liquid biopsyによるOsimertinibの効果予測

 先日のランチョンセミナーの最後、標記の内容がちょっとひっかかったので、調べてみました。

 組織検体と血清検体におけるT790M検索結果の一致率は70-80%程度、組織検体の結果はかなり正確に治療効果予測に役立つものの、血清遺伝子タイピングは結果が陰性だった場合にはあまりあてにならない、ということでした。

 しかし、血清遺伝子タイピングで陰性と判定された患者さんたちのデータが良すぎる上に、なぜ良いのかの理由がさっぱりわかりません。

 今回の検討で奏効割合、無増悪生存期間いずれも最良だったグループは、奇しくもT790M陰性かつEGFR感受性変異陰性のT790M不明群(奏効割合64%、無増悪生存期間中央値15.2ヶ月)でした。

 ・・・だったらもう、別にT790Mなんて調べなくてもいいじゃん、という気分になります。

 そうは言いながら、まず血清タイピングでT790Mを調べて、陰性だったときに初めて腫瘍生検を試みて確認する、というアプローチは、分かりやすくていいように思います。

ELCC 2016 abst. #135O-PR:進行非小細胞肺癌患者におけるOsimertinib効果予測のための血清遺伝子タイピング

 Oxnard et al.

背景:

 Osimertinibは、既存のEGFR-TKI治療後に病勢進行を来たし、T790M変異陽性が確認された進行非小細胞肺癌患者に対して、最近FDAが認可した選択的、非可逆性のEGFR-TKIである。第I相試験であるAURA試験において、血清を用いた遺伝子タイピングによりOsimertinibの治療効果を予測できるかどうか検討するために、参加患者の血清がサンプリングされていた。

方法:

 AURA試験に参加した既治療非小細胞肺癌患者(Osimertinib投与量は20-240mg/日)で、Exon 19もしくはExon 21感受性遺伝子変異が陽性で、さらにcentral laboで腫瘍組織と血清の両方、あるいはどちらかのT790M変異状態が確認されたもの(n=308)が調査対象となった。奏効割合と無増悪生存期間中央値を、腫瘍組織と血清の遺伝子タイプグループ別に評価した。2015年5月1日をもってデータカットオフとした。

結果:

 腫瘍組織と血清の両方でT790M変異を評価できたのは216人だった。T790M検査結果が腫瘍組織と血清で一致したのは70%だった。血清でEGFR感受性変異が確認された137人に限って解析すると、一致率は80%まで向上した。奏効割合と無増悪生存期間中央値は、腫瘍組織でT790M陽性と確認された179人では62%、9.7ヶ月、血清でT790M陽性と確認された167人では63%、9.7ヶ月だった。腫瘍組織でT790M陰性と確認された58人では26%、3.4ヶ月だったのに対して、血清でT790M陰性だった104人では46%、8.2ヶ月と予想外に良好だった。血清におけるEGFR感受性変異検出をコントロールにおいて血清でT790M陰性だった患者を2群に分けて検討すると、T790M陰性群(T790M陰性かつEGFR感受性変異陽性)では38%、4.4ヶ月、T790M不明群(T790M陰性かつEGFR感受性変異陰性)では64%、15.2ヶ月と、前者は治療効果不良、後者は治療効果良好だった。

結論:

 血清遺伝子タイピングによりT790M耐性変異の検出が可能で、T790M陽性腫瘍における侵襲的生検検査を回避することが出来る。一方で、血清遺伝子タイピングでT790M陰性だった患者における予想外に良好な奏効割合は、本検査による偽陰性を反映しているのだろう。したがって、血清遺伝子タイピングでT790M陰性だった患者に対しては、実際にはT790M陽性でOsimertinibの適応がある患者を抽出するために、組織生検施行が勧められる。血清におけるEGFR感受性変異検査結果は、T790Mの偽陰性を見極めるうえで参考になる。今回得られた結果は、T790M耐性変異検出においては血清遺伝子タイピングを組織学的検査に先立って行う手順を支持している(血清で陰性だったときに、確認のために組織学的検査を行うとよい)。