先日、仕事を終えて帰る前にメールボックスをチェックすると、マルタ島から郵便物が届いていた。
"Expert perspectives on Management of EGFR-Mutated NSCLC: Overcoming Resistance to Ensure Active Lines of Therapy"なる題名の小冊子。
ちらっと見てみると、特定の製薬会社の資金供与により作成された冊子。
しかも、3人にパネリストは全て、複数の企業からなんらかの資金供与を得ている。
当然のことながら、記載内容は資金供与元に寄り添った書きっぷりになっている。
しかも、先般のESMO 2017やWCLC 2017の内容は(当たり前だが)踏まえていない。
しかしながら、取り扱われているテーマはEGFR遺伝子変異陽性肺癌にまつわるテーマをほぼ網羅しており、修正すれば知識の整理に役立ちそうなので、頑張ってまとめてみた。
こうして考えてみると、FLAURA試験結果がよかったからといって、単純にEGFR遺伝子変異陽性肺癌の初回治療をオシメルチニブにしていいかというと、そうではなさそうなことが分かる。
ALK肺癌におけるアレクチニブほどには大きなインパクトではないため、オシメルチニブと他の薬との価格差も考慮すると、もうしばらくは慎重に考える必要がありそうだ。
<現時点でのEGFR阻害薬治療の考え方>
・EGFR遺伝子変異を有する患者に対する初回治療選択肢は、既に有効性が示されたが承認待ち段階のものや、開発中だが有望なものを含めると、格段に多くなった
1)第1世代EGFR阻害薬単剤治療
ゲフィチニブ、エルロチニブ
2)第2世代EGFR阻害薬単剤治療
アファチニブ、Dacomitinib(ARCHER 1050)
3)第3世代EGFR阻害薬単剤治療
Osimertinib(FLAURA)
4)EGFR阻害薬+血管増殖因子阻害薬あるいはEGFR抗体
Erlotinib+Bevacizumab(JO25567, BELIEF, NEJ-026, ACCRU)、Erlotinib+Cetuximab(S1403)
5)EGFR阻害薬+化学療法
Carboplatin+Pemetrexed+Gefitinib(NEJ-005, NEJ-009) etc.
・現在、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌に対する一次治療として利用可能な薬を使っても、1年程度で効かなくなる
・効かなくなる理由として、以下のものが挙げられる
1)耐性化EGFR遺伝子変異の出現
2)バイパス経路の活性化
3)小細胞癌への形質転換
4)中枢神経系転移による薬物耐性化
・リキッド・バイオプシーでは2)、3)を明らかにすることはできないが、再生検では可能である
・リキッド・バイオプシーは、異なる複数の病巣や、再生検で扱わなかった病巣の遺伝子変化を推し量る上で有用である
・リキッド・バイオプシーでT790Mが陰性だったとしても、再生検で確認しなければならない
・AURA3試験によれば、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者に対し、1次治療で第1・2世代のEGFR阻害薬を使った後にT790M耐性遺伝子変異が確認された患者(計419人)を対象に、オシメルチニブとペメトレキセド+プラチナ製剤併用化学療法を比較したところ、無増悪生存期間中央値はオシメルチニブ群で10.1ヶ月、化学療法群で4.4ヶ月だった
・AURA3試験において、日本人サブグループ(計63人)で解析したところ、無増悪生存期間中央値はオシメルチニブ群で12.5ヶ月、化学療法群で4.3ヶ月だった
・オシメルチニブに対する耐性化機序も既に検討されており、C797S耐性化変異が全体の20%で、そのほかにバイパス経路による耐性化、小細胞癌への憩室転換、L718Q変異、BRAF V600E変異、EGFR変異などが知られている
・C797S耐性化変異において、C797SとT790Mが同一DNA鎖上に生じた場合は有効な治療なし、C797SとT790Mが相同DNA鎖上に生じた場合は開発段階の治療あり(EAI-045+Cetuximab)、C797S出現の一方でT790Mが陰性化していれば第1世代のEGFR阻害薬が有効
・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者(計556人)を対象に、一次治療としてのオシメルチニブとゲフィチニブ / エルロチニブの効果を検証したFLAURA試験では、無増悪生存期間中央値はオシメルチニブ群で18.9ヶ月、ゲフィチニブ / エルロチニブ群で10.9ヶ月だった。
・FLAURA試験において、日本人サブグループ(計120人)で解析したところ、無増悪生存期間中央値はオシメルチニブ群で19.1ヶ月、ゲフィチニブ / エルロチニブ群で13.8ヶ月だった
・AURA3試験とFLAURA試験の結果を踏まえると、(今のところ治療開始前には予測不能だが)第1世代EGFR阻害薬による治療でT790M耐性化変異が見込まれる患者についてのみ言えば、初回治療で第1世代EGFR阻害薬、T790Mによる耐性化後の二次治療でオシメルチニブを投与した場合の無増悪生存期間中央値の総和は、日本人では13.8+12.5=26.3ヶ月、初回治療からオシメルチニブを投与した場合の無増悪生存期間中央値は19.1ヶ月で、7.2ヶ月の差がある
・できれば、FLAURA試験において、digital PCRなどの高感度測定法を用いて治療開始前のT790M変異の有無を調べて、T790Mを有する群と有さない群での解析をしてもらいたい
・今後、Dacomitinibをどのように取り扱うか
・FLAURA試験の結果を踏まえても、Exon 19 deletionで若い患者にはアファチニブが第1選択なのか
・LUX-Lung 7試験では、プロトコール治療終了後に第3世代EGFR阻害薬を使用された患者について、全生存期間に関するサブグループ解析が行われているが、54ヶ月追跡調査した段階で、3年生存割合はアファチニブ群で96%、ゲフィチニブ群で89%、生存期間中央値はアファチニブ群で未到達、ゲフィチニブ群で48.3ヶ月
・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者に対する初回治療としてのエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法の無増悪生存期間中央値は、日本人のJO25567試験で16.0ヶ月、EUのBELIEF試験で13.8ヶ月
・JO25567試験では、Exon 19変異患者の無増悪生存期間中央値は18ヶ月、Exon 21変異患者の無増悪生存期間中央値は13.9ヶ月
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e751839.html
・JO25567試験とAURA3試験の結果を踏まえると、Exon 19変異を有する日本人患者に対し、1次治療でエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法を、病勢進行後に再生検を行ってT790Mが確認された場合にオシメルチニブを使用したら、無増悪生存期間中央値の総和は18ヶ月+12.5ヶ月=30.5ヶ月となる
・BELIEF試験では、治療開始前にT790M変異が認められた患者、認められなかった患者の無増悪生存期間中央値はそれぞれ16ヶ月、10.5ヶ月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28408243
・BELIEF試験とAURA3試験の結果を踏まえると、治療開始前に感受性EGFR遺伝子変異とT790M変異が認められた欧州の患者に対し、1次治療でエルロチニブ+ベバシツマブ併用療法を、耐性化後にオシメルチニブを使用した場合には、無増悪生存期間中央値の総和は16ヶ月+10.1ヶ月=26.6ヶ月となる
・約半数のEGFR陽性患者がT790Mで耐性化すると考えたとき、初回治療でオシメルチニブを使うのと、単剤治療よりも長い無増悪生存期間が期待できるTKIを含めた多剤併用療法(TKI+血管増殖因子阻害薬、TKI+化学療法)と、どちらがより優れた治療戦略なのか、よく考えなければならない
・脳転移単独の病勢進行や、局所治療可能な病巣のみによる病勢進行では、局所治療により局所制御を行いながら同じEGFR阻害薬を使い続けるのもひとつの選択肢
・初回EGFR阻害薬治療後に病勢進行し、再生検でT790M陰性だった患者では、従来どおり化学療法が標準治療
・半年ごとにあちこちの学会で新しい、しかも実臨床を変える研究結果が発表されるため、担当医は常にアンテナを張って、患者の治療に還元しなければならない