SPARCといわれると、キン肉族三大奥義のひとつ、「マッスルスパーク」を思い出してしまうのは私だけでしょうか。
ここでのSPARCはsecreted protein acidic and rich in cysteineの略で、関連HPによると、
「SPARC(オステオネクチンとしても知られている)は、アブラキサンの活性を促進するマトリクス細胞糖タンパク質である。SPARCは広範な種々のリガンドに対して親和性を有し、リガンドとしては、陽イオン(例えば、Ca2+、Cu2+、Fe2+)、成長因子(例えば、血小板由来成長因子(PDGF)、及び血管内皮成長因子(VEGF))、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質(例えば、コラーゲンI~V及びコラーゲンIX、ビトロネクチン(vitronectin)、及びトロンボスポンジン-1(thrombospondin-1))、内皮細胞、血小板、ヒドロキシアパタイト及びアルブミンが挙げられる。SPARCの発現は発生的に制御されており、正常な発生の過程で又は傷害に応答して再構築(remodeling)を受けている組織において主に発現している。SPARCはまた、数種の悪性の癌においてアップレギュレートされているが、大部分の正常な組織には存在しない(Porter et al., J. Histochem. Cytochem., 43, 791(1995)及び以下を参照のこと)。実際、SPARCの発現は種々の腫瘍において誘導されている(例えば、膀胱、肝臓、卵巣、腎臓、腸、及び乳房)。」
とされています。
長い説明なので要約すると、
「SPARCの存在はアブラキサンの組織分布のために重要で、各種の腫瘍で発現が認められる」
ということのようです。
私の恩師の石井源一郎先生(国立がん研究センター東病院臨床腫瘍病理部)、一緒に病理部で仕事をした川瀬晃和先生(浜松医科大学呼吸器外科)は、肺腺癌病巣において、腫瘍細胞ではなくその周りの間質細胞にある種の蛋白質が発現していると手術成績が悪いことを報告されました。
SPARCは、腫瘍間質で高発現していると、アブラキサンの効果が期待できることが分かっているようです。
以下は、進行膵癌にジェムザール+アブラキサン併用療法を行った際、腫瘍間質SPARC発現の多寡で治療成績がどうなるかを調べた報告です。
SPARCの発現が亢進している方が、生存期間が有意に延長しています。
肺癌領域でこういった検討がなされているかは知りませんが、アブラキサンが扁平上皮癌に対する効果が高いことを考えると、扁平上皮癌組織ではSPARCの発現が亢進しているのかもしれません。
2006年頃、腫瘍組織のERCC1発現状況と術後プラチナ併用化学療法後の生存に相関がある、との報告があり、当時は話題になりました。
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa060570
また、RRM1発現状況とジェムシタビン(併用)化学療法にも相関がある、とされてきました。
http://annonc.oxfordjournals.org/content/17/12/1818.full.pdf+html
それじゃあ、進行肺癌の患者さんを対象に、ERCC1とRRM1の発現状況に応じてレジメンを選択したらうまく行くんじゃないかということで臨床試験が行われましたが、これは残念ながらこけました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23690416
ですから、進行肺癌におけるSPARC発現が実地臨床にどの程度影響してくるかは未知数ですが、SPARC発現の多寡で層別化して、CBDCA+nabPTXによる術後補助化学療法の効果を見る、という臨床試験なら成り立ちそうです。
他にも、長い間これといった話題がなかった扁平上皮癌の世界に、俄かにトピックスが舞い込み始めました。
進行扁平上皮癌1st lineでのシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ、扁平上皮癌を含む進行非小細胞肺癌2nd lineでのドセタキセル+ラムシルマブが、いずれも生存期間を有意に延長したと、イーライリリー社のプレスリリースで報告されており、今年のASCOで報告されると目されています。
https://www.lilly.co.jp/pressrelease/2013/news_2013_033.aspx
https://www.lilly.co.jp/pressrelease/2014/news_2014_003.aspx