新型コロナウイルスの陰に潜む、オリンピックイヤーのマイコプラズマ

 我々はいま、医療人としての職業倫理を問われている。

 新型コロナウイルス感染症が世界を席巻する中、多分医療人は3種類に区分されている。

 新型コロナウイルス感染の可能性が少しでもあれば、診療を拒否するグループ。

 新型コロナウイルス感染者を、積極的に受け入れざるを得ないグループ。

 そして、新型コロナウイルス感染の可能性がある患者を受け入れて、診断作業はするものの治療は他院に依頼するグループ。

 今のところ、私は3番目のグループに属している。

 指定医療機関新型コロナウイルス感染症患者を収容しきれなくなったら、2番目に格上げとなる予定。

 

 冒頭、なぜ職業倫理の話を持ち出したのかというと、1番目のグループに属する医療人が少なくないと思われるからだ。

 昨日外来を受診した気管支喘息の初診の患者から、

 「診療を受け入れてくださってどうもありがとうございます」

と開口一番、感謝された。

 確かに、数日前に電話で初診依頼を受けて、それでは予約診療として来ていただきましょうと対応した。

 そんなの当り前ですよ、と答えようとすると、

 「私が、3月末に仕事の都合で近畿地方から転居してきた、咳が続いて困っているので受診したいと話すと、どこも診療してくれないんですよ」

 「医療機関を経営する知人に相談したところ、この先生なら責任もって診療してくれるよ、と薦めてくれたので相談しました」

とのこと。

 いったい、どれだけ断られたんだろう。

 そして、医療機関を経営する知人って、誰だろう。

 教えてくれなかったんだけど、大分で医療機関を経営する人なら、なんで自分で診てあげようと思わなかったんだろう。

 当日いろいろと調べてみたが、結局は気管支喘息と鉄欠乏性貧血があっただけで、新型コロナウイルス感染の兆しはなかった。

 で、もう一人。

 こちらは39℃から40℃の発熱があり、所轄の保健所に電話相談したうえで、最寄りの医療機関を受診しなさいと指示され、当院にやってきた。

 のっけから警戒して取り組んだ。

 これまでの保健所とのやり取りから、新型コロナウイルス感染確定者との明らかな接触歴、県外・海外への移動歴がない発熱患者の場合は、血液検査、尿検査で他の気道感染を除外して、CTで肺炎の有無を確認した後でないと新型コロナウイルスPCR検査の検討すらしてくれないことははっきりしている。

 それがわかってから、発熱外来受診を希望している患者には、事情を説明して、診察前にこれらの検査を受けていただくことにしている。

 個人的に「新型コロナウイルス対応検査」という名前を勝手につけて、一連のセット検査にした。

 この患者さんにもセット検査を受けていただいて、結局のところ、マイコプラズマ気管支炎であることが判明した。

 

 実際のところ、これまで私自身は新型コロナウイルスPCR陽性となった患者を診療していない。

 一方、今シーズンは、マイコプラズマ感染患者をやたらと目にする。

 新型コロナウイルスをひっかけようとして、予想外にマイコプラズマ感染が引っかかってくる。

 本来、今年はオリンピックイヤーだったはずだ。

 私が医学生だった20世紀末から、マイコプラズマはオリンピックイヤーに流行する、という都市伝説が存在する。

 さすがのマイコプラズマも、オリンピックが延期になるとは予想していなかったようだ。

 

 当然、肺がん患者さんにもマイコプラズマは感染する。

 発熱、痰があまり絡まない頑固な咳、家族内発症といった所見があれば、積極的にマイコプラズマ感染を疑いたい。