術後補助化学療法 TS1 vs UFT (JCOG0707)

 手術を受ける患者さんが高齢であったり、合併症を抱えていたりで、このところ大分大学病院で非小細胞肺癌の根治手術を受けた患者さんに術後補助化学療法が行われる機会はあまりありません。

 一般にこうした術後補助化学療法では、IB期まではUFT内服2年間、IIA期以降ではシスプラチン+ビノレルビン併用療法が行われることが多いです。 

 術後UFT内服療法は日本ならではのガラパゴス化治療のひとつですが、そのUFTに対して、TS1の優越性を検証するための臨床試験として、JCOG0707試験が知られています。

 試験名にあるように計画立案は2007年7月、患者登録開始は2008年11月、患者登録終了は2013年12月で、最終的な結果が公表されるのは2019年と目されています。

 わが国では珍しい、約1000人の患者さんが参加した大規模な臨床試験ですが、わが国の手術成績が優秀であるがゆえに治療群間で生存の差を検出しがたい、という問題が中間解析時点で明らかになったようで、途中から主要評価項目が全生存期間から無再発生存期間にきりかわったようです。

 今年の米国臨床腫瘍学会年次総会で安全性データが報告されるようですので、abstractを抜粋します。

Safety and compliance data of the phase III study of adjuvant chemotherapy for patients (pts) with completely resected, pathological (p-) stage I (T1 > 2 cm) non-small cell lung cancer (NSCLC): A Japan Clinical Oncology Group Trial, JCOG0707.

2016 ASCO Annual Meeting

Poster Session, Lung Cancer?Non-Small Cell Local-Regional/Small Cell/Other Thoracic Cancers

Abstract Number: #8522

背景:

 日本人の完全切除後、病理病期I期(ただし、T1のうち腫瘍最大径2cmを超えるもの)の非小細胞肺癌患者では、術後UFT内服療法が生存期間を延長することが知られている。今回は、同じ対象について、UFTに対するTS1の有効性を検証する臨床試験を行った。

方法:

 リンパ節郭清を含む完全切除後の病理病期I期(T1-2N0M0, ただし、腫瘍最大径が2cmを超えるもの)非小細胞肺癌で、術後56日以内に参加登録可能な患者を対象とした。A群(UFTを250mg/?/日で2年間内服)とB群(TS1を80mg/?/日で2週内服、1週休薬を1年間)に患者を割り付けた。当初、主要評価項目は全生存期間としていた。2013年1月に行われた中間解析において、両群を合わせた全生存期間は予測よりも良好で(4年生存割合は91.6%で、一方で想定されていた5年生存割合は70-76.5%だった)、両群間の差を検出するには検出力不足と判定された。そのため、プロトコール改定が行われ、主要評価項目は無再発生存期間に変更された。A群の5年無再発生存割合を75%と仮定して、A群に対するB群の優越性をハザード比0.75以下で有意とする設定で、片側検定でtype I error 0.05、検出力79%として必要患者数を算出したところ、960人となった。

結果:

 2008年11月から2013年12月までに、963人の患者を登録した。年齢中央値は66歳(33-80歳)、男性が58%、腺癌が80%、T1 46%、T2 54%だった。2人のみ片肺全摘を受けていた。2015年5月のデータカットオフ時点で、A群の94%、B群の100%がプロトコール治療を終了していた。Grade 3以上の毒性(血液毒性 / 非血液毒性)はA群で15.7%(1.5% / 14.5%)、B群で14.4%(3.4% / 11.9%)だった。A群の患者の65%が1年を超えてUFTを内服しており、一方でB群の患者の69%が6ヶ月以上TS1を内服していた。プロトコール治療中に4人の患者(A群で1人、B群で3人)が、おそらくは心血管イベントによって死亡していた。2015年9月に行われた2回目の中間解析において、効果安全性評価委員会は各患者の治療内容を公開した上で患者の経過観察、追跡調査を行うように勧告した。全体の2年全生存割合は97.3%、2年無再発生存割合は89.6%だった。

結論:

 術後UFT療法、TS1療法のいずれも忍容性は良好であった。