ADUVANT / CTONG1104 術後補助EGFR-TKI療法をもう一度考える

 EGFR遺伝子変異陽性で、同側肺門もしくは同側縦隔リンパ節転移陽性が確認された完全切除後非小細胞肺がん患者に対し、術後補助化学療法としてのゲフィチニブとシスプラチン+ビノレルビンを比較する第III相試験、ADJUVANT / CTONG1104試験。

 ASCOでの発表後に一度取り扱った。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e900761.html

 今回論文化されていたので、改めて目を通してみた。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29174310

 前回の記事を見れば試験の概要や識者の受け止め方は分かるので繰り返さないが、試験デザイン上気になる点がいくつかあった。

・主要評価項目が、「無再発生存期間」であること

 本来、治癒を目的にしなければならない患者集団だと思うが、主要評価項目を 「無再発生存期間」にしたことについては、論文中に記載があった。それによると、

1)米国食品医薬品局では、迅速承認プログラムの判断基準は、無増悪生存期間や無再発生存期間といった代替エンドポイントによっており、これは術後補助化学療法の領域でも同じである

2)無再発生存期間は、治療群間におけるクロスオーバーの影響を受けない−シスプラチン+ビノレルビン群の患者が再発後にゲフィチニブを使用したら、全生存期間は結局ゲフィチニブ群と大差なくなるのではないか(その逆もしかり)−。

3)もし全生存期間で両治療群間に差が出なかったときに、術後補助ゲフィチニブ療法で無再発生存期間の延長・有害事象の軽減・QoLの向上といった利益を享受できた患者に、その道を閉ざすことになるのではないか

という議論が展開されていた。

 1)はどうかと思うが、2)と3)は確かにその通りだと思う。

 実際にこのブログ上で患者さんやご家族の声を聞いていると、全生存期間が延びなくても無増悪生存期間や無再発生存期間が延びるならそこには意味がある、とする意見が多い。

・ゲフィチニブの治療期間を2年間としていること

 これは、明確な根拠があるわけではなさそうだ。

 過去の臨床試験に右に倣えしている、というのが実際のところの様子。

 気にはなるが、批判するつもりはない。

 経済的負担を考えても止むを得ない。

 ただし、治療対象も薬も違うが、Nivolumabの例を考えると、経済的観点からだけで判断するわけにもいかない。

 治療期間を延ばしたら、無再発生存期間や全生存期間が延びたとしたら、どうする?

 それこそ、治療期間に制限をかけると、患者の治療選択権を奪ってしまうことになるのでは?

 健康保険で面倒を見る期間に制限を設けることは止むを得ないにしても、民間の医療保険や自費での治療選択権には道筋が開かれるようにして、その前提で試験デザインしなければならないのでは?

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916533.html

・盲見化されていないこと

 患者本人や担当医には、試験期間中も治療内容が分かるようになっている。

 そのためか、ゲフィチニブ群に割り付けられた111人のうち、5人(4.5%)が、そしてシスプラチン+ビノレルビン群に割り付けられた111人のうち、実に23人(20.7%)が患者意思でプロトコール治療を受けていない。

 患者の権利が守られているのはとても素晴らしいが、試験デザインとしては大きな瑕疵のように感じる。

・結構強気の試験デザイン

 無再発生存期間について、ゲフィチニブ群が40%の期間延長効果を示す(ハザード比0.60)と見積もって、80%の検出力、両側検定で有意水準5%で計画された。

 得られた結果は仮説をギリギリ満たすハザード比0.60(95%信頼区間 0.42-0.87)、p=0.0054。

 実治療群間で比較すればハザード比0.70(95%信頼区間 0.49-0.99)、p=0.044。

 得られた結果のこととか、ASCOでの発表時点で実治療群間の結果が公表されていなかったことなどを考えると、うーんと思ってしまう

 

 また、得られた結果を見て思うこと。

・483人がスクリーニングを受けて、222人(46%)が試験登録された

 483人のうち、55人は不適格、206人はEGFR変異陰性と判定されている。

 55人のうち、何人がEGFR変異陽性だったかは明らかにされていないが、それを踏まえると46%という数字は結構高い。

 実質的には、今回スクリーニングを受けた患者の半数はEGFR変異陽性だったというところだろう。

・全身検索の手法はこれでよかったのか

 ゲフィチニブ群のうち66人(59%)はCTで、27人(24%)はPETで、18人(16%)はMRIやその他の手法で全身検索されている。

 シスプラチン+ビノレルビン群のうち64人(58%)はCTで、24人(22%)はPETで、23人(21%)はMRIやその他の手法で全身検索されている。

 両群ともに、足し合わせると100%。

 つまり、PETの人たちはPET単独で、MRIやその他の手法の人たちはそれら単独で検索しているということだ。

 世界的に見ると、私が日頃やっている通常CT+PET+頭部造影MRIというやり方は過剰と言われるかもしれないが、それでもPETだけ(脳転移巣は確認できない)とかMRIやその他の手法だけで全身検索できるとは思えない。

・ITT解析(それぞれ割り付けられた治療群間での比較)と実治療群間解析(それぞれ割り付けられた治療群間において、実際にプロトコール治療がなされた患者だけを抽出しての比較)では、結果がやや異なる

 学会発表時点では、実治療群間解析は公表されていなかった。

 繰り返すが、ITT解析で得られた結果は仮説をギリギリ満たすハザード比0.60(95%信頼区間 0.42-0.87)、p=0.0054。

 実治療群間で比較すればハザード比0.70(95%信頼区間 0.49-0.99)、p=0.044で、ハザード比も有意水準もギリギリ統計学的有意差がついたことを示しているが、プロトコール治療を受けなかった人を解析から外すと少なからぬ影響が出ていることが分かる。

 95%信頼区間の上限はギリギリ一杯で、有意水準は一桁違う。

 うがった見方をすれば、統計手法のさじ加減でどちらにも転びかねない結果である。

 そして、これは重い一言だと感じたのは、

 「EGFR変異陽性のリンパ節転移陽性根治切除後非小細胞肺がん患者にとって、EGFR阻害薬による術後補助化学療法は治癒を目指せる治療ではないかもしれないが、ほとんどの患者に対してなんらかの臨床的利益(無再発生存期間の延長、術後治療に関わる有害事象の軽減、QoLの改善)が期待できる」

という筆者のコメントだ。

 治癒不能、進行期の肺がん患者に対するであればこのコメントは受け入れられるのだが、治癒を目指して根治切除を受けた患者に対するコメントとしては、酷だ。

 また、今後の見通しとして、

・全生存期間解析については、まだ時間がかかりそう

・他の臨床試験の成り行きも見守らなければならない

 ALCHEMIST study(NCT02193282) https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02193282?term=02193282&rank=1

  EGFR遺伝子変異陽性のIB-IIIA期術後非小細胞肺がん患者に対するエルロチニブ術後補助化学療法の第III相試験

 ADAURA study(NCT02511106) https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02511106?term=02511106&rank=1

  EGFR遺伝子変異陽性のIB-IIIA期術後非小細胞肺がん患者に対するオシメルチニブ術後補助化学療法の第III相試験

・残念ながら、我が国のWJOG6410L-IMPACT studyについては、一言も触れられていなかった。