フェントステープとアブストラル

 疼痛コントロールを続けている入院患者の治療内容がなかなかまとまらない。

 転院当時はオキシコンチン+オキノームの組み合わせで治療していたが、眠気やだるさが強いとのことで、フェントステープに切り替えてみた。

 疼痛緩和と眠気のバランスのいいところで、8mgで維持することにしたが、それでも突出痛を完全にはコントロールできない。

 レスキューはオキノームを継続使用していたが、使用薬物を統一するためにアブストラルを使うことにした。

 フェントステープは麻薬フェンタニールの貼付薬で、アブストラルは同じく麻薬フェンタニールのレスキュー使用のための舌下崩壊錠である。

 オキシコンチンを使っていた時よりも、フェントステープに代えてからの方が眠気やだるさが軽減していたので、アブストラルでも同じような効果を期待した。

 実際に使い始めてみると、他の麻薬のレスキュー使用とは異なる考え方が必要なことが分かった。

 定時使用の麻薬の量によらず、アブストラルのレスキュー使用量は一律に決められている。

 定時使用の麻薬が多かろうが少なかろうが、アブストラル開始時点の初回投与量は100μg/回と決められている。

 使用して痛みの緩和が不十分なら30分以内にもう1回分追加可能、それ以降は2時間経過しないと再投与不可。

 1日での総投与回数は4回まで。

 はっきりいって、使いにくい。

 4回使用してしまうとその後はレスキューが使えず、患者が我慢しなければならない時間が長くなる。

 下記のように、定時の麻薬使用量とアブストラル頓用の至適投与量が相関しないからというのが理由らしい。

 しかし、経口モルヒネ換算で360mg/日以上の高用量を使用していた場合、アブストラルの至適投与量は300μg以上である。

 今回の患者についていえば経口モルヒネ換算で240mg/日相当だったので該当しないのだが、開始用量については市販後調査でもう少し検討した方がいいような印象を受けた。

 また、薬の特性なのかもしれないが、吸収が速やかで、鎮痛効果も傾眠効果も早く訪れる。

 痛みが軽くなると同時に患者が眠ってしまい、活動不能になる。

 起きたときには痛みも甦っている。

 下記の薬物動態の資料を見ると、用量によらず、最高血中濃度に達するまでの時間は30-60分、最高血中濃度と経時的血中濃度積算量(AUC)は用量依存的に上がり、半減期は400μg/回以上では延長しないようだが、曲線を見る限りは用量が多い方が効果持続時間も長そうだった。

 ただ、患者の感想を素直に受け止めると、効きは早いが効果が切れるのも早い、とのことだった。

 痛みを抑えるには定時用量を増やしたいし、眠気を抑えるには定時用量を減らしたいし、突出痛を速やかに抑えるにはアブストラルがいいけど、効果持続時間(=レスキューを使わずに済む時間)を優先しようとすればオキノームの方が有利そうだし・・・とジレンマに陥っている。

 ここまでの感触から言えば、フェントステープとオキノームの組み合わせに戻した方が本人の満足度は高くなりそうな印象だ。