本ブログではときどき、EGFR遺伝子変異陽性患者さんに対するEGFR-TKI+抗VEGF抗体併用療法について触れてきました。
よく知られているのはエルロチニブ+ベバシツマブの併用効果を検証した国内第II相試験であるJO25567試験です。
論文化後に記載した過去のブログ記事のリンクを以下に記します。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e751839.html
このときは、
「第III相試験では検証されないようなので、実臨床で使うかどうかは各医師の判断に委ねられた」
と書きましたが、現在はNEJ026試験として第III相試験が進行中です。
ですから、少なくとも日本国内ではNEJ026試験の結果を待ってから実臨床で使うかどうかを判断するのが王道です。
エルロチニブとベバシツマブの製造元であるRocheが、以下に示すようなプレスリリースを行っています。
http://www.roche.com/media/store/releases/med-cor-2016-04-29b.htm
簡単に内容をまとめると、
「日本で行われたJO25567試験の結果、EGFR遺伝子変異陽性患者に対する初回治療としてエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法は非常に有望なので、EU域内では治療選択肢のひとつとして承認されるのが望ましい、とCHMPが推奨している」
ということです。
CHMPは、日本でいえば厚生労働省、米国で言えば食品医薬品局(FDA)に相当する機関と思われ、事実上EU域内ではエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法が実地臨床で用いられる道が開けたと考えていいでしょう。
プレスリリースの内容を拝見していてふと目についた一文は、
" The EU filing was based primarily on data from the pivotal phase II JO25567 study."
というくだりです。
一般に、我が国の臨床試験成果は欧米人からはすんなり受け入れられない傾向があります。
JO25567試験は日本人しか参加していない、それも第II相試験です。
この結果を以て欧米諸国の一般臨床が変わる、というのは、ちょっとあり得ないようなお話です。
第III相試験の結果を待つとか、欧米で追試して確認するとか、そういったプロセスを経るのが普通です。
そういった「常識」からすると、欧米人がこのJO25567試験を"pivotal"と表現するのは、極めて異例です。
JO25567試験は各治療群間でクロスオーバーをしない規定だったと聞いています(論文には記載されていませんが)。
そうすると、無増悪生存期間のみならず全生存期間においても優越性が証明されるのでは、と予想されますが、不思議なことにベバシツマブが関わる臨床試験では、無増悪生存期間が延長しても全生存期間が延長しないことが多いようです。
EUがこれから向かおうとしているように、慢性骨髄性白血病に対するイマチニブや、T790M陽性TKI既治療EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するOsimertinibよろしく、第II相試験の結果を以てエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法を本格的に実臨床に導入するのか、あるいはJO25567試験のmature OS dataを待つのか、はたまたNEJ026試験結果を見定めてから判断するのか。
今回のプレスリリースは、我々の在り方に一石を投じる出来事のように思います。