胸郭以外への放射線照射なら、bevacizumabは安全に使えるのか

先だって別府で行われた講演会に先立って、近くの基幹病院の先生からこんな質問がありました。

「骨盤骨に転移がある肺癌の患者さんがいるんだけど、こういう場合、bevacizumabを使っても大丈夫かなあ?」

とのこと。

幸い、大学の呼吸器内科で診療を受けている患者さんにそんな方がいらっしゃったので、症例提示させていただきました。

この方は、左骨盤骨や脊椎に多発病変を認め、初診時は腸骨がグズグズに溶けていました。

多発脳転移、多発肺転移も伴っていました。

幸いEGFR遺伝子変異が陽性で、EGFR-TKI内服、ゾレドロン酸点滴、疼痛部位への姑息的放射線照射、脳転移巣へのガンマナイフ施行にて、一旦小康状態となりましたが、約9ヶ月後に骨、脳、肺全ての転移巣が悪化しました。

脳に対してガンマナイフ再施行+全脳照射、骨に対して姑息的照射を行いましたが、どうにもこうにも追いつきません。

Cancer Board等ですったもんだの議論の末、CBDCA+PTX+bevacizumabを行うことになりました。

一昔前なら、

「脳転移巣があるのに、bevacizumabなんて使っていいの?」

となるところですが、PASSPORT試験によって脳転移患者さんにbevacizumabを使うことの安全性は確認されています。

http://jco.ascopubs.org/content/27/31/5255.full.pdf+html

一方、胸部放射線照射とbevacizumabを併用すると高率に気管食道瘻を発症するため、胸部照射歴のある患者さんにはできるだけ使わない、というのが一般的な認識だと思います。

本報告では、限局型小細胞癌に対するCBDCA+CPT+BV、もしくは局所進行非小細胞癌に対するCBDCA+PEM+BVの臨床試験時に、高率に気管食道瘻が発生し、試験中止になった経緯が書かれています。

http://jco.ascopubs.org/content/28/1/43.full.pdf+html

それでは、胸郭外の照射ではどうなのか、ということです。

最近、New England Journal of Medicineに以下のような論文が載っていました。

進行子宮頸癌に対して、CDDP+PTXもしくはTopotecan+PTXへbevacizumabを上乗せする、という2X2 designです。

結果として、bevacizumabを併用すると有意に生存が改善しました(生存期間中央値で17ヶ月 vs 13.3ヶ月)。

しかし、bevacizumab併用群220人中、13人(6%)に消化管もしくは泌尿器系の瘻を合併しました。

その他にも、血栓塞栓症が18人(8%)、消化管出血が4人(2%)、泌尿器出血が6人(3%)に認められました。

全体の約70%が過去にプラチナ併用放射線化学療法を受けている、とのことです。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1309748

肺癌骨転移に対する姑息照射と子宮頸癌に対する根治照射では照射線量が異なるかもしれませんが、他の癌腫の知見とは言え、知っておいて損はない知識だと思いました。

それでもあえて言いますが、今回の患者さんの脳転移巣には、bevacizumabが本当によく効いています。

多発脳転移の患者さんを対象に、安全性ではなくて有効性(腫瘍縮小)を検証するbevacizumab併用化学療法の臨床試験をやったら面白いんじゃないか、と思うくらいです。