免疫チェックポイント阻害薬が病状悪化を助長することもある?

 本庶先生のノーベル医学生理学賞受賞が決まり、さらに注目度が高まりそうなPD-1 / PD-L1阻害薬。

 ただ、効果判定は一筋縄ではいかない。

 以前から言われていたPseudo-progression(本当は治療が効いているのに、病巣への炎症細胞浸潤の影響で一時的に病巣が大きくなり、その後小さくなる現象)以外にも、本当に本治療薬が病状の悪化を助長していそうだ、という報告がちらほらあった。

 Hyperprogressive Disease(HPD)という概念だが、これまでの治療で原発巣のサイズが1年半くらいずっと変わらなかった自分の患者で、アテゾリズマブを使い始めた途端に増大したことを考えると、そんなこともあるのかも知れないな、と感じる。

 化学療法でも、ペンブロリズマブ(PD-1阻害薬)でも大きくならなかったのに、アテゾリズマブ(PD-L1阻害薬)を使い始めた途端に大きくなるって、いったいどういう機序なんだろう。

 

 今回の報告はレトロスペクティブ研究だが、興味深いので取り上げてみた。

 HPDが約14%で認められたとのこと。

 Pseudoprogressionが約5%で認められたとのことなので、真のHPDは差し引き9%程度ということか。

 単剤化学療法におけるHPDは約5%とのことだから、PD-1 / PD-L1阻害薬で2倍程度はHPDが発生したということだ。

 しかし、「進行の度合いが強い患者ほどHPDが多く認められるし、早期にHPDとなった患者は予後不良」というのは、当たり前といえば当たり前だ。

 

Hyperprogressive Disease in Patients With Advanced Non?Small Cell Lung Cancer Treated With PD-1/PD-L1 Inhibitors or With Single-Agent Chemotherapy

Roberto Ferrara, et al. JAMA Oncol. Published online September 6, 2018.

DOI:10.1001/jamaoncol.2018.3676

背景:

 超病勢進行(Hyperprogressive disease, HPD)はPD-1 / PD-L1阻害薬治療中のがん患者において、最近報告された病勢進行のパターンである。進行非小細胞肺がん患者においてHPDが起こる頻度やHPD発生後の予後については知られていない。

研究の目的:

 単剤化学療法による治療を受けた患者と比較して、PD-1 / PD-L1阻害薬治療を受けた進行非小細胞肺がん患者において、HPDが認められるかどうか、治療内容とHPDについて関連性が認められるかどうか調査することを目的とした。

研究の方法:

 多施設共同レトロスペクティブ研究とした。フランス国内で、2011年8月4日から2017年4月5日までに治療を受けた、前治療歴のある進行非小細胞肺がん患者を対象とした。PD-1 / PD-L1阻害薬による治療を受けた患者(8施設から集積)と単剤化学療法を受けた患者(4施設から集積)を集積した。RECIST ver.1.1基準における測定可能病変に対して、少なくともこれら治療前に2回、治療後に1回のCT撮影を行っていることを必須とした。今回の治療開始前、および治療中の腫瘍増殖速度(tumora growth rate, TGR)を計測した。HPDは初回効果判定時点で、月間のTGR変化量(ΔTGR)が50%を超える病勢進行と定義した。主要評価項目は各治療施行中のHPD発生割合とした。

結果:

 PD-1 / PD-L1阻害薬による治療を受けた対象患者は406人で、その63.8%は男性、46.3%(188人)は65歳以上、72.4%(294人)は非扁平上皮癌患者で、92.9%(377人)はPD-1阻害薬単剤療法を二次治療以降で受けていた。経過観察期間中央値は12.1ヶ月(95%信頼区間は10.1-13.8ヶ月)で、生存期間中央値は13.4ヶ月(95%信頼区間は10.2-17.0ヶ月)だった。13.8%(56人)の患者はHPDと判定された。偽進行(pseudoprogression)は4.7%(19人)で認めた。HPDはPD-1 / PD-L1療法導入前に2ヶ所以上の遠隔転移巣を有していた患者で有意に高頻度に認められた(HPD患者65人中、複数の遠隔転移を有していた患者は35人(62.5%)で、非HPD患者350人中、複数の遠隔転移を有していた患者は149人(42.6%)、p=0.006)。PD-1 / PD-L1阻害薬治療開始後6週間以内にHPDと判定された患者では、通常の病勢進行の患者と比較して有意に生命予後不良だった(生存期間中央値は前者で3.4ヶ月(95%信頼区間2.8-7.5ヶ月)、後者で6.2ヶ月(95%信頼区間5.3-7.9ヶ月)、ハザード比2.18(95%信頼区間1.29-3.69)、p=0.003)。単剤化学療法による治療を受けた対象患者59人のうち、HPDと判定されたのは5.1%(3人)だった。

結論:

 今回の調査では、前治療歴を有する進行非小細胞肺がん患者において、PD-1 / PD-L1阻害薬での治療を受けた患者の方が単剤化学療法を受けた患者よりHPDを起こすことが多かった。また、PD-1 / PD-L1阻害薬治療を受けた場合、転移巣が多い(≒進行の度合いの強い)ことと生命予後不良であることの相関が認められた。