既治療非小細胞肺がんへのS-1はドセタキセルに「劣らない」

 今年の欧州臨床腫瘍学会は注目される発表が多かったようだが、まずは我が国の実地臨床へのインパクトが大きいものとして、あえてS-1を取り上げたい。

 S-1は内服の殺細胞性抗腫瘍薬でありながら有効な薬であり、これまでは初回化学療法での治療開発が主だった。

 ぱっと思いつくのは、進行・再発非小細胞肺がんに対する初回化学療法としてのシスプラチン+S-1併用化学療法(CATS trial)、カルボプラチン+S-1併用化学療法(LETS trial)、局所進行非小細胞肺がんに対するシスプラチン+S-1+根治的胸部放射線療法(九州がんセンターの第II相試験)といったところだ。

 一方で、S-1に関する二次治療以降の大規模臨床試験で、パッと思い浮かぶものはない。

 術後補助化学療法はASCO2016で安全性データは報告されたものの、生存期間延長効果については結論待ちで、まだまだ時間がかかるだろう。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e854713.html

 実地臨床でのS-1の位置づけはどうかというと、足元ではあまり出番がない。

 シスプラチン+S-1併用化学療法は、実際に行われているのをほとんど見たことがない。

 カルボプラチン+S-1併用化学療法は、扁平上皮癌でしばしば使われているけれど、最近ではカルボプラチン+アブラキサン併用療法に押されがちなように見える。

 局所進行非小細胞肺がんに対する化学療法レジメンは個人の好みによって決まることが多いが、大分大学病院ではもっぱらWJOG trialの結果に基づいてカルボプラチン+パクリタキセル併用が多いようである。

 術後補助化学療法では、今のところ実地臨床でS-1が使われているのを見たことがない。

 じゃあどの場面で一番使われているかというと、初回治療、二次治療、三次治療・・・と進んで、いよいよエビデンスが乏しくなった局面における単剤治療においてである。

 個人的には、

 「苦し紛れのS-1」

といった感じで捉えていたが、意外とこれが有効なことがある。

 自分のデータベースを紐解いてみると、S-1を含まない標準治療を始めた患者がS-1単剤治療にたどり着くまでには数次の治療を経ていることが多く、それでもある程度の期間は治療を続けることができて、結果としてこの患者集団の生存期間は長くなっていた。

 今回報告されたEAST-LC試験の結果は日経メディカルの記事によくまとめられているので、そこから要点を抜粋して記載する。

 このところ、さまざまな臨床試験で、二次治療の標準として比較対象に上げられるドセタキセル単剤療法であるが、S-1単剤治療がこのドセタキセルに「少なくとも劣らない」と確認された。

 世界的にどうかはともかくとして、我が国ではS-1がドセタキセルにとってかわる可能性すらあると思われる。

 いや、むしろ有効な治療選択肢が増えた、とか、これまで実地臨床で汎用されていたS-1単剤治療にお墨付きがついた、とか、そんな風に捉えるべきだろう。

 

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 S-1単剤療法は、非小細胞肺がんで治療暦がある患者を対象とした2件の第II相試験で有効性と安全性が確認されている。これらの試験では、S-1は治療暦がある非小細胞肺がん患者に対す標準治療のドセタキセルと同等であることが示唆された。

 EAST-LC試験の主な目的は、治療歴がある非小細胞肺がん患者を対象に、ドセタキセル単剤治療に対するS-1単剤治療の非劣性を証明することだった。主要評価項目は全生存期間とした。副次評価項目は無増悪生存期間、治療成功期間、奏功割合、重度の有害事象の発生割合などとした。

 対象は、IIIBまたはIV期の非小細胞肺がん患者で、前治療で1-3レジメンの化学療法(プラチナ製剤を含む化学療法を1レジメン以上含む)を受けている患者とした。ゲフィチニブやエルロチニブの投与の有無は問わなかったが、過去にドセタキセルやフッ化ピリミジンの投与を受けていた患者は除外した。PSは2以下とした。

 S-1 80-120mg/日を28日間投与し、その後14日間休薬、6週毎に繰り返す群(S-1群)、またはドセタキセルを日本では体表面積当たり60mg、日本以外の国では体表面積当たり75mgの用量で3週毎に投与する群(ドセタキセル群)のいずれかに、患者をランダムに割り付けた。

 日本、香港、中国、台湾、シンガポールが本試験に参加し、2010年7月から2014年7月までに1,154人が登録され、最終的にS-1群570人、ドセタキセル群577人で有効性解析を行った。追跡期間中央値は30.75カ月だった。

 S-1群とドセタキセル群において、年齢中央値はともに62歳、非扁平上皮癌の割合はそれぞれ81.8%と83.0%、2レジメン以上の前治療を受けた患者は両群で約38%だった。前治療におけるEGFR-TKIの使用は、S-1群23.4%、ドセタキセル群22.8%だった。日本人患者は、S-1群357人(61.9%)、ドセタキセル群358人(62.8%)となった。

 全生存期間中央値は、S-1群12.75ヶ月、ドセタキセル群12.52ヶ月、ハザード比0.945(95%信頼区間:0.833-1.073)、p=0.3818となり、ハザード比の95%信頼区間上限が事前に設定していた非劣性マージンである1.2を下回ったため、S-1のドセタキセルに対する非劣性が証明された。

 サブグループ解析では、生存期間中央値(MST)は日本と日本以外の国で同様であることが示された。日本のMSTは、S-1群13.4カ月、ドセタキセル群12.6カ月、ハザード比は0.922(95%信頼区間:0.789-1.079)、日本以外の国でのMSTはそれぞれ10.8カ月と12.1カ月、ハザード比1.056(95%信頼区間:0.854-1.307)だった。

 PFSも両群で同様の結果となり、PFS中央値はS-1群2.86カ月、ドセタキセル群2.89カ月、ハザード比1.033(95%信頼区間:0.913-1.168)となった。

 試験担当医師の判定による奏効率は、S-1群8.3%、ドセタキセル群9.9%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ45.4%と44.7%だった。

 グレード3以上の発熱性好中球減少、好中球減少の発現は、S-1群と比べてドセタキセル群で頻度が高く、S-1群ではそれぞれ0.9%と5.4%だったのに対し、ドセタキセル群は13.6%と47.7%だった。主な非血液毒性では、下痢(全グレード)がS-1群の37.2%、ドセタキセル群18.2%、口内炎がそれぞれ23.9%と14.5%、食欲低下が52.6%と37.9%に発現した。