肺癌領域でも、覚えるのが苦痛になるくらい分子標的薬が増えてきました。
市販後、もしくは市販の目処が立っているものだけでも、
EGFR-TKIではGefitinib, Erlotinib, Afatinib。
ALK-TKIではAlektinib, Crizotinib。
VEGF抗体ではBevacizumab。
その他にも、ぽつぽつ取り上げているように様々な薬が世に出てこようとしています。
ひとつの分子標的をターゲットにした薬が複数出てくると、
「じゃあ、どうやって使い分けるの?」
ということになります。
先日の肺癌学会九州地方会では、Alektinibが効かなくなったALK転座陽性肺癌の患者さんにCrizotinibを使用したところ腫瘍縮小が得られた、という九州がんセンターの発表がありました。
Gefitinibが効かなくなったEGFR変異陽性患者さんにErlotinibが効いた、という話もしばしば聞きます。
前者はAlektinibが治療標的としていない分子をCrizotinibが押さえたのだろう(もともとCrizotinibはALK以外の分子にも抑制作用を示すmulti-targeted drugです)、後者はより治療力価の高い(薬としての用量が多めに設定されている)Erlotinibの方が、用量依存的に強い効果を示したのだろう、という見方が出来ます。
ただ、これらの見方はあくまで推測であって、本来は効きにくくなってからの腫瘍を改めて調べて、その結果に基づいて治療を組み立てる方が理に叶っています。
最近、「再生検」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
上記のように、初期治療が効きにくくなってきた患者さんに対し、なぜ効きにくくなったのか、次の治療はどうするのが適切か調べるために、再度生検をする、ということです。
これに関連した内容は、2013年4月に1度記載しました。
時間のある方はこちらをご覧頂いてからの方がいいかも知れません。
今回とはちょっと私の論調も異なりますが。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e648154.html
Helena A et al, Clin Cancer Res 2013; 19: 2240 - 2247
この論文には、EGFR遺伝子変異陽性の肺がん患者さんがEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けて、効きにくくなった時に再生検を行い、結果がどのようであったかが記載されています。
中には、この写真に示されるように、もともと左側のような「腺がん」であったものが、治療後に「小細胞がん」に置き換わっている場合もあったようです。
一般に小細胞がんは喫煙者のがんですから、喫煙者の少ないEGFR陽性患者さんに出てくること自体、ちょっとした驚きです。
次の円グラフでは、再生検を行った患者さんのがん組織で、どんな変化がどんな頻度で起こっていたかを示しています。
約70%はよく知られたT790Mの二次変異が関係しており、これによってGefitinib, Erlotinibが結合部位に近づけなくなります。
また、その他の機序として、HER2発現、MET増幅、小細胞癌への転換が認められています。
おおむね、Oxnardの2011年の論文の結果と一致した傾向のようです。
18%は不明とのことですが、細かく調べていけば中にはALK、ROS1、RET、RAF、HGFなどなどが含まれているかもしれません。
大切なことは、5-10年前に比べると、様々な分子標的に対する様々な薬(現段階では、薬というより化合物という方が適切かもしれませんが)が世の中に存在しており、ちゃんと変化を調べることで次の治療手段がはっきり見えてくるかも知れない、ということです。
小細胞がんに対する分子標的治療として有効なものは今のところありませんが、小細胞がん用の化学療法を行うことによって十分に効果が期待できます。
再生検は口で言うほど簡単ではありませんし、検査を行う側がその重要性を認識していないと、病理診断はついても遺伝子診断に供する検体が得られなかった、なんていう悲劇的な話にもなりかねません。
肺癌の診断学は、確定診断時に遺伝子検査が必要である、という位置を更に越えて、再燃時にも遺伝子検査を意識した再確定診断(気管支鏡、ときには外科的生検)が必要であるところまで来ている、ということを、肺がん診療に関わる全ての医師は知っておかねばなりません。
細々ですが、私も今の職場で実践しています。
実際、限局型小細胞肺癌の治療後に再燃し、再生検の結果EGFRm(-),ALK(-)の腺癌と診断した方に化学療法中で、ちゃんと治療効果が得られています。
紹介元が勧めたような小細胞癌の治療をせずによかったと思っています。