JCOG1205/1206・・・斜陽のイリノテカン

 初期のパイロットスタディー立案に関わった立場としては寂しい限りだ。

 小細胞肺がん、大細胞神経内分泌がんの術後補助化学療法として、シスプラチン+イリノテカン併用療法の有効性を検証した本試験。

 残念ながら、シスプラチン+エトポシド併用療法に対する優越性を示すことはできなかった。

 時代の流れというべきではないか。

 イリノテカンという薬は、下痢の対処、UGT1A1遺伝子多型を評価する必要、毎週イリノテカン分割投与、という手間がある。

 進展型小細胞肺がんに対するイリノテカンの有効性は、我が国の第III相臨床試験で示されているものの、その位置づけは年々低下している印象がある。

 プラチナ製剤+エトポシド併用療法が世界的な標準と位置付けられ、免疫チェックポイント阻害薬が治療に組み込まれるようになって、いよいよ存在感が低下している。

 これも時代の要請だろう。

 治療の効果もさることながら、これだけ外来化学療法が普及してくると、治療の利便性、という臨床試験には表れない評価基準は、避けて通れない。

 少なくとも肺がん領域では、イリノテカンは実臨床における自然淘汰にさらされているのだ。

 本試験では、主要評価項目が全生存期間から3年無再発生存割合に変更されている。

 折に触れて記しているが、第III相臨床試験において、主要評価項目を変更するのは、私個人としては禁じ手だと思っている。

 臨床試験そのものの信頼性に関わる問題である。

 だがしかし、今回の変更、中間解析時点での無効中止の判断は、時代の流れを汲み取り、早期に結論を出すための苦渋の決断だったのではないかと想像する。

 

 さようなら、イリノテカン。

 こんにちは、免疫チェックポイント阻害薬。

 きっと次のステップでは、同じ患者集団を対象に、シスプラチン+エトポシド併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を加えるかどうか、というコンセプトを考えるのではないだろうか。

 私なら、そのために本試験を早期中止する。

 だけど。

 重喫煙者が多数を占めるこの患者集団に、医療費の高騰を招く上記のような臨床試験コンセプトは、受け入れがたい。

 喫煙習慣撲滅以上に効果が期待できる臨床試験、この患者集団に立案できるだろうか。

 たばこ業界と製薬業界には悪いが、喫煙者を触媒にして利益を得るのは、もういい加減やめてほしい。

 消費者には自己を守る意識を、医療者には納税者への責任を肝に銘じてほしい。

Randomized phase III study of irinotecan/cisplatin (IP) versus etoposide/cisplatin (EP) for completely resected high-grade neuroendocrine carcinoma (HGNEC) of the lung: JCOG1205/1206.

Hirotsugu Kenmotsu. et al.

2020 ASCO Virtual Scientific Program

abst.#9006

背景:

 肺がんWHO分類では、小細胞肺がんと大細胞神経内分泌がんは肺原発の高悪性度神経内分泌がんと捉えられている。完全切除後の肺原発高悪性度神経内分泌がんの術後補助化学療法について検討した無作為化比較試験は皆無だが、シスプラチン+エトポシド併用化学療法が標準治療と位置付けられている。一方、進展型小細胞肺がんに対しては、第III相比較試験(JCOG9511試験)で、シスプラチン+エトポシド併用療法に対するシスプラチン+イリノテカン併用療法の優位性が示されている。

方法:

 完全切除後の高悪性度神経内分泌がんの患者を対象とし、EP群:エトポシド(100mg/?、1-3日目)+シスプラチン(80mg/?、1日目)とIP群:イリノテカン(60mg/?、1日目、8日目、15日目)+シスプラチン(60mg/?、1日目)に1:1の割合で無作為割付を行った。性別、病理病期、組織型、参加施設を割付調整因子とし、最小化法を用いて無作為化した。主要評価項目は当初全生存期間だったが、試験期間中に無再発生存期間に改めた。3年無再発生存割合をEP群で59%、IP群で72%、ハザード比を0.623とする仮説を立てた。80%の検出率、αエラーは片側検定で、有意水準5%と設定した。予定集積患者数は220人、患者集積期間を6年間、追跡期間を3年間とした。

結果:

 2013年4月から2018年10月の期間に、221人の患者を集積した。年齢中央値は66歳、病理病期I期の患者が54%と半数以上を占め、小細胞がんの患者が53%とやはり半数以上を占めた。111人をEP群に、110人をIP群に割り付けた。2回目の中間解析において、主要評価項目の解析を行う時点でIP群がEP群を上回る確率が15.9%だったため、本試験は早期終了すべし、との結論に至った。追跡期間中央値24.1ヶ月の時点で、3年無増悪生存割合はEP群で65.4%、IP群で69.0%、ハザード比1.076(95%信頼区間は0.666-1.738、p=0.619)だった。組織型別のサブグループ解析で、小細胞がんにおける3年無再発生存割合はEP群で65.2%、IP群で66.5%、ハザード比1.029(95%信頼区間は0.544-1.944)、大細胞神経内分泌がんにおける3年無再発生存割合はEP群で66.5%、IP群で72.0%、ハザード比1.072(95%信頼区間は0.517-2.222)だった。3年全生存割合はEP群で84.1%、IP群で79.0%、ハザード比は1.539(95%信頼区間は0.760-3.117)だった。治療完遂割合はEP群で87.4%、IP群で72.7%だった。EP群、IP群におけるGrade 3 / 4の有害事象発生割合は、発熱性好中球減少症が20.2%、3.7%、好中球減少症が97.2%、35.8%で、これらはEP群でより高頻度だった。一方、Grade 3 / 4の下痢は0.9%、8.3%、食欲不振は6.4%、11.1%で、これら消化器症状はIP群で高頻度だった。IP群の中で1人だけ、気管内出血による治療関連死を認めた。

結論:

 本試験では、完全切除後高悪性度神経内分泌がんの患者の術後補助化学療法において、EP群に対するIP群の優越性を証明できなかった。シスプラチン+エトポシド併用療法は、引き続き本患者群の標準治療と位置付けられる。