PS2の患者さんのためのカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法

 脳転移に対する全脳照射後に転院してきた患者さんの診断がようやくつきました。

 9月10日に気管支鏡をして、遺伝子変異検査結果まで判明したのが27日。

 診断作業については、大学病院より時間がかかってしまいました。

 結論は、原発性肺腺癌、IV期、EGFR遺伝子変異陰性、ALK遺伝子再構成陰性、でした。

 患者さん、ご主人と面談しました。

 肺がんの診断がつき、これからの治療を考えなければならない。

 そんなとき、患者さんと一緒にいくつかの事柄を確認するようにしています。

 1)肺がんの組織型

  生検で採取した肺がんを顕微鏡でみたとき、どんな「顔つき」をしているか

 2)肺がんの進行度

  精密検査の結果、肺がんはどの程度からだの中で広がっているのか(転移しているのか)

 3)体力

  治療を受けとめる体力が、いま現在あるかどうか

  具体的には、ECOG-Performance Status(PS)を指標にして評価しています

  すなわち

   PS 0: 無症状で、健常人と何ら変わらない生活を送っている

   PS 1: なんらかの症状はあるが、通常の生活が可能

   PS 2: なんらかの症状を有し、日中の50%は起きて生活している

   PS 3: なんらかの症状を有し、日中の50%は寝て生活している

   PS 4: 終日寝て生活している。

 4)肺がんのがん細胞が特定の遺伝子異常を有しているか

  EGFR遺伝子変異があるかないか

  EML4-ALK再構成があるかないか

 5)病状に関する患者さん・ご家族の理解

  病状と治療内容を理解して、自分が望む治療を選べるか

 6)患者さんを取り巻く環境

  家族のサポートが得られるか

  体調に変化があったときに、容易に病院へアクセス可能か

  治療の妨げとなり得る社会・経済的問題はないか、あれば解決は可能か

 今回の患者さんは、いくつかの点で厳しいところがありました。

 3)体力

  患者さん、ご主人、私、皆がPS 2という認識で一致しました。

  従来であれば、臨床試験ベースでなければいわゆる殺細胞性抗癌薬はお勧めできない状態です。

 5)病状に関する患者さん・ご家族の理解

  病状告知(内容は書面にまとめて渡してあります)から数日間をおいて再度面談しました。

  残念なことに、本人は全く説明内容を覚えておらず、ご主人は「治る病気だから」とおっしゃっていました。 

 6)患者さんを取り巻く環境

  体が不自由で、本人が入院しているために社会的入院をしているご主人との二人暮らしです。

  確たる収入はありませんが、医療・生活保護は未申請です。

 おそらく、がんセンターや大学病院でCancer Boardにかかれば、「緩和医療」と簡単に結論されるケースです。

 ただし、再度説明をして納得していただいた上で、本人・ご主人ともはっきりと「抗がん薬治療を受けたい

」という意思表示をされました。

 PS2の患者さんに対する化学療法の重要な報告が、2012年のASCOで成され、今年の8月に文献化されました。

J Clin Oncol. 2013 Aug 10;31(23):2849-53.

Randomized phase III trial of single-agent pemetrexed versus carboplatin and pemetrexed in patients with advanced non-small-cell lung cancer and Eastern Cooperative Oncology Group performance status of 2.

Zukin M, Barrios CH, Pereira JR, Ribeiro Rde A, Beato CA, do Nascimento YN, Murad A, Franke FA, Precivale M, Araujo LH, Baldotto CS, Vieira FM, Small IA, Ferreira CG, Lilenbaum RC.

  

<要約>

目的:ECOG-PS2の進行非小細胞肺癌患者に対するペメトレキセド単剤化学療法とカルボプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を比較すること。

対象と方法:進行非小細胞肺癌と診断され(当初は非小細胞肺癌であればどの組織型でも可としていたが、後に非扁平上皮肺癌のみと改訂)、PS2、化学療法歴なし、臓器機能が保たれている患者を対象に、A群:ペメトレキセド単剤療法(ペメトレキセド500mg/㎡)もしくはB群:カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法(カルボプラチン5AUC+ペメトレキセド500mg/㎡)に無作為に割り付ける多施設共同第III相無作為化比較試験を行った。治療は3週毎に、最大4コースまで行うこととした。主要評価項目は全生存期間とした。

結果:2008年4月から2011年7月にかけて、ブラジルの8施設と米国の1施設から総計205人の適格患者を組み入れた。奏効割合はA群で10.3%、B群で23.8%(p=0.032)であった。intent-to-treat解析において、無増悪生存期間中央値はA群で2.8ヶ月、B群で5.8ヶ月(ハザード比0.46、95%信頼区間0.35-0.63、p<0.001)で、生存期間中央値はA群で5.3ヶ月、B群で9.3ヶ月(ハザード比0.62、95%信頼区間0.46-0.83、p=0.001)であった。1年生存割合はA群で21.9%、B群で40.1%であった。同様の結果は、扁平上皮癌患者を除外した上でのサブグループ解析でも確認された。貧血(Grade 3:3.9%, Grade 4: 11.7%)および好中球減少(Grade 3:1%, Grade 4:6.8%)は、B群でより高頻度に見られた。B群では、4人の治療関連死を認めた。

結論:カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法は、ECOG PS2の進行非小細胞肺癌患者の生存期間を有意に改善する。

 昨今の肺がん領域の治療開発は、

 「特定の遺伝子変異を有する患者には劇的に効く分子標的薬」

 「抗がん薬の初期治療効果が得られた患者に対する維持療法」

へと興味が注がれて、

 「特定の遺伝子変異を有さず、分子標的薬の恩恵が受けられない患者」

 「抗がん薬の初期治療効果が得られず、維持療法に移行できない患者」

は置き去りにしているような感があります。

 しかし、当院に異動して、超高齢の進行肺癌患者さん、身寄りのない末期の高齢肺癌患者さんなどのお世話をしてきて、こういった患者さんたちの受け皿が必要なことがはっきりわかりました。

 

 今回の患者さんは、支持療法を加えることにより、PSが4から2に改善し、抗がん薬治療のチャンスが出ました。

 カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法で、もう一歩お手伝いしてみます。