liquid biopsyの妥当性を検証する前向き試験

 いわゆるliquid biopsyの妥当性に関する論文報告があったようです。

 要約に目を通してみると、

・進行非小細胞・非扁平上皮癌の遺伝子変異検索に関する限り、EGFR Ex.19およびEx.21変異検出については組織検体を用いた検査と遜色ない

・採血した日から遺伝子変異検査結果が返ってきた日までの日数は、圧倒的に通常の検査法よりliquid biopsyのほうが早い(おそらく、採血後に生検検体採取のための検査が行われた患者さんや、生検検体がうまく取れずに何度も検査をした患者さんが含まれているせいだろうと思います)

・T790M変異検出時の陽性的中率、KRAS変異検出時の感度は他の変異に比べてやや劣る

とされています。

 

 liquid biopsyは遺伝子変異検索を非侵襲的に行うためのもの、という捉え方が一般的かもしれません。

 ただ、通常生検とは異なり、liquid biopsyの結果から「がん」という病気を確定診断する段階にはまだ至っておらず、今のところは生検組織検体を用いた診断を補完するもの、という位置づけに留まります。

 今後は、「非肺がん患者では、EGFR変異、KRAS変異(さらには、次世代シーケンサーで包括的に調べうるその他のドライバー遺伝子変異)が全く認められない」、という研究データが欲しいですね。

 そうすると、初回診断時のliquid biopsyでこれらの異常が検出された場合には病理診断が不要、というところまで診断概念が発展し、そうすると血液検査で肺癌と確定診断できるというとても大きなパラダイムシフトが起こります。

 発見された遺伝子異常に対する分子標的薬があれば、薬物療法の方針まで決まります。

 ここまで来ると、患者さんや病理診断医の負担がぐっと経るかもしれませんね。

 ただ、特定の遺伝子異常が見つからなかった患者さんでは、従来どおりの生検診断が必要になるでしょうし、こういった患者さんを集めて研究を進めると、発癌に関わるepigeneticな異常が新たに見つかるかもしれません。

 liquid biopsyを研究している先生方には、その辺まで意識しながら研究や学会活動を進めていただけると、臨床医としてはとても助かります。

Prospective Validation of Rapid Plasma Genotyping for the Detection of EGFR and KRAS Mutations in Advanced Lung Cancer.

Sacher AG, Paweletz C, Dahlberg SE, Alden RS, O'Connell A, Feeney N, Mach SL, Jänne PA, Oxnard GR.

JAMA Oncol. 2016 Apr 7, [Epub ahead of print]

背景:

 血漿中循環DNA(cell free FNA, cfDNA)は、組織検体を用いた遺伝子変異検索や再生検が抱える本質的な欠点(侵襲、不確実性)を克服し、迅速・非侵襲的な遺伝子変異検索を可能にする可能性を秘めている。

目的:

 血漿をもちいたデジタルPCR(ddPCR)による、EGFR Ex.19, Ex.21, T790M変異およびKRAS変異の迅速診断について、前向きに検証すること

方法:

 米国国立癌研究所包括がんセンターにおいて、2014年7月3日から2015年6月30日にかけて患者を集積した。進行非小細胞・非扁平上皮癌患者で、(1)新規に確定診断され、これから初回治療を開始する、あるいは(2)既にEGFR-TKIによる治療を受けて耐性化し、再生検を計画されている、のいずれかを満たす患者を対象とした。患者登録後、直ちに血漿サンプルを採取し、EGFR Ex.19, Ex.21, T790M, KRAS G12Xについて検索した。全ての患者は組織検体を用いた遺伝子変異検索のために生検が行われ、その結果をゴールデンスタンダードとした。血漿サンプル採取日から検査結果報告書が返ってきた日までの営業日数をターンアラウンドタイム(TAT)として測定した。

結果:

 180人の患者が参加した。62%が女性だった。年齢中央値は62歳、範囲は37-93歳だった。120人は新規に診断された患者、60人はEGFR-TKI治療後に耐性化した患者だった。遺伝子変異検索を行ったところ、EGFR Ex.19 / Ex.21変異陽性者が80人、T790M変異陽性者が35人、KRAS G12X変異陽性者が25人だった。血漿ddPCRを用いた遺伝子変異検索ににかかったTATの中央値は3日間(1-7日間)だった。組織検体を用いた遺伝子変異検索にかかったTATの中央値は、新規に診断された患者で12日間(1-54日間)、耐性化後に再生検が行われた患者で27日間(1-146日間)だった。血漿ddPCRと組織検体での遺伝子変異検索結果を比較したところ、陽性的中率はEGFR Ex.19変異で100%(95%信頼区間は91-100%)、EGFR Ex.21変異で100%(95%信頼区間は85-100%)、KRAS G12X変異で100%(95%信頼区間は79-100%)、T790M変異ではやや低く79%(95%信頼区間は62-91%)だった。感度はEGFR Ex.19変異で82%(95%信頼区間は69-91%)、EGFR Ex.21変異で74%(95%信頼区間は55-88%)、T790M変異で77%(95%信頼区間は60-90%)、KRAS G12X変異ではやや低く64%(95%信頼区間は43-82%)だった。EGFRやKRAS変異に関する感度は多発転移巣を有する患者や、肝転移、骨転移を有する患者で高い傾向にあった。

結論:

 血漿ddPCRは高い特異度で迅速にEGFRおよびKRAS遺伝子変異を検出し、治療法選択や再生検回避のために有用である。また、腫瘍遺伝子変異の空間的多様性(tumor heterogenity)のために、組織検索では遺伝子変異解析が困難な患者においても、血漿ddPCRを用いればT790M変異検出が可能かもしれない。