淡々と肺がん患者データベースを更新し続けていたが、更新するばっかりでなんの発信作業もしていなかった。
ふと思い立って調べてみたことを書き残す。
ここ5年間、呼吸器内科で診断作業に関わった新規肺がん患者数を調べてみた。
2014年度:95人
2015年度:71人
2016年度:65人
2017年度:79人
2018年度:89人(まだ増える可能性あり)
・・・ここ最近、データベースの更新作業がきついのがよく分かった。
例年より新規の患者数が多いのだ。
年々治療が改善されて、患者の寿命が延びている上に、新規患者数が増えているのだから、そりゃ作業もきつくなる。
当然診療もきつくなるわけで、診療に当たる医師が増えなければ一人当たりの業務も増える。
診療の質が落ちないように、個々人ではなく病院として、医療界として何をすべきなのか、考えなければならない。
EGFR遺伝子変異検出状況について、2018年4月1日以降のデータを紐解いてみた。
今日までの間に、新規に診断された肺がん患者は89人。
そのうち非小細胞肺がん患者は76人。
腺がんの患者は51人だった。
最近では、ドライバー遺伝子変異は腺がんの患者でしか調べていない。
腺がんの患者のうち、EGFR遺伝子変異について検査されたのは34人(67%)、検査されなかったのは17人(33%)。
検査されなかった17人の内訳は、手術された人で13人、手術適応とならなかった進行期の人で1人、肺がんと診断するための検査だけを受けてその後受診していない人が3人だった。
検査された34人のうち、EGFR遺伝子変異陽性だった人が18人(53%)、結構高率に見つかっている。
手術されて、EGFR遺伝子変異検査も受けた12人のうち、EGFR遺伝子変異陽性だったのは8人(67%)。
手術適応とならなかった進行期で、EGFR遺伝子変異検査を受けた21人のうち、EGFR遺伝子変異陽性だったのは9人(43%)。
意外だなと思ったのは、いわゆるminor mutationの患者の多さで、EGFR遺伝子変異陽性だった患者18人のうち、3人(17%)にも上っていた。
また、EGFR遺伝子変異検査陰性で、ALK融合遺伝子陽性だった患者が1人だけいた(腺がん全体の2%)。
手術をした患者で、摘出した病巣を用いて直ちにEGFR遺伝子変異の検索をするかどうかは、意見の分かれるところだろう。
EGFR遺伝子変異が分かっていたら、万が一再発したときの治療指針が速やかに立てられる。
一方で、終生再発しなかったとしたら、単なる医療費(EGFR遺伝子変異の検査費)の無駄遣いに終わってしまう。
手術適応のない患者ではほぼもれなくEGFR遺伝子変異が調べられていたのに安心した。
一方、手術適応のない患者の中で、たった一人だけEGFR遺伝子変異検査を受けていなかった人は、初回治療からいきなりペンブロリズマブが使用されていた。
データベースで確認する限りではTPSの状況は分からなかったが、まずはドライバー遺伝子変異から検索して治療指針を組み立てるべきだろう。
もしこの患者がEGFR遺伝子変異陽性だったときに、ペンブロリズマブが先行投与されていたら、病勢進行後にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使うと間質性肺炎のリスクが高くなるからだ。