日本肺癌学会ワークショップ2016
臨床医の立場から
・osimertinibを使うには、T790Mを検出しなければならない
・検出法としては、cobas version 2とscorpion arms法が認められている
・再生検で小細胞癌転化が明らかになることがある
ASCO 2016 #9053
次世代シーケンサーを用いて、EGFRと共存する他の遺伝子変異を検出
初回診断時にRB遺伝子異常があると、後に小細胞癌転化する
→EGFR遺伝子変異は他の遺伝子変異とは相互排他的、という常識は、もはやあてにならない
・sEGFRm(+) and METamp(+)に対するgefitinib+capmatinib併用療法
Wu et al, ASCO 2016 #9020
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e856334.html
すでに第II相試験が計画されている(ASCO 2016 #TPS9109)
・多施設共同再生検実態調査
Nosaki et al, under submission
・静岡県立静岡がんセンターにおける再生検の実態調査
Kawamura et al, Cancer Sci 2016
・cobas version 2の検査としての妥当性
Tan et al, J Thorac Oncol 2016
病理医の立場から
福岡先生はその風貌から、個人的に「病理界の市川海老蔵」と勝手に思い込んでいる先生です。
びまん性肺疾患の領域に造詣が深い先生と思っていましたが、ここ最近では肺癌病理の領域でも発現されることが増えています。
英語も堪能な国際派の先生です。
我が国の肺癌臨床研究に大きな貢献をされている、近畿大学腫瘍内科の前教授、福岡正博先生のご子息としてもよく知られています。
・Sequist et al, Sci Trans Med 2011
・Cancer is polyclonal
N Engl J Med 842-851, 2013
・GFPC study 12-01
2012年5月から2013年5月まで、再生検について検証
Chouaid et al, Lung Cancer 170-173, 2014
・Hata et al, Cancer 2013、先端医療センターでの再生検の状況
中枢神経系のn=24、胸郭内病変のn=51
・標本は決して乾燥させてはならない
→これは本当にその通りで、ROSEを実践しながら若い医師に現場で実感してもらおうと思っています
・病理検体を提出するときは、詳しい臨床情報を診断技師・診断医に伝えなければならない
→治療により異型性が減弱・消失していることがあり、治療経過を知らないと関連性があるかどうかのコメントが出来ない
・病理医の立場から、臨床医にお願いしたいこと
1)ガイドシースを使わないでほしい
ガイドシースを使った標本は、ちっちゃくてゴミみたいなことが多い、これでは十分な診断が出来ない
→臨床医にとっては、安全性とのtrade-offということになりそうです
2)病巣の中心部からではなく、辺縁部から検体を採取して欲しい
中心部付近では、とくに再生検対象の病巣では、壊死や線維化のために診断に適さないことが多い
→EBUSで言えば、最大割面を描出して、それよりも近位側で採取するほうがいいかもしれません
私自身は、透視下では、病巣の少し手前側から採取するようにしています。
3)採取後はとにかく早く固定する
採取後は、用途に合った環境に早く検体を落とし込むのが大切です。
細胞診検体は乾燥させない、LC-SCRUM提出用の検体は速やかに冷凍庫に入れてしまう
4)あちこちからたくさん検体をとる
→腫瘍の空間的(転移している場所それぞれから)、時間的(臨床経過のどの時点で採取するか)多様性(heterogeneity)を意識して
5)とにかく、検体提出時には臨床経過を記載してほしい
→病理医は時に、臨床医が思ってもいないような診断を下し、それまで臨床医が気付いていない決定的な情報を教えてくれることがありますが、それも適切な臨床情報の提供があればこそ、です。
私がお世話になった病理の先生は、原発性肺腺癌として根治切除された病巣の所見を確認していてどうしても違和感を払拭できず、乳がんの肺転移と断定したことがあります。後に担当医に確認したところ、左乳癌の手術を15年前に受けていたことが分かりました(残念ながら、左乳癌の既往については、術前情報収集からは漏れていました)。同様に、原発性肺腺癌として根治切除された病巣の所見から、原発性膵癌の肺転移と診断し、その後に非常に分かりにくい膵癌が発見されたことがあります。肺腺癌と膵癌を明確に区別する病理学的手段が当時なかっただけに、「この人は魔法使いか?!」と本当に驚きました。
今日講演された病理の先生は、この日、免疫チェックポイント阻害薬の評価についても別のセッションで発現されていましたが、PD-L1の免疫染色や腫瘍内浸潤リンパ球の評価については、生検検体の座滅、免疫染色の標準化、heterogeneityや染色手技による評価のムラ、自動解析システムを用いても労力の低減や時間短縮、診断の均質化には必ずしもつながらないなど、この分野は全く持って五里夢中、しかし7月中には標準化に向けての話し合いが開始される、とおっしゃっていました。