・限局型肺小細胞がんに対するシスプラチン・エトポシド併用療法+同時併用加速過分割胸部放射線照射

 

 分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、21世紀に入ってからの肺がん薬物療法は随分と様変わりしてきました・・・、という語り口ももはや陳腐化してきましたね。

 21世紀もほぼ四半世紀を既に終えようとしており、「新世紀」とか「21世紀」という言葉自体が既に死語になりつつある気がします。

 そんななかでも、20世紀医療の産物でありながらいまだに輝きを放ち続けているのが、限局型肺小細胞がんに対するシスプラチン・エトポシド併用療法+同時併用加速過分割胸部放射線照射です。

 本治療のもととなった第III相臨床試験が患者登録を開始したのが1989年05月、論文として報告されたのが1999年1月ですから、ほぼ35年にわたって続けられている治療です。

 プラチナ製剤・エトポシド併用療法は、限局型、進展型を問わず、肺小細胞がんの初回治療の揺るがぬ軸として在り続けています。

 そして、実地臨床での遂行には様々な障害があるとはいえ、1.5Gyを1日2回、15日間、計45Gyの加速過分割胸部放射線照射は、1.8Gyを1日1回、25日間、計45Gyの標準照射と比較して、5年生存割合を10%向上させ、生存期間中央値を4ヶ月延長しています。

 後の記事で触れるように、本病態を対象とした臨床試験は1日1回、計60-70Gy程度の胸部放射線照射を前提として進められていますが、治療上の重要なコンセプトとして、是非加速過分割照射を忘れずにいてほしいものです。

 なお、本論文は肺小細胞がんの病期分類(限局型 / 進展型)の考え方を学ぶのにも有益な、マスターピースと言っていいと思います。

 若手の呼吸器内科医や腫瘍内科医を対象とした抄読会や勉強会にお勧めです。

 

 

 

Twice-daily compared with once-daily thoracic radiotherapy in limited small-cell lung cancer treated concurrently with cisplatin and etoposide

 

A T Turrisi 3rd. et al.
N Engl J Med. 1999 Jan 28;340(4):265-71. 
doi: 10.1056/NEJM199901283400403.

 

背景:

 片側の胸郭内に病巣が留まる小細胞肺がん(限局型小細胞肺がん)に対する胸部放射線照射は生命予後を改善するが、化学療法と胸部放射線照射をどのように組み合わせて行うのが最善なのか、結論がでていない。1日1回照射法に比べて、1日2回の加速過分割胸部放射線照射法(Hyper-Fractionated Accelarated RadioTherapy, HF-ART)は治療効果が優れる可能性がある。

 

方法:

 限局型小細胞肺がん患者417人を対象に臨床試験を行った。全ての患者は21日周期のシスプラチン+エトポシド併用化学療法を受けた。加えて対象患者に対して総量45Gyの同時併用胸部放射線照射を行うこととし、1日2回で治療期間を3週間とする加速過分割放射線照射群(HF-ART群:211人)と1日1回で治療期間を5週間とする通常照射群(TRT群:206人)に無作為に割り付けた。

 

結果:

 HF-ART群では、TRT群と比較して有意に生存期間が延長した(ログランク検定でp=0.04)。追跡期間中央値ほぼ8年間を経過したのちのデータとして、生存期間中央値はHF-ART群で23ヶ月、TRT群で19ヶ月だった。2年生存割合はHF-ART群で47%、TRT群で41%、5年生存割合はHF-ART群で26%、TRT群で16%だった。Grade3の食道炎はHF-ART群27%、TRT群11%とHF-ART群で有意に高頻度に認められた。

 

結論:

 シスプラチン+エトポシド併用化学療法4コースと化学療法1コース目からの同時併用胸部放射線照射(総量45Gy、1日1回照射もしく1日2回照射)を行うと全体として2年生存割合44%、5年生存割合23%が見込め、限局型小細胞肺がんに対する過去の報告と比較して一定の生存割合改善効果が得られた。

 

本文より:

・1989年05月から1992年07月までに417人(HF-ART群211人、TRT群206人)の患者が無作為割付され、生存期間解析対象となった

・36人(HF-ART群15人、TRT群21人)は適格条件を満たしておらず、有効性(腫瘍縮小効果)解析から除外された

・417-36=381人(HF-ART群196人、TRT群185人)が有効性解析対象となった

・対象患者の適格条件は以下の通り

 病理組織診あるいは細胞診で肺小細胞がんと診断されている

 病巣が片側胸郭内および同側鎖骨上窩までにおさまっている

 胸部レントゲンで確認しうる胸水貯留がない(胸水細胞診の結果は問わない)

 原発巣と反対側の肺門リンパ節転移や鎖骨上窩リンパ節転移がない

 頭部・胸部・腹部のCTもしくはMRIと骨シンチグラフィー、両側腸骨稜からの骨髄穿刺もしくは骨髄生検の結果から、限局型と病期診断されている

・患者は3週周期のシスプラチン+エトポシド併用化学療法を4コース受ける

・体表面積1㎡あたり60mgのシスプラチンを各コース1日目、体表面積1㎡あたり120mgのエトポシドを各コース1,2,3日目に投与する

・最初の2コースでは投与量の減量は行わない

・3コース目、4コース目では有害事象に応じて投与量の減量を行う

・TRT群では線量1.8Gyを1日1回、計25回(5回/週、5週間)、HF-ART群では線量1.5Gyを1日2回、計30回(2×5回/週、3週間)の胸部放射線照射を、化学療法1コース目から同時併用で行う

放射線照射範囲は胸部CTを用いて設定し、がん病巣全体・両側縦隔リンパ節・同側肺門リンパ節を含めることとした

・病巣が確認されていない鎖骨上窩を放射線照射範囲に含めることは禁じた

放射線照射範囲の尾側境界は、気管分岐部から5㎝下方か、病巣の進展を認める同側肺門リンパ節の下縁か、どちらかより尾側の方を選ぶこととした

・限局型肺小細胞がんであっても治療経過中に50%が脳転移を合併する可能性があるとされるため、4コースの化学療法終了後に胸部レントゲンや頭部・胸部CTで再評価を行い、完全奏効(Complete Response, CR)が確認された患者には予防的全脳照射(Prophylactic Cranial Irradiation, PCI、線量2.5Gyを1日1回、計10回(5回/週、2週間))を推奨した

・2年生存割合の差の絶対値を15%(HF-ART群40%、TRT群25%)と見積もり、この差を82%の検出力、有意水準0.05の両側検定で検出すると仮定して、必要患者登録数を400人と見積もった

・この差は、それぞれの治療群の生存曲線が指数分布に従うと仮定すると、生存期間中央値を50%延長することと同義であった

 

・65歳超の患者が占める割合はHF-ART群で31%、TRT群で40%とTRT群にやや高齢者が偏っていたが、有意差はなかった(p=0.07)

・病理組織診断結果を参照できた356人のうち、一般に予後不良とされる混合型小細胞がん(大細胞がんと小細胞がんの混在型)は8人(2%)のみだった

・両群ともに90%以上の患者でGrade2以上の骨髄抑制を認めたが、骨髄抑制による治療関連死はTRT群に1人発生しただけだった

・治療関連死は全体で11人(HF-ART群6人、TRT群5人)発生した

・食道炎合併割合には有意差が見られた(p<0.001)

・HF-ART群の37%、TRT群の56%には食道関連有害事象を認めなかった

・固形物を呑み込めない、あるいは医療用麻薬での鎮痛や経鼻経管栄養を要すると定義されるGrade 3以上の食道関連有害事象は、HF-ART群の27%、TRT群の11%で認めた

 

・本論文執筆までに、追跡期間中央値は8年間に達し、全ての生存者の追跡期間が5年間を超えた

・417人中335人(HF-ART群160人(76%)、TRT群175人(85%))がこれまでに死亡した

・生存期間中央値は全患者で20ヶ月、HF-ART群で23ヶ月、TRT群で19ヶ月だった

・2年生存割合は全患者で44%、HF-ART群で47%、TRT群で41%だった

・5年生存割合は全患者で23%、HF-ART群で26%、TRT群で16%だった

・HF-ART群と比較したときの、TRT群の死亡に関するハザード比は1.2(95%信頼区間1.0-1.6)だった

・2年無増悪生存割合はHF-ART群で29%、TRT群で24%(p=0.10)で有意差を認めなかった

・比例ハザードモデル解析によると、男性(p=0.01)、PS 2(p=0.005)が無増悪生存に関する予後不良因子だった

 

・局所増悪割合はHF-ART群36%、TRT群52%(p=0.06)で、HF-ARTは局所増悪割合を低下させていた

・局所増悪と遠隔転移増悪を同時に起こした患者の割合はHF-ART群6%、TRT群23%(p=0.01)と有意にTRT群で多かった

・Choiらは、HF-ARTの総線量が45Gyを超えると、食道炎により治療継続が難しくなることが多くなり、一方TRTなら70Gyまでは忍容可能であることを示した

・限局型肺小細胞がんに対し胸部放射線照射を行わなければ、局所増悪割合は90%にも上る

・高田らは、エトポシドと胸部放射線照射を同時併用すると、4コースの化学療法後に胸部放射線照射を行う場合に比べて治療効果が優れていることを示した