rociletinibの治療開発中止・・・

 Osimertinibと同時にNew England Journal of Medicine誌を飾ったもうひとつの第3世代EGFR阻害薬、Rociletinibが、ひっそりと退場することになりました。

 薬効もさることながら、2nd biopsyとliquid biopsyの在り方について非常に示唆に富む結果を提供してくれたcompoundなのですが、risk and benefitの点から、Osimertinibと並び立つほどのものではないとFDAも、さらには開発したClovis社自身も判断を下したようです。

 FDAはともかくとして、Clovis社にとっては、痛恨の出来事でしょう。

 BRCA陽性進行卵巣癌に対するPARP1 inhibitor, rucaparibの開発が順調に進めばいいのですが、こちらまでコケてしまったら、会社としては非常に大きなダメージを負うことになるでしょうね。

 ちょっと長いですが、興味のある方は下記の顛末をご覧になってみてください。

 効果・安全性の面で、OsimertinibとRociletinibを比較するのに、ちょうどよい内容だと思います。

FDA諮問委員会、肺がん治療薬の迅速承認を勧告せず(2016/5/11、ケアネットの記事より引用)>

 元の記事は、

  FDA Panel Denies Accelerated Approval of Lung Cancer Drug

  Nick Mulcahy / Medscape 2016/04/12

 肺がん患者のあるサブセットに対する実験的治療の経口薬、rociletinib(商品名:Xegafi、Clovis Oncology)が、FDA(米国食品医薬品局)の迅速承認を勧告されなかった。FDA抗がん剤諮問委員会(ODAC)は代わりに、規制当局の決定前に提出されることになっている進行中の第III相無作為化試験の結果を待つことを12対1の投票により採択した。

 rociletinibは、上皮成長因子受容体(EGFR)T790M変異のある非小細胞肺がん(NSCLC)患者への使用を目的とした第3世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。委員会は、EGFR標的療法が行われた転移性EGFR変異陽性NSCLC患者に対するrociletinibの早期試験のデータを精査した。

 データは2つの単群試験から成り、rociletinibは全奏効率(ORR)30%、奏効期間中央値8.9ヵ月を示した。

 多数のODAC委員が、この結果が競合薬剤のosimertinib(商品名:Tagrisso、AstraZeneca)に比べ見劣りすることを示唆した。Medscape Medical Newsが報じたように、osimertinibは2015年11月、同じ患者集団に対する治療薬としてFDAに迅速承認された。osimertinibはORR 59%、奏効期間中央値12ヵ月を示し、この患者サブセットに対する最初の承認薬となった。

 rociletinibのヒアリングの際、osimertinib は“触れたくない話題”であった、とODAC委員であるメイヨークリニック(ミネソタ州ロチェスター)のGrzegorz S. Nowakowski氏は語った。osimertinibはrociletinibに比べ、少ない毒性で高い有効性を示した。

 同じくODAC委員である、米国国立がん研究所メリーランド州ベセスダ)のArun Rajan氏は、「ほかの治療選択肢がなければ、違うほうに投票していたであろう」と述べた。

 rociletinibが、TKIの1次治療で進行した転移性EGFR変異陽性NSCLC患者に使用可能なほかの治療より優れているか否かについても懸念がある。ほかの治療にはnivolumab、pemetrexed、docetaxelの単剤またはramucirumabとの併用などがあり、いずれも全生存期間(OS)の改善を示している。しかしながら、こうした薬剤のEGFR T790M変異陽性NSCLCのサブグループに対する効果は検討されていない。

 迅速承認の資格を得るには、その薬剤が既存の治療薬よりも優れていることを示さなければならない、とFDAのmedical officerであるLola Fashoyin-Aje氏は指摘する。しかし、rociletinibに関するさらなるデータを待つという投票結果は、本薬剤の毒性と有効性、現在提出されているデータの質に対する委員会の懸念の表れでもある。

 rociletinibのORRデータには効果が確定していない患者も含まれていた、とFashoyin-Aje氏は述べ、ORRデータは効果が確定した患者のみをベースにすべきであると指摘した。

 Clovis社が提案する推奨用量(625mgを1日2回)に、臨床的および臨床薬学的データによる説得力のある裏付けがあるかという点にも疑問がある。委員会メンバーは、リスク(とくにQTc延長に関して)が許容できるものかについても懸念を抱いていた。

 ODAC委員は最終的に、EGFR-TKIおよびプラチナ2剤併用化学療法で進行したEGFR変異陽性NSCLCに対してrociletinibと単独の化学療法(pemetrexed、docetaxel、gemcitabine)とを比較した、多国間無作為化オープンラベル試験TIGER-3のrociletinibのデータを待つことを選んだ。

 以上の内容からは、既にOsimertinibが迅速承認された現状では、同系統の薬剤でless effective, more toxicなRociletinibまで迅速承認する必要はない、第III相試験の結果を見定めてからでも遅くはない、との思惑が見えます。

 開発を断念しなければならないほどの状態ではないですが、仮に承認までこぎつけたとしても上記の内容から、「二番手」「使いにくい」「OsimertinibよりもRociletinibを選ぶ理由が乏しい」という受け止め方をされてしまうでしょう。

 

 そこに持ってきてこの記事。

 Clovis Oncology、苦渋の決断です。

http://global.onclive.com/web-exclusives/clovis-ends-development-of-rociletinib-in-lung-cancer

<Clovis社はRociletinibの臨床開発を中止する決断を下した>

Jason M. Broderick @jasoncology Published Online: Friday, May 6, 2016

 Clovis社は、T790M耐性変異陽性の非小細胞肺癌に対する治療薬として有望と目されていたEGFR阻害薬、Rociletinibの臨床開発を中止した。Clovis社の声明によると、現在参照可能なデータからは、新規医薬品としての承認は出来ないと示唆するような通達をFDAから受け取ったとのことである。Clovis社は第III相試験であるTIGER-3試験を含む現在進行中のRociletinib関連の臨床試験への患者登録を全て中止し、EUにおけるRociletinibの通常承認手続きも見送ることにした。担当医から治療継続を勧められた現在治療中の患者に対しては、Clovis社より引き続きRociletinibが提供される。

 既報のRociletinib関連臨床試験のupdated dataが当初報告されたよりも低い奏効割合を示したこと、FDAの諮問機関であるODACにおいて委員がRociletinibの承認について否定的な見解を示したこと、Rociletinibと競合する主要な医薬品であるOsimertinibがFDAによって承認されたこと、といった経緯を経て、Rociletinib開発はこの最終的な局面に至った。

 「治療困難なこのT790M二次耐性化非小細胞肺癌において、Rociletinibは治療選択肢の一つとして有望なのだが、ことここに至り慙愧に堪えない」というのは、Clovis社のCEOであるPatrick J.Mahaffyのコメントである。ODACはCO-1686-008(TIGER-X)試験およびCO-1686-019(TIGER-2)試験におけるRociletinibの効果・安全性に関する初期の報告が、Rociletinibの迅速承認を勧告するデータとして適切かどうかを検討していたが、2016年4月の多数決では12対1で迅速承認を認めないとの結論になった。 ODACはまた、FDAがRociletinibを承認するかどうか判断するにあたっては、(今回Clovis社が中止することを決定した)第III相臨床試験であるCO-1686-020(TIGER-3)試験の結果のを確認することが必須であるとも勧告した。オープンラベル、多施設共同で行われたTIGER-3試験は、EGFR-TKIおよびプラチナ併用化学療法双方を受けた後に病勢進行に至ったEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者を対象に、Rociletinib単剤療法と単剤化学療法(pemetrexed, docetaxel, gemcitabineのうちどれか)を比較する臨床試験だった。TIGER-XおよびTIGER-2試験の統合解析では、T790M遺伝子変異陽性で、少なくとも1種のEGFR-TKI治療後に病勢進行に至った進行非小細胞肺癌患者325人に対するRociletinib(用量は500mg-750mg, 1日2回)の奏効割合は30.2%(95%信頼区間は25.2-35.5%)だった。625mg/回を服用していた患者群(n=170)では奏効割合32%(95%信頼区間は25-40%)、奏効持続期間中央値は8.8ヶ月、500mg/回を服用していた患者群(n=79)では奏効割合23%(95%信頼区間は14-34%)、奏効持続期間中央値は9.1ヶ月だった。安全性の面では、ODACはTIGER-XとTIGER-2試験に参加し、500mg/回、625mg/回、750mg/回、1000mg/回それぞれを1日2回服用した患者を評価対象とした。30%以上と頻度の高かった全Gradeの有害事象は、下痢、高血糖疲労、嘔気、食欲不振、QT延長、嘔吐だった。 10%以上と頻度の高かったGrade 3/4の有害事象は、高血糖とQT延長だった。Rociletinib減量は全患者の51%に対して成され、原因としては高血糖(22%)、QT延長(11%)が多かった。57%の患者は内服中断を経験し、その原因としては高血糖(22%)、QT延長(10%)、嘔気(10%)が多かった。Rociletinib治療中止に至ったのは全体の11%で、頻度が高かったのはQT延長(2%)、肺炎/肺臓炎(2%)だった。全体の47%の患者が重篤な有害事象を経験したが、その内訳は悪性腫瘍の進行(16%)、高血糖(8%)、肺炎(4%)だった。少なくとも1度は500msecを超えるQT延長を経験した患者は、全体の17%に上った。ODACの文書によると、Torsades de ointesを経験した患者を1人、突然死に至った患者を2人(発症日は内服開始から4日目、13日目)含んでいた。

 FDAによる優先審査対象となったRociletinib臨床開発初期のrolling登録は2015年7月に完了した。しかし、登録終了から90日目に予定されていた会議において、TIGER-XおよびTIGER-2試験における奏効割合のupdated dataが報告され、それを受けたFDAはODACのヒアリングまでに追加のデータを提出するように要求した。当初FDAに提出されたデータによると、T790M陽性(n=243)の患者においては、53%の奏効割合、85%の病勢コントロール割合を認めた。TIGER-X試験は、500-1000mg/回の用量範囲内でrociletinibを投与された456人のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者を評価対象とした。参加した患者の年齢中央値は63歳、10%は糖尿病の既往があり、41%は中枢神経系への転移を有していた。前治療レジメン数の中央値は2であり、約半数(44%)の患者に少なくとも1種のEGFR-TKI使用歴があった。2015年4月27日のdata cut offの段階では、測定可能病変を有するT790M陽性患者で、500-625mg/回のrociletinibを服用したもの(n=270)の無増悪生存期間中央値は8.0ヶ月だった。治療開始前に中枢神経系転移を有していた患者では、無増悪生存期間中央値は10.3ヶ月だった。Clovis社は、その後の無増悪生存期間のupdated dataを公表しなかった。安全性においては、500mg/回投与群における高頻度の有害事象として高血糖(35%)、下痢(33%)、疲労(29%)、食欲不振(15%)、筋けいれん(14%)、体重減少(10%)、嘔吐(8%)が挙がった。Grade 3のQT延長は2.5%に認められた。500mg/回投与群では、間質性肺炎発症例はなかった。治療中止に至った有害事象は500mg/回投与群の2.5%に認められた。Grade 3/4の高血糖は50mg/回投与群の17%に認められた。高血糖を補正するために、血糖値モニタリングと治療アルゴリズム導入が行われ、必要に応じて経口血糖降下薬が使用された。2014年9月にこれらの措置が取られるまでには、Grade 3/4の高血糖は22%に認められた。血糖モニタリングと治療アルゴリズムを導入した後は、Grade 3/4の高血糖は8%まで低下した。単アーム第II相試験であるTIGER-2試験はEGFR T790M変異陽性患者における二次治療としてのrociletinibの有効性と安全性を検証するものだった。