PETでドライバー遺伝子変異がわかる?

 我々の間では再生検の話が盛り上がっています。

 再生検によって次の治療への糸口をつかみたい、という患者さん・ご家族・医療者の切なる思いがこれを後押ししていますし、実際に再生検のメリットを享受している患者さんが、身近なところで当たり前に出てきています。

 治療手段が尽き、すでに終末期医療の方針となっていた患者さんが、再生検による一発逆転を目指して、気管支鏡検査を受けるといった例も出てきています。

 一方で、再生検による診断がうまく行かないこともしばしばです。

 その患者さんをいま苦しめている病巣はどこなのか、適切に評価して、そこを生検しなければなりません。

 再生検の部位や検査法も様々で、副腎や肝をEUS-FNAで穿刺したり、骨盤周囲の筋組織をCTガイド下で針穿刺したり、中には全身麻酔下の肝切除を受けようとしている患者さんすらいます。

 また、研究目的であれば、リキッドバイオプシーですらどこの医療施設でも行うことが可能です。

 こうして考えていくと、再生検というのは、単なる遺伝子変異検索の手法としてだけではなく、生検技術の進歩、遺伝子検索技術の進歩といった、様々な分野の技術革新が基盤にあって、その恩恵が一地方にまで波及していることが実感できます。

 今回取り上げるお題は、生検やリキッドバイオプシーをさらに超えて、画像診断で遺伝子変異検索を補完しよう、という試みです。

 「代謝」を画像診断で見ることが出来るようになり、放射線画像診断と遺伝子変異を結びつけることがある程度可能になっているようです。

 まだ萌芽期の技術のようですが、とても興味深いですね。

AAPM 2016: Somatic Mutations and PET-Based Radiomic Features in Non?Small Cell Lung Cancer

By The ASCO Post

Posted: 8/2/2016 12:01:08 PM

Last Updated: 8/2/2016 12:01:08 PM

 PET検査からのビッグデータを解析する最先端の手法により、ドライバー遺伝子変異により発生した肺腫瘍を定量するための追加情報が得られるようになった。最も効果的な治療を選択するうえで助けとなるこの手法は、約350人の患者を対象とした研究でまとめられ、Yipらによりthe 58th Annual Meeting of the American Association of Physicists in Medicine (AAPM) において、Presentation MO-DE-207B-1として発表された。

 遺伝子学の発展により、原発性肺癌の大半を占める非小細胞肺癌はしばしばEGFRやKRASといった特定の遺伝子の変異によって引き起こされることが明らかとなった。非小細胞肺癌患者のうち約15%がEGFR遺伝子変異を伴い、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬により治療効果が得られることが多い。そのため、非小細胞肺癌の患者がこれらの遺伝子変異を有するかどうか調べることは、最も効果的な治療を選択する上で決定的に重要である。

 PET検査はグルコース代謝の評価のために用いられ、肺癌患者のマネジメントには必須の検査である。これまでの研究により、腫瘍のある種の生物学的、遺伝学的多様性をPET検査で捕らえられることがわかってきた。

 研究者は、ビッグデータ・ラジオミクス−PET検査から包括的な臨床情報を抽出する手法−を用いて、約350人の非小細胞肺癌患者を対象に、ラジオミクスデータとEGFRもしくはKRAS遺伝子変異の関連性を調べた。遺伝子変異は腫瘍組織生検検体を用いた、一般臨床で行われるのと同じ検査で確認した。今回の研究で、ラジオミクスデータにより得られる腫瘍組織の外観は、EGFR遺伝子変異と関連していることがわかった。EGFR遺伝子変異により、ラジオミクスで定量可能な代謝・形態的特徴が引き起こされていることが示唆された。

「我々の最終的な研究目標は、PETやその他の画像診断技術を用いて、生検による遺伝子検査を補完するような非侵襲的な画像診断バイオマーカーを開発することだ」

「生検組織を用いた遺伝子変異検索の補助手段としてのPET検査について、さらに研究を進めて、理解を深めなければならない」

とHugo Arets先生は話している。

「画像診断は、他のがんセンターと同様に、治療目的で我々のクリニックにやってくるあらゆる患者・がん種に対して一般的に行われている。」

「今回の研究結果は、既に標準的な診療になっているPET検査が、EGFR遺伝子変異を有する患者を同定する補助手段となり、肺癌個別化医療において有益な情報をもたらす可能性がある」

とYip先生はコメントしている。

 今回の発表者たちは、いまはPET検査によるラジオミクスと、CTやMRIといった他の検査から得られる情報を統合して、肺や脳の悪性腫瘍の遺伝子変異同定の精度を上げる取り組みをおこなっているようだ。