抗生物質の供給不安

 今、院内でちょっとした問題になっているのが、表題の抗生物質の問題。

 外科領域で、術後の感染予防と称して頻用されるセファゾリンが供給不能になっており、代替薬として他の抗菌薬が使用されるため、抗菌薬全般が品不足になっているとのこと。

 以下のリンクは2019年05月の記事だが、未だに供給困難な状況が続いている。

 https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=67472

 国のジェネリック医薬品普及政策に乗り、当院でもさまざまな薬のジェネリック医薬品への代替が進んでいる。

 そうした中で起こった、ジェネリック抗生物質の供給不安問題。

 先発医薬品を取り扱っているメーカーの方にお伺いしたところ、

・先発品のメーカーは、供給不安に陥らないように、原料の調達先を分散して、リスク管理をしている

ジェネリック医薬品のメーカーは、少数の調達先に依存する傾向がある

・今回はそのような構造的な問題を抱えており、短期間には終息しないだろう

・国としても、ジェネリック医薬品への代替について旗振りをしたために、いまさら旗を降ろせないのではないか

とのこと。

 先だって、遅ればせながら「恐怖の男 トランプ政権の真実」という本を読んだ。

 現在の米政権の意思決定がどのように為されているのか(為されてきたのか)を知るうえでとても興味深い本だった。

 その388から389ページ、中国との貿易摩擦問題を扱った章にこんな記載がある。

 米中貿易摩擦問題と我が国の抗生物質供給不安、こうした経緯でつながるのかと、個人的に得心がいった。

 果たして我々は、もし「肺がん薬物療法中の患者に発熱性好中球減少症や肺炎が起こったとき、抗生物質が使えなければ、どう説明すればいいのか」。

 ジェネリック抗生物質を普及させて供給不安を招く一方で、生活保護の重喫煙者に発生した肺がんに対して高額の免疫チェックポイント阻害薬を惜しみなく使うことに、果たして経済合理性はあるのだろうか。

 韓国の半導体産業も今頃はそうしているだろうが、我が国も抗生物質の供給網について、よくよく考える必要があるだろう。

・・・トランプとのべつの話し合いでコーンは、アメリカは中国との貿易を絶対的に必要としているという、商務省の研究を明らかにした。

 「大統領が中国だとして、アメリカを破滅させたいのであれば、抗生物質の輸出を中止すればいいんです。アメリカ国内で抗生物質がほとんど製造されていないのを、ご存知ですか?」」

 その研究は、ペニシリンを含む主な抗生物質九品目が、アメリカ国内で生産されていないことを示していた。アメリカで使用されている抗生物質の96.6%が、中国からの輸入だった。

 「私たちはペニシリンを製造していません」

 トランプが、不思議そうな顔で、コーンを見た。

 「大統領、つまり、赤ん坊が溶連菌感染症で死にかけているときに、どう説明すればいいのか、ということですよ」

 コーンは、そういう状況で話しかけるように、トランプに向かって言った。

 「貿易赤字のせいなんです」

 とでもいうのですか?

 「別の国から買えばいい」

 トランプが提案した。

 「つまり、中国はそれ(抗生物質)をドイツに売り、ドイツがそれに利益を乗せて、私たちに売る。中国との貿易赤字は減りますが、ドイツとの貿易赤字は増えます」

 利益が乗せられた分を、アメリカの消費者が払うことになる。

 「それは私たちの経済にとって、いいことでしょうか?」

 ドイツではない国から買えばいいと、ナバロがいった。

 問題は変わらないと、コーンは答えた。

 「タイタニック号のデッキチェアをならべ替えるだけのことです」