FLAURA試験における、オシメルチニブの中枢神経系病変への効果

 EGFR阻害薬やらオシメルチニブ、ALK阻害薬ならアレクチニブやLorlatinibが中枢神経系への移行性がたかいことはよく知られている。

 中でも、オシメルチニブの中枢神経系への移行性を如実に示すのが、有名な以下の写真ではないだろうか。

 

 オシメルチニブ、AZ5104、rociletinib、ゲフィチニブの、カニクイザルの脳内移行性を比較した写真である。

 どれも、カニクイザルの頭部を横から見て、薬の脳内移行性をカラーで示してある。

 他の薬でははっきりしないが、オシメルチニブの写真だけは、頭部右上にある脳の形がはっきりわかる。

 出典は以下の通り。

Preclinical Comparison of Osimertinib with Other EGFR-TKIs in EGFR-Mutant NSCLC Brain Metastases Models, and Early Evidence of Clinical Brain Metastases Activity

Clin Cancer Res 2016;22:5130-40

 当然のことながら、中枢神経系病変に対して、他のEGFR阻害薬よりもオシメルチニブの効果は大きいのではないか、ということになる。

 サブグループ解析ながら、このことが示されて、論文化されている。

 EGFR遺伝子変異を有する進行肺がんの患者さんに対して初回治療からオシメルチニブを使うことには、現段階では100%賛成はできない。

 けれど、中枢神経系病変を有する患者さんには、初回治療から迷わず使ってもいいのではないか。

 また、オシメルチニブ以外のEGFR阻害薬や治療方法も選択肢として残しておきたい立場からすると、以下の論理には対抗しにくい。

 「他の薬から始めた場合、病勢進行したときに新たに中枢神経系病変が出てきて、T790M陰性だったら、あるいは脳転移巣以外の病巣が良好にコントロールされていて、再生検できなかったら、オシメルチニブを使う機会が失われてしまうではないか」

 ごもっともです。

 他の部位ならともかく、脳転移を再生検、というのは、よほど状況が整って、患者さんがやる気を出さないと難しい。

 そもそも、脳神経外科が院内になければ、どだい無理である。

 なので、T790M検出の有無によらず、2次治療以降でもオシメルチニブを使えるように、医師主導臨床試験をしたらどうだろうか。

 製薬メーカー主導では、こんな臨床試験はまず計画されないだろう。

 初回治療時と二次治療時、どちらでペメトレキセドの維持療法を持ってくるのが適切か、という臨床試験が計画されないのと同様だ。

CNS Response to Osimertinib Versus Standard Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitors in Patients With Untreated EGFR-Mutated Advanced Non?Small-Cell Lung Cancer

Thanyanan Reungwetwattana, Kazuhiko Nakagawa, Byoung Chul Cho,et al. J Clin Oncol 36. 2018

DOI: https://doi.org/10.1200/JCO.2018.78.3118

目的:

 未治療EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象として行われた第III相FLAURA試験における、オシメルチニブと標準のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の中枢神経系に対する効果を報告する。

方法:

 556人の対象者がオシメルチニブ群と標準治療群(ゲフィチニブもしくはエルロチニブ)に割り付けられた。臨床的に必要でなければ、脳の画像診断は必須とはされていなかった。無症候性、もしくは病状の安定している中枢神経系転移を有する患者は本試験に参加可能だった。中枢神経系の症状を有する患者では、脳転移に対する治療(放射線治療もしくは手術)と副腎皮質ステロイド投与から2週間は神経学的所見が安定していることが条件とされた。主要評価項目を中枢神経系無増悪生存期間とした既定のサブグループ解析は、独立した中央判定委員会で治療開始前の画像診断をされた、測定可能 / 測定不能の中枢神経系病変を有する患者群を対象に行われた。中枢神経系病変について奏効評価可能な患者群においては、少なくとも1ヶの測定可能な中枢神経系病変を有することが条件とされた。

結果:

 200人の患者が治療開始前に中枢神経系の画像診断を受けていた。128人(オシメルチニブ群61人、標準治療群67人)が測定可能 / 測定不能の中枢神経系病変を有しており、その中には41人(オシメルチニブ群22人、標準治療群19人)の、少なくとも1ヶの測定可能病変を有する患者が含まれていた。中枢神経系病変無増悪生存期間は、オシメルチニブ群では中央値に達しておらず(95%信頼区間は16.5ヶ月以上で、上限は算出不能)、標準治療群では中央値は13.9ヶ月(95%信頼区間は8.3ヶ月以上で、上限は算出不能)だった。両群間のハザード比は0.48、95%信頼区間は0.26-0.86、p=0.014と、名目上は有意にオシメルチニブ群の方が優れていた。1ヶ以上の測定可能病変を有する患者で、中枢神経系病変の奏功割合はオシメルチニブ群で91%、標準治療群で68%だった。オッズ比は4.6、95%信頼区間は0.9-34.9、p=0.066だった。中枢神経系の測定可能病変、測定不能病変どちらも有する患者群で比較したところ、奏効割合はオシメルチニブ群で66%、標準治療群で43%だった。オッズ比は2.5、95%信頼区間は1.2-5.2、p=0.011で有意にオシメルチニブ群が優れていた。

結論:

 オシメルチニブは未治療EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者において、中枢神経系への効果を有している。

 今回の調査結果は、オシメルチニブの方が標準治療よりも中枢神経系病変の発生を抑制する効果が高いと言える。