HASAT(HAnshin-SAga T790M) study

 あけましておめでとうございます。

 今日は、EGFR遺伝子変異を血液検査で調べようという、いわゆる「リキッド・バイオプシー」の話題です。

 第3世代EGFR阻害薬使用前に、T790M変異の有無を確認するには再生検が必要、という話題をこのところしばしば取り上げていましたが、血液検査でT790M変異が検出できることがあり、再生検が不能、もしくは再生検で陰性であっても血液検査で陽性となることがあり、しかも再生検か血液検査のどちらかで陽性であれば第3世代EGFR阻害薬の効果が期待できる、ということが報告されています。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803995.html

 上記は、Rociletinib(CO1686)の臨床試験時に使用された「BEAMing法」のデータですが、今回取り上げる論文は、佐賀大学の先生のグループが開発されたMBP-QP法に関するものです。

 まだ要約しか参照できませんが、興味深い報告なので以下に記載します。

Monitoring EGFR T790M with plasma DNA from lung cancer patients in a prospective observational study

Naoko Sueoka-Aragane, Nobuyuki Katakami, Miyako Satouchi, Soichiro Yokota, Keisuke Aoe, Kentaro Iwanaga, Kojiro Otsuka, Satoshi Morita, Shinya Kimura, Shunichi Negoro, The Hanshin-Saga Collaborative Cancer Study Group

Cancer Sci, DOI: 10.1111/cas.12847

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.12847/abstract

 血漿中のDNAを用いて遺伝子変異を検出する手法は、「リキッド・バイオプシー」として広く知られている。EGFR T790M変異はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対して獲得耐性となった肺癌患者の半数に認められる。EFGRチロシンキナーゼ治療中に血漿中のDNAを用いて行うT790Mモニタリングシステムの有効性は、いわゆる「再生検」と同等と言えるところまでは確立されていない。今回、L858RもしくはExon 19欠失変異を有し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けた非小細胞肺癌患者を対象に、前向き多施設観察研究を行った。主要評価項目は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中に病勢進行を示した患者において、血漿DNAでT790Mが検出できるか否か、とした。遺伝子変異検出には佐賀大学医学部血液・呼吸器・腫瘍内科で開発した高感度・全自動のMBP-QP(Mutation-Biased PCR and Quenching Probe)法を用いた。日本国内の7施設から、89人の非小細胞肺癌患者が参加した。病勢進行となった患者の40%から、血漿中DNAにT790M変異が確認された。 L858RやExon 19欠失変異といったEGFRチロシンキナーゼ感受性の遺伝子変異は同様に40%の患者で認め、T790Mもしくは感受性変異のどれか、ということになると全体の62%で変異が検出された。 検体採取時期を?病勢進行になる前、?病勢進行確認時、?EGFRチロシンキナーゼ阻害薬中止時、?それ以降の4区分で見ていくと、T790Mは?10%、?19%、?24%、?27%で認められた。喫煙者、男性、Exon 19欠失変異陽性患者、新病巣が確認された患者では、血漿DNA中でT790Mが陽性となる患者が有意に多かった。MBP-QP法を用いた血漿DNA中T790M変異モニタリングは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中の肺癌患者の臨床経過を反映していた。血漿DNAを用いたT790M検出は、EGFR遺伝子変異型(Exon 19欠失変異)や病勢の進行と有意に相関していた。一方、再生検は病勢進行した患者の14%でしか施行できず、実地臨床において再生検で検体を得ることの難しさも示された。血漿DNAを用いたT790Mモニタリングは臨床経過を反映し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療後の治療戦略を考える上で有用な手法かも知れない。

 MBP-QP法について、佐賀大学の木村先生の記載を引用すると・・・(生物試料分析Vol.35 No.1 2012)

 「われわれは、微量の全血またはDNAから60-90分で点突然変異を全自動・高感度(3%)に点突然変異の検出を可能とするquenching probe(QP)法の開発を行ってきた。QP法の原理は、PCRで点突然変異含有領域の増幅→増幅産物に対する相補的な蛍光標識グアニン消光プローブ(Q-probe)の結合(変異産物に完全マッチするプローブ)→温度上昇による野生型からのQ-probe乖離・発光→さらなる温度上昇による変異型からのQ-probe解離・発光→蛍光発色温度の差異測定による点突然変異検出、である。われわれは、これまでにQP法を用い、BCRABL、JAK2、KRASなどの点突然変異検出系を構築してきた。最近、PCR反応を変異DNAを優先的に増幅するmutaition biased PCR(MBP)に置き換えることで、より高感度(0.1-0.3%)の全自動点突然変異測定系MBP-QP法の開発に成功した。より高感度になったため、ん細胞由来の血漿中に遊離しているDNAの点突然変異も測定可能ではないかと考えた。」

ということで、さらに極端に短くまとめると、

「微量の全血またはDNAから60-90分で全自動・より高感度(0.1-0.3%)に点突然変異の検出を可能とする方法」

ということになりますね。

 EGFR遺伝子異常を有する患者さんでは、しばしば状態が悪く、生検も危ぶまれる場合があります。

 現在私が拝見している88歳女性の患者さんも、気管支鏡で腺癌と診断がついたはいいものの、検査中の出血で十分な組織検体が取れなかったためかEGFR変異検査は3回再検しても核酸増幅不良となってしまい、今のところお蔵入りです。

 PS4のため、気管支鏡再トライをするか、ギブアップしてしまうか、悩んでいるところです。

 非喫煙者なので、このまま諦めるのはもったいないと思っています。

 こんなケースでは、T790M検出目的でなく、単にEGFR遺伝子変異検索目的でも、リキッド・バイオプシーを行いたいですね。