのを見ると、つくづくそう思います。