E1505 study 術後ベバシズマブは不要そうだけど・・・

 完全切除後のEGFR変異陽性非小細胞肺がんに対する術後補助EGFR阻害薬療法の位置づけは、まだ定まらず。  しかし、完全切除後の非小細胞肺がんに対する術後補助ベバシズマブ療法は要らないみたい。  そんな臨床試験結果が、以下の論文に報告されていた。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29129443  この臨床試験の特筆すべき点はいくつかある。 ・2007年から2013年と6年以上にわたり、患者集積が行われたこと ・各治療群に750人と、かなり大規模な臨床試験になったこと ・シスプラチン併用化学療法のレジメンとして、ビノレルビン、ドセタキセル、ジェムシタビン、ペメトレキセドと、幅広い治療選択肢を受け入れていること ・適格基準はIB-IIIA期とされているが、IB期は25%程度と比較的少なめに抑えられていること ・治療成績がやたらといいこと ・5年を過ぎてから、両群間のの無再発生存曲線が末広がりになっていくこと  一つ前の記事で取り扱ったADJUVANT / CTONG1104試験では、対象はII-IIIA期だったが、無再発生存期間中央値はゲフィチニブ群で28.7ヶ月(24.9-32.5)、シスプラチン+ビノレルビン群で18.0ヶ月(13.6-22.3)だった。  今回のE1505試験では、全体の1/4を占めるIB期を含んではいるものの、無再発生存期間中央値はプラチナ併用化学療法群で42.9ヶ月(36.7-57.0)、プラチナ併用化学療法+ベバシズマブ群で40.6ヶ月(35.5-49.5)だった。  プラチナ併用化学療法同士で比べると、ダブルスコア以上の差がついている。  ADJUVANT / CTONG1104の結果が悪すぎるのか、E1505の結果がよすぎるのか。  その辺はよく考えてみないといけない。  また、本試験において、シスプラチン+ペメトレキセド療法を単独で受けた患者が約250人いる。  A群のみでも750人規模の臨床試験であり、ここから得られる各レジメンの治療成績は、historical controlとして重要で、今後サブグループ解析が公表されることが期待される。  得られた結果を、我が国のJIPANG試験の結果と比較してみたい。 Adjuvant chemotherapy with or without bevacizumab in patients with resected non-small-cell lung cancer (E1505): an open-label, multicentre, randomised, phase 3 trial. Wakelee et al., Lancet Oncol, 18(12):1610-1623, 2017 背景:  完全切除後の早期非小細胞肺がん患者に対する術後補助化学療法は、いくばくかの生存期間延長効果をもたらす。ベバシズマブはVEGFに対するモノクローナル抗体薬で、進行期非小細胞・非扁平上皮癌に対してプラチナ併用化学療法に付け加えると、生存期間延長効果があることが示されている。今回は、完全切除後の早期非小細胞肺がん患者に対する術後補助化学療法にベバシズマブを加えることで、生存期間延長が得られるかどうかを検証した。 方法:  オープンラベル、無作為化、第III相臨床試験として本試験を行った。18歳以上、ECOG-PS 0もしくは1、完全切除後のIB期(腫瘍最大径≧4cm)からIIIA期(AJCC第6版準拠)の患者を対象とした。臨床試験グループとしては米国のECOG-ACRIN、アイルランドのCancer Trials Ireland、カナダのCanadian Cancer Trials Groupが参加した。術後6-12週間の患者を組み入れた。各患者の化学療法の治療内容は、ランダム化および治療開始前に決められた。全ての患者で、シスプラチンは75mg/?、day1に投与し、併用する治療薬はビノレルビン(30mg/?、day1およびday8)、ドセタキセル(75mg/?、day1)、ジェムシタビン(1200mg/?、day1およびday8)、ペメトレキセド(500mg/?、day1)を担当医が選択した。21日間隔で、4コース治療した。ベバシズマブ併用群では、化学療法1コース目からベバシズマブ15mg/kgを21日ごとに投与し、1年間継続した。患者はA群(化学療法単独群)とB群(ベバシズマブ併用群)に1:1の比率で割り付けられた。割付調整因子は化学療法の治療内容、病期、組織型、性別とした。どの治療に割り付けられたかは担当医、患者には知らされたが、事務局には伏せられた。主要評価項目は全生存期間とし、Intent-to Treat解析で解析された。 結果:  2007年6月1日から2013年9月20日までに、1,501人の患者が登録され、両群間に無作為割付された。A群には749人、B群には752人が割り付けられた。病期分類がきっちりなされた患者1,458人のうち、383人(26%)がIB期、636人(44%)がII期、439人(30%)がIIIA期だった。43人ははっきり病期分類できていなかった。扁平用彼岸は1,501人中422人(28%)だった。シスプラチン併用化学療法の内訳は、377人(25%)でシスプラチン+ビノレルビン併用療法、343人(23%)でシスプラチン+ドセタキセル併用療法、283人(19%)でシスプラチン+ジェムシタビン併用療法、497人(33%)でシスプラチン+ペメトレキセド併用療法だった。経過観察期間中央値は50.3ヶ月で、A群の生存期間中央値は未到達、B群の生存期間中央値は85.8ヶ月(95%信頼区間は74.9ヶ月から未到達)、ハザード比は0.99(95%信頼区間は0.82-1.19、p=0.90)だった。Grade 3-5の毒性はB群の方が多く、A群では496人(67%)、B群では610人(83%)だった。治療関連死はA群で15人、B群で19人に認めた。このうち、A群では3人、B群では10人がプロトコール治療との関連性が疑われた。 結論:  術後補助化学療法にベバシズマブを加えても、患者の全生存期間は改善しないことが明らかになり、こうした使用法は今後考えるべきではない。  シスプラチン+ペメトレキセド併用療法は、プロトコール改定により2009年から適用可能になった治療選択枝だが、それにも関わらず適用患者数は最多であり、さらにいえば扁平上皮癌には適用されていないはずなので、いかに普及しているかがわかる  この生存曲線から読み取れることは、両群間に差がなさそうだということと、生存期間中央値は少なくとも7年以上だということだ。  また、5年生存割合は少なくとも60%以上と見積もられる。  これが米国、カナダ、アイルランドで行われた臨床試験であることを考えると、かなりよい治療成績なのではないか。  無再発生存曲線では、A群では7年目以降で曲線がほぼプラトーに達しているように見え、概ね7年以降無再発生存割合は40%ほどと見てよさそうだ。  一方で、ベバシズマブ群では、5年を過ぎてから曲線の傾きがまた大きくなる。  もはや検証される機会はないだろうが、5年目までほぼ重なっている無再発生存曲線がそれ以降に開いていくというのは興味深い。  ベバシズマブには、腫瘍幹細胞を潜伏させて、一定期間後に解き放つような不思議な力があるのかもしれない。