もういっちょ定位照射

 9月の下旬に以下リンクのような体幹部定位照射による成績向上の記事を書いたが、今回取り上げる報告の方が、より直接的で分かりやすい。

 後方視的な検討とはいえ、早期肺がんに対する体幹部定位照射の位置づけはほぼ定まったといっていいのではないだろうか。

 実地臨床でもよく利用されており、適切な患者選択が出来ていれば治療成績はすこぶる良い。

 ただ、この「適切な患者選択」というのがキモであり、誰にでも勧められるというものでもない。

 原則は臨床病期I期の患者に限られるし、病理診断をしないままに体幹部定位照射をして万が一再発した場合には、再発部位が生検困難な場所にあれば、分子標的薬で治療可能かどうかが判断できない状況に追い込まれかねない。

 先日外来で拝見した患者は80歳過ぎの女性だが、これといった合併症がない元気な方だったので、IA期だが手術をお勧めした。

 一方で、来週拝見する予定の方は、70台の男性だが脳梗塞の後遺症で右の完全片麻痺と失語、左の不全片麻痺があるIA期である。

 この方の場合、気管支鏡による確定診断をするかどうかに悩んでいるが、治療は体幹部定位照射をお勧めしようと思っている。 

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e871177.html

ASTRO 2016: Advances in Radiation Therapy Have Improved Survival Rates for Patients With Early-Stage Lung Cancer

By The ASCO Post

Posted: 9/28/2016 1:23:40 PM

Last Updated: 9/28/2016 1:23:40 PM

 I期の非小細胞肺癌患者のほとんどが手術を受ける一方、手術に耐えられない、あるいは手術以外の治療を希望する患者には放射線治療が勧められる。1990年代に開発された体幹部定位照射は、画像イメージング技術を駆使して腫瘍病巣に照射野を絞りこみ、周囲の正常組織へのダメージを小さくとどめることが出来る。正常部分を温存することは、心臓や肺を含む大切な臓器の近くに腫瘍病巣を抱え込んだ非小細胞肺がん患者にとってはとりわけ重要である。

 近年の体幹部定位照射の普及により非小細胞肺がん患者の予後に変化が出ているのではないかとの予測のもと、退役軍人がん登録システムを用いて、2001年から2010年にかけてI期非小細胞肺がんと診断された14000人以上を抽出した。その中には、初回治療として放射線治療を受けた3012人を含んでいた。この中には、体幹部定位照射を受けた468人(SBRT群)と、古典的な前後対向二門照射を受けた1203人(CRT群)が含まれていた。各患者データとして、照射計画、背景疾患、治療による毒性、PETによる全身検索の有無、生存データをデータベースから抽出した。

 主要評価項目は、放射線治療から4年後の生存割合と無病生存割合とした。SBRT群とCRT群について、全生存期間と無病生存期間に関するハザード比を算出して比較した。また、患者背景がどのように生存に関わっているか、多変数解析を行った。

 患者の平均年齢は72歳で、98.6%が男性だった。診断時点では、89.4%の患者は喫煙者もしくは喫煙経験者だった。50.5%はIA期の非小細胞肺がんと診断され、41.5%は扁平上皮がんだった。

 平均生存割合は、年次が進むごとに、言い換えればSBRTが普及するごとに改善していた。4年生存割合は12.7%から28.5%に、無病生存割合は33.9%から50.4%になり、この間に放射線治療の中でSBRTが占める割合は4.7%から60.3%に増加していた。

 4年間の追跡期間では、生存割合、無病生存割合のいずれにおいても、SBRT群がCRT群に比べて有意に優れていた。カプランマイヤー法によれば、SBRT群、CRT群の4年生存割合はそれぞれ37.0%、18.8%だった(ハザード比0.60、p<0.001)。この生命予後改善効果は無病生存割合の改善によるところが大きく、SBRT群、CRT群の4年無病生存割合はそれぞれ53.2%、28.3%だった(ハザード比0.39、p<0.001)。

 多変数解析では、SBRTはCRTに比べて、約30%の死亡リスク改善効果があった(ハザード比0.72、p<0.001)。さらに、高齢であるほど(ハザード比1.01/歳、p=0.022)、チャールソン合併症スコアが高いほど(ハザード比1.52, p<0.001)、病期が進むほど(ハザード比1.39、p<0.001)予後不良だった。興味深いことに、PET検査施行の有無や治療を受けた時期は予後には影響しておらず、放射線治療を受けた患者の4年生存割合が2倍以上に改善したことは、体幹部定位照射の普及によるところが大きく、PET検査の普及や他の治療技術の向上によるものではないようだった。