LUX-Lung 7の全生存期間解析

 LUX-Lung 7試験に関連したweb講演会があったので、ちょっと顔を出してきた。

 はっきり言って、混乱した。

 LUX-Lung 7試験はsEGFRm陽性非小細胞肺がんに対して初回治療を行うに当たり、afatinibとgefitinibのどちらかを投与するランダム化第II相試験であった。

 第II相試験なのであくまで探索的検討で、得られた結果からどちらが優れている、と言った結論は得られない。

 第III相試験に準じた規模で行うと言う意味なのか、第IIb相試験という位置づけだが、第II相試験であることに変わりはない。

 また、何度考えても、主要評価項目が複数あり、さらにはそれがプロトコール改訂と言う形で変更されたと言う点も気に食わない。

 ESMO Asia 2015で発表された無増悪生存期間データは、afatinibの生存曲線がgefitinibのそれの上を行っているとは言いながら、無増悪生存期間中央値はわずか3日間しか変わらない、という微妙なものだった。

 生物統計学の専門家や、臨床試験至上主義の原理主義者は、

 「中央値はあくまで一時点での評価に過ぎない」

 「ハザード比が経時的に変化している(時間が経過するほどハザード比が小さくなっていく)ことが、結果が中央値に反映されていないことの原因」

 「両生存曲線全体を比較したときに差があることに意味がある」

といった論調で語るのだが、実地臨床家が求めているのは、

 「afatinibによる強烈な発疹、爪囲炎、下痢を患者に受け入れさせるだけの優越性」

なのであって、以上のような臨床医にも患者にも受け入れにくい議論は何の役にも立たない。

 出来る限りわかりやすく、afatinibの側に立って説明するならば、

 「1年たつまでは、afatinibもgefitinibも効果は変わりません。しかし、1年間を過ぎれば、その後はafatinibの方がより効き目が長持ちします」

といったところだろう。

 しかし・・・その患者が病勢増悪を経験しないままに1年目を迎えられるかどうかなど、誰が予測できるだろうか。

 有意差があろうがなかろうが、ストーリーとして患者が受け入れられなければ意味がない。

 しかし、有意差がついていないとはいえ、今回提示された全生存期間の結果には、参考にすべきデータが含まれている。

 美容上の毒性が強いにも拘らず、投与期間中央値(患者が我慢して飲み続けられた期間)はafatinibの方が2ヶ月長い。

 afatinib群よりもgefitinib群のほうが後治療でEGFR阻害薬を使用した割合が10%高く、第3世代EGFR阻害薬もそれぞれ15%程度が使っているにも拘らず、全体としてafatinib群の方が3.5ヶ月も生存期間を延長している。

 そして、Ex.19であろうがEx.21であろうが、3−4ヶ月程度の生存期間延長効果が得られている。

 「afatinibはgefitinibに比べて生存期間を3-4ヶ月程度延長しますが、統計学的な違いはありません」

と患者に説明したら、果たして患者はどちらの治療を選ぶだろうか。

 

 そして、後治療で第3世代EGFR阻害薬を使用した場合、afatinib群の生存期間中央値は未到達(すなわち、解析時点で50%以上の患者が生存していたと言うこと)で、gefitinib群の生存期間中央値は46ヶ月である。

 afatinib群であろうがgefitinib群であろうが、後治療で第3世代EGFR阻害薬が使用できれば、全体として4年くらいの生存期間が期待できると言うことだ。

 これは、我が国の実地臨床に今すぐに反映できるデータである。

 日本人のデータではない(ということは、多分日本人のデータではより生存期間が長くなることが予想される)とはいえ、これから治療に臨もうとするsEGFRm陽性進行肺がん患者にとって、これはとても勇気付けられるデータではないだろうか。

 統計学的には全く納得いかないが、ここにきてようやくLUX-Lung 7試験は、明日からの実地臨床に行かせるデータを提供してくれたように感じる。

LBA43 - Afatinib (A) vs gefitinib (G) in patients (pts) with EGFR mutation-positive (EGFRm+) non-small-cell lung cancer (NSCLC): overall survival (OS) data from the phase IIb trial LUX-Lung 7 (LL7)

Paz-Ares et al, ESMO 2016

背景:

 非可逆的ErbBファミリー阻害薬であるafatinibと、可逆的EGFR阻害薬であるgefitinibは、いずれもsEGFRm陽性進行非小細胞肺がんに対する一次治療として承認されている。LUX-Lung 7試験において、afatinibはgefitinibに対して有意に無増悪生存期間(ハザード比0.73、95%信頼区間0.57-0.95、p=0.017)、奏効割合(70% vs 56%, p=0.008)、治療成功期間(ハザード比0.73、95%信頼区間0.58-0.92、p=0.007)を改善した。今回は、全生存期間に関するデータを提示する。

方法:

 LUX-Lung 7試験はsEGFRm(Ex.19 del. / Ex.21 L858R)を有するIIIB/IV期の未治療非小細胞肺がん患者を対象に、afatinibとgefitinibの治療効果を検討した試験である。主要評価項目は無増悪生存期間、治療成功期間、全生存期間とした。副次的評価項目は奏効割合と有害事象とした。主要評価項目についての解析は、213件の生存イベントが確認されるか、観察期間が32ヶ月を超えた段階で行うことになっていた。

結果:

 2016年4月8日の段階で、全生存期間解析に必要なイベント数を満たした。観察期間中央値は42.6ヶ月だった。治療継続期間中央値はafatinib群で13.7ヶ月、gefitinib群で11.5ヶ月だった。afatinib群の73%、gefitinib群の77%は初回治療中止後に1レジメン以上の後治療を受けていた。afatinib群の46%、gefitinib群の56%は他のEGFR阻害薬を、afatinib群のうち20人(14%)とgefitinib群のうち23人(15%)は後治療で第3世代EGFR阻害薬を使用していた。全生存期間はafatinib群のほうが良好だった(生存期間中央値はafatinib群で27.9ヶ月、gefitinib群で24.5ヶ月、ハザード比0.86、95%信頼区間0.66-1-12, p=0.258)。afatinib群、gefitinib群の24ヶ月生存割合はそれぞれ61% vs 51%、30ヶ月生存割合はそれぞれ48%、40%だった。こうした生存データはLUX-Lung 3試験で得られたデータと類似していた。sEGFRmタイプ別の解析では、それぞれ似たような傾向が見られた。Ex.19 del.の患者群の生存期間中央値は、afatinib群で30.7ヶ月、gefitinib群で26.5ヶ月、ハザード比0.83、95%信頼区間は0.58-1.17だった。また、Ex.21 L858Rの患者群での生存期間中央値は、afatinib群で25.0ヶ月、gefitinib群で21.2ヶ月でハザード比0.92、95%信頼区間0.62-1.36だった。後治療で第3世代EGFR阻害薬を用いた場合にも、全生存期間でafatinib群が優れているような雰囲気があった(afatinib群は生存期間中央値未到達、gefitinib群は46.0ヶ月、ハザード比0.51, 95%信頼区間は0.17-1.52)

結論:

 LUX-Lung7においてafainib群とgefitinib群の間に、全生存期間に関する有意な差は認められなかった。どのサブグループ解析においても同じような結果で、afatinib群の方が無増悪生存期間、治療成功期間、奏効割合のいずれにおいても有意に優れていた。