がん病巣の分子イメージングは肺腺がん手術成績を改善するか

 原発肺腺がんの手術成績を改善する・・・かもしれない術中イメージング技術。

 2020/01/27の米国胸部外科学会のプレナリーセッションで発表された様子。

 しかし・・・我が国における原発肺腺がんの手術成績は、過去の記事に示すように、もともと改善の余地が少ない。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960441.html

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968113.html

 また、肺の表面に近い病巣でないと、本法では検出できないのではないだろうか。

 記事を読んでいて、応用範囲はそれほど広くないかもしれないと感じた。

 例えば、原因不明の胸水貯留患者に対して局所麻酔下胸腔鏡検査を行うにあたり本法を利用して生検部位を決めるとか、我が国なりの応用法はあるかもしれない。

 ・・・胸腔鏡下の通常観察である程度確認できるから、やっぱりだめか・・・。

 術前に腺がんと診断されている患者を対象に、OTL38分子イメージングでリンパ節郭清の範囲を決める、とかはいいかもしれない。

 乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検と同じ発想だ。

Intraoperative Molecular Imaging Technology Helps Surgeons to Detect NSCLC

Sidharta P. Gangadharan, et al.

Plenary session, the 56th Annual Meeting of the Society of Thoracic Surgeons, 2020.

方法:

 非小細胞肺がんに対する肺切除術を予定している92人の患者を対象とし、がん病巣を同定するための第II相臨床試験に、ピッツバーグ大学、ペンシルベニア大学ハーバード大学クリーブランドクリニック、ライデン大学テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの6施設が参加した。

 OTL38は、近赤外線を発する蛍光物質と標的分子を結合させた薬品で、各患者は術前にOTL38を経静脈投与された。OTL38はがん細胞上の葉酸基を含む受容体に結合し、特殊な胸腔鏡を用いることで病巣が蛍光を発して見えるようになる。

 研究は、「精査相」、「腫瘍切除相」、「病理組織チェック相」の3つの相に区分された。

 

結果:

 「精査相」において、OTL38分子イメージングにより7人(8%)の患者の10か所の新たながん病巣が同定された。この10か所は、通常の目視、および触診では見落とされていた。「腫瘍切除相」では、OTL38分子イメージングにより11人(12%)の患者において、発見できなかったがん病巣の局在を明らかにすることができた。「病理組織チェック相」においては、外科医が目視において切除マージンが十分かつ適切と判断した場合でも、OTL38分子イメージングにより切除組織を精査した。不適切な切除マージン(顕微鏡下で確認すると、切除縁にがん細胞が認められる=術後の体内にがん細胞が残っている可能性が高い)であることが8人(9%)の患者で確認された。全体として、OTL38分子イメージングはほぼ4人に1人(26%)の患者で治療内容の改善に役立つことが示された。

 「OTL38イメージングは、肺進行がんの多数を占める肺腺がんのイメージングに特化した初めての、ユニークな、そして臨床的意義のある医療技術であり、がんの局在診断、既存の技術では発見が難しい潜在がん(occult cancer)の発見、肺腺がんを切除する際の適切な切除マージン設定と、様々な場面で改善が期待できる」

 「OTL38による近赤外線イメージングは、がん病巣をより明瞭に視覚化して完全に切除するための強力なツールとして、外科医の診療に役立つだろう」

と研究者の一人は語っている。

 外科切除は、早期非小細胞肺がんの治癒を目指すものとして、今でも最良の治療であり続けている。しかし、非小細胞肺がんの手術を受けた患者の30-55%が再発するとされており、それはしばしば、これまでの術前病期診断では検出できない、顕微鏡下でしか検出できない微量のがん細胞集団により引き起こされる。そのため、肉眼的にも、顕微鏡的にも、完全な腫瘍病巣除去を手術中に確認することが必要である。

 現在はOTL38分子イメージングの臨床的有用性を検証する第III相試験が進行中である。