ステロイド使用中の患者とPD-1/PD-L1阻害薬の効果

 今回、アテゾリズマブ使用中に病勢進行と判断した患者さんは、アテゾリズマブ?コース終了時点で副腎機能不全に陥った。

 このころはいろいろと変なことが起こっていて、過去にペンブロリズマブで出たことのある多型紅斑とは違った、暗赤色の干しブドウみたいな皮疹(干しブドウ状の多発皮下血腫といった趣だった)の出現とともに凝固機能異常が出現して、慌てて抗凝固薬の内服を開始したりした。

 副腎皮質機能不全は定期検査のおかげで早めに捕まえることができて、よく言われるような倦怠感・食欲不振や末梢血中好酸球増多は認めなかった。

 しかし、主病巣がどこなのか突き止めるために、下垂体MRIやら、迅速ACTH負荷試験やら、CRH負荷試験やらを行って、患者さんには不思議な顔をされた。

 結局のところ下垂体機能は保たれていて、副腎皮質機能不全としてコートリル内服を開始した。

 以下の論文には、「治療開始後のステロイド使用は効果とあまり関係ない」と書かれているが、さて、どうだろうなあ。

 私自身は、定期的に内分泌機能をモニタリングしながら、できるだけコートリルの投与量を少なく抑えていこうと思っている。

 この辺は、他の疾患におけるステロイド漸減の経験が生きてきそうだ。

 免疫チェックポイント阻害薬の使用には、結構一般内科的なスキルが求められる。

 VEGF阻害薬が登場したときも、「がん専門医も血圧の治療くらいできなければ」とあちこちで言われていたが、今回はそんなもんじゃ済まない。

 他科連携はもちろん大事だけど、まずは一般内科としてのスキルアップをして、早期発見ができなければ、である。

Impact of Baseline Steroids on Efficacy of Programmed Cell Death-1 and Programmed Death-Ligand 1 Blockade in Patients With Non?Small-Cell Lung Cancer

Kathryn C. Arbour,et al. J Clin Oncol 36. 2018, DOI: https://doi.org/10.1200/JCO.2018.79.0006

目的:

 PD-1もしくはPD-L1阻害薬はもはや肺がん患者の標準治療となった。副腎皮質ステロイド薬の免疫抑制効果はPD-1/PD-L1阻害の効果を減じる可能性がある。PD-1/PD-L1阻害薬治療中に発生した免疫関連有害事象に対する治療としての副腎皮質ステロイド投与は治療効果には影響していないように見受けられるが、治療前から使用していた副腎皮質ステロイドがPD-1/PD-L1阻害薬治療開始時にどのような潜在的影響を持っているかは知られていない。臨床試験においては、通常副腎皮質ステロイドを使用している患者は除外される。今回は、治療開始時の副腎皮質ステロイドの影響を、実臨床データから探ることにした。

 

方法:

 今回の検討に参加した2施設(Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)とGustave Roussy Cancer Center(GRCC))において、過去にPD-1/PD-L1阻害薬治療歴のない進行非小細胞肺がん患者で、PD-1/PD-L1阻害薬単剤治療を受けた者を抽出した。臨床経過、薬物治療経過を参照し、PD-1/PD-L1阻害薬治療開始時に副腎皮質ステロイドを使用していた患者を特定した。コックス比例ハザードモデルとロジスティック回帰分析を用いて、多変数解析を行った。

結果:

 調査対象とした640人の患者のうち、90人(14%)が治療開始時点で、プレドニゾロン当量で1日10mg以上の副腎皮質ステロイドを使用していた。副腎皮質ステロイドを使用していた理由は呼吸困難(33%)、疲労感(21%)、脳転移(19%)だった。MSKCC(対象患者数455人)、GRCC(対象患者数185人)それぞれのコホートの解析において、治療開始時点での副腎皮質ステロイド使用は奏効割合、無増悪生存期間、全生存期間いずれにおいても有意な予後不良因子だった。全患者を対象とした多変数解析では、喫煙歴・PS・脳転移の病歴といった他の背景因子を調整しても、治療開始時点での副腎皮質ステロイド使用は無増悪生存期間の短縮(ハザード比1.3、p=0.03)、全生存期間の短縮(ハザード比1.7、p<0.001)と有意に相関していた。

結論:

 非小細胞肺がん患者に対してPD-1/PD-L1阻害薬を使用する場合、治療開始時点でプレドニゾロン当量で1日10mg以上のステロイドを使用していると、有意に予後不良だった。PD-1/PD-L1阻害薬を開始するときは、慎重な副腎皮質ステロイドの適用判断が望ましい。