医療経済から見た適正な肺がん診療

第57回日本肺癌学会総会から

SP 1-1:

・Malone, J Clin Oncol 2016

 医療経済についてのISPORからのステートメント

 社会全体にとっての治療選択とは

・医師の難しい立ち位置

 “double agent(二重の代理人)”, Blomqvist, 1991

 受益者たる患者と、負担者たる納税者の狭間に立たされている

SP 1-2:

HTA:Health Technology assessment(医療技術評価)

HTA機関のガイドライン

 ESMO、ASCOいずれのガイドラインにも、治療コストについては言及されていない

・EULAR(Europeの関節リウマチ治療ガイドライン)2013年版では、治療コストについての記載がある

・「黒船襲来」

 ソバルディ、ハーボニー(HCV感染治療薬)の1ヶ月薬価:100-160万円

 ニボルマブの1ヶ月薬価:260万円

 レパーサ(脂質異常症治療薬)の1ヶ月薬価:4万円

・ソバルディ、ハーボニーは30%offへ、ニボルマブは50%offへ

・「費用対効果」における・・・

 費用=治療介入そのものの費用−将来に見込める医療費削減

 効果:健康上のメリット

・QALY

 肺癌の場合:症状なしの場合の係数は0.75、症状ありの場合の係数は0.5

 ある治療をしたとき、症状なしで0.5年、症状ありで0.5年過ごして亡くなったとしたら

 QALY=0.5×0.75+0.5×0.5

HTA評価で認定されなかったときの救済措置

 英国NICEでは

  Patient access scheme:企業が「非公開で」値引きし、一定期間後に無償供与

  Cancer Drug Funds:国家予算を用いて国が補助する

・日本における費用対効果

 費用:国内データを参照

 効果:海外データであっても可

 QoL:原則的に国内データを用いる

・旧薬の費用対効果が低いとき、はたしてそれと新薬の比較に意味があるのか?

S9-2:

<肺癌診療の医療経済−日本の高額医療>

HTAは日本では試行的に導入されている

・費用対効果=cost vs QALY(Quality Adjusted Life-Year)

・英NICE(National Institute for Health and Care Excellence):1999年に設立

・一般薬では、20,000-30,000ポンド/QALY以下は推奨

 申請のあった249品目中、49%は推奨に採択されていた

・抗がん薬では、50,000ポンド/QALY以下は推奨

 申請のあった88品目中、40%が推奨に採択された

中央社会保健医療協議会内に費用対効果専門部会が設置された

・一般に、ある薬について企業が提出する増分費用効果比(ICER、比較対象よりどれだけ効果が増えるか÷比較対象よりどれだけ費用が増えるか)は、政府が試算したICERより低額になる(そのため、治療が安上がりに見える)ことが多い

 例) カナダ政府と製薬企業のやり取り

  扁平上皮癌に対するNivolumabの増分費用効果比

   企業提出資料:ICER=$151,560

   政府見解資料:ICER=$219,660

  政府としては、効果が高く保険償還したいと考えているが、より一層ICERが低額になることが条件

S9-3:

<内保連の見解>

国民皆保険を守るために・・・

1)薬価の見直し(市場拡大再算定、およびその特例)

  薬の適応の拡大により治療対象が増えて、企業収益が大きくなったときに、2年に1度の定期薬価改訂よりも早くに薬価を見直して引き下げる

→薬価を安くすることは国民や政府にとっては助かるが、企業の新薬開発意欲を削ぐ

2)適正使用ガイドライン

 適切な患者選択

 使用可能医師、使用可能医療機関に要件をつける

3)保険収載のあり方の見直し

・当局の介入方法に関する、英国と日本の違い

 英国では薬価が決定し、薬が使われ始めてから、保険償還するかしないかの判断の際にNICEが介入する

 日本では、薬事申請から製造承認の過程にPMDAが介入するが、薬価の決定、保険償還の是非判断にはPMDAは関わらない

・ICERの限界値

 英国:3万ポンド

 米国:5万ドル

・仏、英、蘭における新薬審査では、費用対効果は勘案していない

・コスト削減のための政府・医師主導の臨床試験が必要

S9-4:

<ドイツにおける薬事承認>

・EGFR-TKI:ICER=?$110,000から$130,000 QALY

・Atezolizumab:ICER=?$200,000 QALY(vs docetaxel)

・to consider different insurance system and reimbursement system

・Ramcirumab:additional benefit not proven

 ICER=?81,566.68 ?

・Nintedanib:marginal benefit proven

 ICER=?38,430.20 ?

・Necitumumab:additional benefit not proven

 ICER=60,043.66 ?

・Osimertinib:additional benefit not proven

 ICER=97,696.87 ?

・Nivolumab for Squamous cell carcinoma:Significant benefit proven for 90% patients

 ICER=106,565.23 ?

・”Most effective approach is SMOKING CESSATION.”

S9-5:

<臨床現場での効率化の可能性>

・大腸がんの領域で、bevacizumabの代替にramcirumabがなり得るか?

→治療効果はほぼ同等、値段は3倍(150万円→450万円)

→演者の病院におけるレジメン登録委員会では、全会一致でramcirumabを不採用とした

・PointBreak試験

 非小細胞肺癌におけるCBDCA+Pemetrexed+bevacizumabは追加治療効果なく、高額

・Nivolumab has come!

 Highly effective, high cost.

 →治療効果が高いので、薬価が高いから不採用、という判断はできない

・Pseudo-progressionの問題、ASCO 2016

 N=535、414人は病勢進行後は治療中止、121人は病勢進行後も治療継続、121人のうち10人(8%)はその後に部分奏効(PR)に至った

・Nivolumabの治療効果予測因子、ESMO 2016

 治療開始後にIL-8が低い患者群では、奏効することが多い

 ただし、治療前の予測には役立たない

・二次治療としてのNivolumabについて、JCOGが計画中の臨床試験

 二次治療としてNivolumab投与開始→一旦中止して、病勢進行を確認したらNivolumabを再開する群と、中止せずに病勢進行までNivolumabを使い続ける群を比較

・cohort研究でCSPOR

 「Pseudoprogressionではない真のPDの患者」を早期に見つけて治療を中止する臨床試験

・JAMA oncology 2016に載っていた金言

臨床試験における患者の全生存期間は、実地臨床における患者の全生存期間の代替エンドポイントである」

・「この検査結果を踏まえると、この治療は効果が期待できるでしょう」という場合には、患者も医師もその治療を始めるのに迷わない

・「この検査結果を踏まえると、この治療の効果は期待できないでしょう」という場合に、患者が会えてその治療を希望した場合(他に治療選択肢がない場合など)、医師はどう対応するのが適切なのか

→治療効果が期待できず、高額な医療費がかかるとわかっていても、その治療を行うべきなのか