短期集中型・少分割胸部放射線照射

 III期までは根治の可能性がある病態としてcurative intent(治癒を目指す)の治療を、IV期では治癒不能の病態としてpalliative intent(症状緩和・延命を目指す)の治療を提供するのが基本で、両者の間にはとても深い溝がある。

 今回の報告では、病期II期もしくはIII期のPS不良(≒元気のない)非小細胞肺癌患者を対象にした短期集中少分割胸部放射線照射療法について扱っている。

 従来、この患者群には前後対向二門の古典的胸部放射線療法を6週間かけて行っていたが、その治療成績たるや、5年生存割合は5%程度と惨憺たる有様だった。自分の経験的にも、放射線治療単独療法でその後いい人生をたどった患者を診た記憶がない。化学療法を併用することにより治療成績の向上が見込まれるので、若くて元気な人にはプラチナ併用化学療法を、お年寄りにはカルボプラチン分割投与療法を併用することが多いのだが、元気のない人にはリスクが高くて化学療法ができない。今後は免疫チェックポイント阻害薬の併用などが試みられるだろう。そうした中で、短期集中少分割胸部放射線療法というのは全く新しいアプローチであり、非常に興味深い。1回線量を多くして短期間で治療を終わらせるという手法は、小細胞癌における加速過分割照射(1日に2回照射して治療期間を短縮)や体幹部定位照射(1回線量を多くして、多方向から病巣に線量を集中させて、治療期間を短縮)の成功を見ると、期待を持ってしまう。毒性が高まっていないかどうかが気になるところだが、今回の報告ではその点もクリアしているようである。

 問題は、第III相ランダム化比較試験であるにも関わらず、今回の報告は60人規模の、それも中間解析である点である。全生存期間を主要評価項目とした比較試験で、この規模の症例数である以上は少分割照射法の優越性を検証するための試験であるはずだが、中間解析段階で主要評価項目は同等で(ということは、次の段階に進むべき最低限の基準をクリアしたに過ぎないということ)、優越性が示される見通しは極めて乏しい。発表者もそれを見越して、

 「仮に主要評価項目の優越性を示せなくても、毒性や治療期間の点で有利なら、少分割照射法が優れている」

的なコメントを残しているようだが、それは間違っていると思う。

 本当にそう思うなら、非劣勢試験で検証するべきである。

 主要評価項目も達成されていないのに、治療者の時間・労力が節約できるからといった判断基準でなし崩し的に臨床導入をするべきではない(実際にはそういった例は少なくないが)。

 QoLを主要評価項目として再検証するほうが気が利いている。

 また、古典的照射と同等の効果が見込めるといっても、すでに述べたとおり古典的照射自体の成績がお粗末なだけに、あまりうれしくない。

 治療コンセプトは面白いのに、実際にはあまり生存期間延長効果が期待できなさそうな点と、臨床試験に関する研究者の哲学がゆがんでいる点が残念である。

ASTRO 2016: Hypofractionated Radiation Therapy May Halve Treatment Time for Lung Cancer Patients With Poor Performance Status

By The ASCO Post

Posted: 9/29/2016 11:33:45 AM

Last Updated: 9/29/2016 11:33:45 AM

 標準治療である手術や化学放射線療法を受けられないII期もしくはIII期の非小細胞肺癌患者を対象に、少分割胸部放射線療法を行ったところ、古典的な胸部放射線療法と同等の全生存割合、無増悪生存割合が得られ、重篤な有害事象の頻度は少なく、治療期間は短く済んだと報告された。

 世界的に非小細胞肺がんはがん関連死の原因疾患の筆頭であり、死亡した人の多くは診断時点でIII期だった患者比率が高いことに関連している(といのはちょっと言い過ぎのような気がする)。さらに、他の医学的要因やPS不良などの理由により、III期であっても標準治療である化学放射線療法が受けられない患者がいる。

 今回の第III相臨床試験では、少分割胸部放射線照射と古典的胸部放射線照射を比較するに当たって全生存期間を主要評価項目としているが、発表者は合わせて無増悪生存期間、毒性、QoL、治療コストも副次評価項目として評価している。

 本臨床試験では、テキサス州内の15の施設から患者を集積した。II期もしくはIII期の非小細胞肺癌患者で、手術や化学放射線療法の治療対象外である患者を対象とした。

 今回の中間解析では60人の患者を対象とした。平均年齢は68歳だった。53人(全体の88%)はIII期で、7人はII期だった。53%の患者は扁平上皮癌で、残りの47%の患者は腺癌だった。患者は古典的照射と少分割照射に無作為に割り付けられた。古典的照射群(28人)は30−33回の照射で計60-66Gyの線量を照射され、少分割照射群(32人)は15回の照射で計60Gyの照射を受けた。

 追跡期間中央値24ヶ月の段階で48人の評価可能患者について解析したところ、全生存期間・無増悪生存期間のいずれにおいても、統計学的に有意な差は認めなかった。カプランマイヤー法による解析では、どちらの治療群においても生存期間中央値は14ヶ月で、無増悪生存期間中央値は11.5ヶ月だった。

 生存割合に差がない一方で、有害事象については相違があった。少分割照射群ではGrade3の毒性に至った患者が少なく(古典的照射群では10人、少分割照射群では6人)、低酸素血症により死亡した患者も少なかった(古典的照射群で2人、少分割照射群で1人)。放射線治療に関連したGrade 4の有害事象は両群ともに認めなかった。

 以下、発表者のコメント。

 「こうした患者に古典的な胸部放射線照射を行っても無病生存期間は限られており、治療戦略の転換・パラダイムシフトが必要だ」

 「われわれは過去に行った第I相臨床試験において、1日線量を増やしてイメージガイド下に高精度照射を行うことで、化学療法なしでも化学放射線療法と同等の生存期間延長効果を担保でき、さらには治療期間を半分に短縮することによりQoLも改善する可能性があることを示した。少なくとも、古典的な胸部放射線照射と比較して、忍容性は同等であることを示した。」

 「技術革新により、1回の治療でより高線量の照射を安全に、短期間に行えるようになり、非小細胞肺癌患者の生存期間やQoLの改善につながるかもしれない」

 「今回の研究で少分割照射群に割付られた患者は3週間で治療を終えることができ、一方で古典的照射群は治療を終えるまでに6週間が必要だった。将来、本研究が完遂した時点でも、少分割治療群の毒性は増加しないだろう。少分割照射療法が治療期間を半分に短縮し、毒性の増強がなく、腫瘍制御効果や生存期間が同等であれば、治療パラダイムの変化がもたらされるかもしれない」