pembrolizumab一次治療に対するみんなのコメント

 進行非小細胞肺がんに対する一次治療でpembrolizumabがプラチナ併用化学療法を凌駕したのはとてもインパクトが大きな出来事だが、実際に2016年欧州臨床腫瘍学会後はいろんな人がコメントを発している。

 非小細胞肺がんの薬物療法の領域で、実地臨床に大きな影響を及ぼしたものは、新世紀に突入してから大きく分けて3つの潮流があると思う。

 1) ドライバー遺伝子変異を有するがんに対する小分子化合物

 2) 血管増殖因子あるいはその受容体を阻害する抗体医薬

 3) 免疫チェックポイント阻害薬

 

 1)は単剤で効果を発揮し、毒性は軽微で患者のQoLは高く維持されるが、がん側にドライバー遺伝子変異の存在が必須である。

 今のところ、他の治療と逐次的に上手に使用するのが最も生存期間延長につながるとされ、高い確率で他の治療とクロスオーバーされるために全生存期間延長効果は証明しにくい(が、分子標的薬が使えなかった時代に比べれば、肺がん患者の寿命は明らかに延びている)。

 2)は化学療法との併用が前提だが、ramcirumabはともかくとしてbevacizumabは除外基準が複雑で対象患者が絞られる。

 おしなべて、生存期間延長効果に比例して毒性も強くなる傾向にあり、QoLは必ずしも高いとはいえない。

 他領域のがん種も含めて考えると、どの程度意味のある生存期間延長効果があるのか疑問視される向きもある。

 しかし、実地臨床における手応えとしては、たしかにこの治療群の恩恵を受けて長生きしている患者はいる。

 しかも、1)との逐次併用が出来ている患者では、かなり長い生存期間が得られている印象があり、さらに分子標的薬+血管増殖因子阻害薬の同時併用がなかなか強力なことはJO25567試験(Erlotinib+bevacizumab)により広く知られることになった。

 そして3)である。

 はっきりいって、3)の一次治療が対象となる患者は、2)の患者よりも少ないだろう(と何人かの識者がコメントしている)。

 しかし、おそらく長期間追跡調査を行うと、治療を受けられた患者の中には間違いなく一定の割合で長期生存する患者がいるだろう。

 この「長期生存する患者」がどの程度見込めるかが、3)の本当の価値を示すことになろう。 

 つまるところ、"durable response"、すなわち、これまで診断時点で「治癒不能」の烙印を押されていた進行非小細胞肺がんの患者が「治癒する」可能性を秘めているところが、3)の治療群の真価であり、治療の概念を根本的に変えてしまう「激震」だと思うのである。

 あと5年間くらいは待たないと本当のところは分からないだろうけれど。

 以下、いろんな人のコメント。

 

<患者選択>

 PD-L1を発現した腫瘍細胞が50%を超える進行非小細胞肺がん患者においては、pembrolizumabが新たな標準治療になるだろう。しかし、果たしてどの程度の患者がpembrolizumab一次治療の対象になるのだろうか。KEYNOTE-024試験では、「腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現している」というのが選択基準だったが、同時に除外基準として、「脳転移を有する」、「自己免疫性疾患を有する」、「ステロイドを服用している」といったものが含まれていた。それらも勘案すると、実臨床でこうした条件を満たし、一次治療でpembrolizumabを使用できる患者はおおよそ10%程度に留まるのではないか。

<コスト>

 免疫チェックポイント阻害薬はどれも高価だが、一方で化学療法に比べて副作用が軽い(というより、問題になる副作用の頻度が少ない、といったほうが正しい)。たとえば、化学療法中に必要となるエリスロポイエチン(これは我が国の実臨床とは異なる)や顆粒球コロニー刺激因子といった支持療法は免疫チェックポイント阻害薬では必要なく、こういった点はコスト低減につながる(これは詭弁といわざるを得ず、少なくとも我が国ではこうした血球増殖刺激薬より免疫チェックポイント阻害薬の方が桁違いに高額である)。

<Pembrolizumabとプラチナ併用化学療法>

 進行非小細胞肺がんの一次治療としてペンブロリズマブが関連した試験の報告は他にもあったが、そちらは化学療法との併用に関するものだった。KEYNOTE-021試験は123人を対象とした第II相試験で、非常に興味深い結果だったが、実臨床に持ち込むには第III相試験の結果を待たなければならない。本試験はPD-L1発現の有無を問わず未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に行われ、そのためKEYNOTE-024試験と比べると対象になる患者層が広いわけだが、EGFR遺伝子変異患者、ALK転座陽性患者は除外されている。カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法群と、同治療にpembrolizumabを上乗せする群に分けられた。

 pembrolizumab上乗せ群と化学療法単独群の無増悪生存期間はそれぞれ13ヶ月と8.9ヶ月(ハザード比0.53、p=0.0102)だった。Grade 3以上の有害事象はそれぞれ39%と26%に認められた。しかし、有害事象による治療中止割合は同等(10% vs 13%)だった。治療関連死も同様(2人 vs 3人)だった。最も高頻度に見られた有害事象は疲労(64% vs 40%)、嘔気(58% vs 44%)、貧血(32% vs 54%)だった。

<化学療法は「でかいゴリラ」>

 プラチナ併用化学療法は長きにわたって非小細胞肺がんに対する標準治療で、「でかいゴリラ」として君臨していた。そうした中、ドライバー遺伝子変異とそれに対する分子標的薬が出現し、今では非小細胞肺がん患者の15%に対する初回治療として確立した。KEYNOTE-024試験の論文が掲載されたNew England Journal of Medicine誌の論評では、ドライバー遺伝子変異を有し初回治療として分子標的薬の適応となる非小細胞肺がん患者の割合は21%と、やや多めに見積もられている。すなわち、EGFR遺伝子変異を有し初回治療でgefitinib, erlotinib, afatinibの初回治療対象となる患者が15%、ALK転座を有しcrizotinibの初回治療対象となる患者が5%、ROS1転座を有しcrizotinibの初回治療対象となる患者が1%で、計21%である。残りの80%の患者胃に対しては依然として化学療法が標準的な一次治療との位置付けだったわけだが、今回の報告によりpembrolizumabも一次治療の選択肢として考えなければならなくなった。KEYNOTE-024試験においてpembrolizumabが示した奏効割合は45%だったが、これは進行非小細胞肺がんに対する単剤の一次治療の成績としては前代未聞の高さである。化学療法と比べて「無増悪生存期間を有意に延長し(ハザード比0.50)」、「全生存期間も有意に延長し(ハザード比0.60)」、「より毒性が軽い(Grade 3以上の有害事象発現割合は化学療法群の約半分)」というのは、pembrolizumabが非小細胞肺がん治療において「新たなでかいゴリラ」として君臨することを意味している。しかしながら、この「新たなでかいゴリラ」は、残念ながら実地臨床における肺がん患者の10%程度にしか適用できないと推算されている。

臨床試験における免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬のあり方の対比>

 ドライバー遺伝子変異を有する患者を対象とした分子標的薬単剤 vs プラチナ併用化学療法の臨床試験においては、無増悪生存期間延長効果は繰り返し証明され(ハザード比にして0.30-0.47)、毒性の面でも押しなべて軽微だったが、残念ながら統計学的に有意な全生存期間延長効果は示されなかった。

 分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬では、治療効果が期待できる患者層は全く異なる。

 KEYNOTE-024試験の対象となった患者のほとんどは男性で、90%以上は喫煙歴があるか、今現在も喫煙を続けている患者で、約20%は扁平上皮癌だった。

 一方、EGFR,ALK,ROS1がらみで、初回治療で分子標的薬を使う臨床試験では、参加者の90%以上は腺癌で、ほとんどの患者は女性で非喫煙者だった。

<診断時のルーチンが増えた>

 今回のKEYNOTE-024試験結果を受けて、診断時のルーチン業務が増えた。病状の進行が早い患者においては、急いでドライバー遺伝子変異の有無とともに、PD-L1発現状態をも調べなければならない。非小細胞肺がん全体の20%を占めるドライバー遺伝子変異を有する患者では速やかに分子標的薬を、残り80%のうちPD-L1高発現の患者(0.8×0.3=0.24, すなわち全体の24%)に対してはpembrolizumabを使わなければならない。残る56%にとっては依然としてプラチナ併用化学療法が標準治療として残るが、化学療法が不要な患者は確実に増えている。