小細胞肺癌に形質転換したEGFR遺伝子変異陽性肺腺癌の予後

 実地臨床では滅多にお目にかからないけれど、しばしば相談を受けるのは、EGFR肺がんの治療中に小細胞がんに変わってしまったという患者さん。

 困ったことに、相談を受けた方々はみなさんタバコを吸わない人ばかり。

 小細胞がんはタバコを吸う人の病気であって、自業自得でしょ、という論理は通用しない。

 実際、今回の論文で対象となった患者さんのうち73%は非喫煙者であり、初回診断から小細胞癌だった方に至っては全例が非喫煙者である。

 裏を返せば、非喫煙者に発生した小細胞癌は、何らかの個別のドライバー遺伝子変異に依存しているという仮説も成り立つのではないか。

 非喫煙者の小細胞癌を見つけたら、網羅的遺伝子解析を加えたら何らかのドライバー遺伝子変異が見つかって、治療につながるのではないだろうか。

 今回の論文では、小細胞癌形質転換後にパクリタキセルやナブパクリタキセルが有用であるとか、免疫チェックポイント阻害薬が全く効かないとか、実臨床で役に立ちそうなtipsが散見される。

 また、形質転換後もEGFR-TKIを使用された患者が半数に上るというのも、患者・医療者の心情をうかがわせる。

 稀な病態で臨床試験を組みにくい患者群だけに、こうしたレトロスペクティブな論文でもしっかりと輝きを放っている。

 治療が複雑化し、治療経過を含めた患者背景の多様性が今後増していく一方であることを考えると、今後はこうしたレトロスペクティブな報告の重要性が増すかもしれない。

 

EGFR-Mutant Adenocarcinomas That Transform to Small-Cell Lung Cancer and Other Neuroendocrine Carcinomas: Clinical Outcomes.

Marcoux N, et al. J Clin Oncol. 2019 Feb 1;37(4):278-285

背景:

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者のうち、おおむね3-10%は、治療経過中に小細胞肺癌に形質転換すると言われている。しかし、こうした患者の臨床経過については、あまりよく知られていない。

方法:

 EGFR遺伝子変異陽性の小細胞肺癌、あるいは高悪性度神経内分泌癌の患者を8施設から集積し、その臨床的特徴を調べた。

結果:

 67人の患者が抽出された。38人は女性、29人は男性だった。Exon 19欠失変異が46人(69%)、Exon 21 L858R点突然変異が17人(25%)、その他が2人(6%)だった。初回診断時点で、58人は非小細胞肺癌、9人は小細胞癌もしくは混合型小細胞肺癌と診断されていた。小細胞肺癌もしくは混合型小細胞肺癌と診断されたこれら9人を除き、残り58人は全て、小細胞肺癌への形質転換を来す前に、1種類もしくは多種類のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けていた。初回診断から、小細胞肺癌形質転換を来すまでの期間中央値は17.8ヶ月(95%信頼区間は14.3ヶ月-26.2ヶ月)だった。形質転換を来してからは、プラチナ製剤+エトポシド併用療法もしくはタキサン単剤療法を行うと高い奏効割合を示したが、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた17人では全く効果が見られなかった。初回診断からの生存期間中央値は31.5ヶ月(95%信頼区間は24.8-41.3ヶ月)、一方で小細胞肺癌形質転換を来してからの生存期間中央値は10.9ヶ月(95%信頼区間は8.0-13.7ヶ月)だった。59人の患者では、小細胞肺癌と最初に診断された時点で、組織を用いた遺伝子変異解析が行われた。これらすべての患者において、当初からあったEGFR遺伝子変異は引き続き認められ、T790M変異が確認されていた19人のうち15人では、小細胞肺癌形質転換が確認された時点ではT790M変異が消失していた。その他、TP53やRb1、PIK3CAの変異も認められた。小細胞肺癌に対する治療後、数人の患者では非小細胞肺癌クローンの再活性化も認められた。小細胞肺癌形質転換後は、中枢神経系への転移が高頻度に認められた。

 以下、本文より気になったところを箇条書き

・今回の報告では、小細胞肺癌、高悪性度神経内分泌癌を一括して小細胞肺癌と表記する

・2006年から2018年までに、遺伝子変異陽性小細胞肺癌と診断された67人を抽出した

・女性38人、男性29人

・年齢中央値は56歳

・白人が49%、アジア人が42%だった

非喫煙者は73%だった

・初回診断時に非小細胞肺癌と診断されたのは58人(87%)で、うち57人(83%)は腺癌だった

・9人(13%)は初回診断時から小細胞肺癌、もしくは混合型小細胞肺癌と診断されていた

・67人すべてが初回診断時にEGFR遺伝子変異を有しており、Exon 19欠失変異が46人(69%)、Exon 21 L858R点突然変異が17人(25%)だった

・初回診断時点で非小細胞肺癌と診断された58人は、全例が小細胞癌形質転換までに薬物療法を受けており、治療レジメンの中央値は2レジメン(1-6)で、そのうち少なくとも1レジメンはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(以下EGFR-TKIと略)を使用していた

・初回治療でオシメルチニブを使用した患者は1人のみだった

・17人(29%)の患者は治療開始後にT790M耐性変異を獲得していた

・23人(40%)の患者は形質転換までに2レジメン以上のEGFR-TKIを使用していた

・EGFR-TKI使用開始から形質転換までの期間中央値は15.8ヶ月(1.3-53.4)だった

・初回診断から形質転換までの期間中央値は17.8ヶ月(14.3-26.2)だった

・ほとんどの患者(53/58=93%)は形質転換時点でEGFR-TKIを使用中だった

・形質転換が確認された時点において(小細胞癌と初回診断された患者はその時点において)、65人(97%)は古典的な小細胞癌と診断され、残り2人は大細胞神経内分泌癌と診断された

・形質転換後に遺伝子変異検索が行われた患者の全てにおいて、初回診断時に確認されたEGFR遺伝子変異がそのまま保持されていた

・形質転換時点でT790M変異を伴っていた患者は5人いて、そのうち1人は初回診断時から、3人はEGFR-TKI開始から形質転換までに、1人は形質転換後にT790Mが確認された

・T790M変異を認めた小細胞癌患者5人のうち、非小細胞肺癌・小細胞肺癌の混合型の組織像をとっていたものが2人含まれていた

・もともとT790M変異が確認されていた19人のうち、15人では形質転換時にT790M変異が消失しており、その中には初回診断時からT790M変異を伴っていた患者1人も含まれていた

・ごく一部の患者では、初回診断時に次世代シーケンサーを用いてがん抑制遺伝子TP53やRb1の検索がなされ、TP53は100%(7人中7人)、Rb1は50%(8人中4人)で検出された

・形質転換時点でがん抑制遺伝子を検討したところ、TP53変異を79%(38/48)、Rb1変異を58%(18/31)、PIK3CA変異を27%(14/52)に認めた

・形質転換が確認されたのち、多くの患者が化学療法を受け、その治療レジメン中央値は2レジメン(0-6)だった

・プラチナ製剤+エトポシド併用療法が最も頻用され、53人が治療を受けており、そのうち10人は形質転換前に既にプラチナ併用化学療法を受けていた

・データ入手可能だった患者46人について解析したところ、プラチナ製剤+エトポシド併用療法の奏功割合は54%だった

・腺癌に対するプラチナ併用化学療法治療歴のある患者10人に限って言えば奏効割合は80%(8/10)だった

・プラチナ製剤+エトポシド併用化学療法後の無増悪生存期間中央値は3.4ヶ月(2.4-5.4)だった

・免疫チェックポイント阻害薬を使用した17人の患者では、奏効は全く見られず、臨床的有用性も皆無だった

・PD-1阻害薬、PD-L1阻害薬いずれかの単剤療法を受けた患者が9人、イピリムマブ+ニボルマブ併用療法を受けた患者が8人いた

・最も長い期間免疫チェックポイント阻害薬の治療を続けた患者ですら、その期間はたった9週間に過ぎなかった

・タキサン系の化学療法を受けた患者は21人おり、形質転換後タキサン投与までの治療レジメン中央値は2レジメンだった

・タキサン単剤療法を受けた患者は、21人中14人だった

・データ入手可能だった20人について解析したところ、タキサンを含むレジメンの奏功割合は50%で、著効例も含まれていた

・タキサン系治療開始後の無増悪生存期間中央値は2.7ヶ月(1.3-3.4)だった

・パクリタキセル使用患者7人での奏効割合71%(5/7)、ナブパクリタキセル使用患者7人での奏効割合71%(5/7)の一方で、ドセタキセルを使用した6人の中には奏効した患者はいなかった

・形質転換時点で、病勢進行を示していた病巣から採取した組織標本内に腺癌組織が含まれていた患者が少なくとも4人いた

・形質転換後は中枢神経系転移を高率に認めた

・中枢神経系の経過を追跡できた59人の患者のうち、38人(64%)は経過中に中枢神経病変による病勢進行を認めた

・形質転換後の経過観察期間中央値は8.1ヶ月(0-26.9)で、その間に45人(67%)の患者が死亡した

・初回診断からの生存期間中央値は31.5ヶ月(24.8-41.3)だった

・形質転換確認からの生存期間中央値は10.9ヶ月(8.0-13.7)だった