経気管支肺生検の下準備

 他のがんと同じく、肺がんも確定診断がつかなければ治療指針が立てられない。  多岐にわたるドライバー遺伝子変異の検索、PD-L1発現状態の情報が不可欠となり、気管支鏡による生検診断の重要性は増す一方である。  研修医の頃には気管支鏡の正しく持つことすら満足にできなかった私も、もう気管支鏡を握り続けて20年になる。  今の勤め先では、気管支鏡ナビゲーションシステムは辛うじて利用可能だが、気管支鏡下超音波走査(EBUS)やガイドシース法は利用できず、気管支鏡下生検そのものは古典的なやり方で行っている。  自分なりに今の手法が完成形と考えているので、その方法を残しておく。 1、まずは「枝読み」をする。  どの気管支をたどっていけば目的とする病巣に到達できるか、見通しを立てる。  気管支鏡ナビゲーションシステムを利用できる環境にあれば、利用する。  私の場合は「BF-Navi」を利用しており、薄切CTの縦隔条件データを利用すると末梢まで追跡できることが多い。  気管支鏡ナビゲーションシステムが利用できない環境では、以下の書籍で勉強して、CT画像から気管支を追跡する。  ・栗本 典昭 先生,森田 克彦先生による書籍「末梢病変を捉える気管支鏡“枝読み”術」  BF-Naviとマニュアルでの枝読み、両方行って突き合わせるとなおよい。 2、枝の見取り図を作成する。  私が初めて気管支鏡に接したころは、まだ電子スコープは普及しておらず、ファイバースコープを利用していた。  光源にファイバースコープを接続して、気管支の所見をリアルタイムに確認できるのは術者のみ、所見はレンズの部分にマウントしたフィルムカメラで撮影して、のちに現像してから確認をするといった、今からすると考えられないようなローテク検査だった。  しかし、だからこそこの見取り図を作成することの大切さが身に沁みて分かっている。  主要な気管支の分岐部は、写真に収めて所見用紙にスケッチを残す習慣が身についている。  ここでいう見取り図とは、この気管支分岐の所見を紙に書きだすことをいう。  病巣に至るまでに経由する気管支を紙に書きだすのだ。  この見取り図を検査中に傍らに置き、所見を確認しながら病巣に近づいていく。  末梢に進むとやむを得ず視野を上下反転させたり、左右にローテーションさせたりする必要に迫られるため、気管支鏡ナビゲーションシステムのモニター画像に頼っていると位置を見失ってしまうことがある。  紙に書きだしておけば、気管支鏡の操作とともに助手に紙を回転させてもらえば事足りるので、モニターよりも遥かに同期させやすい。  これ以上は気管支鏡が進まない、というところまで来たら、そこからどの気管支側面に沿わせて鉗子やブラシを入れていけば病巣に近づくかを確認しながら、続きの作業をする。 3、鉗子やブラシが病巣に当たっているかどうかを確認する。  EBUSを利用できる環境にあればEBUSを利用すればよいし、なければ透視で確認する。  EBUSがあってもなくても、透視での確認は必須である。  そのため、見取り図では必ず病巣の部位を胸部レントゲンの模式図上に明記しておく。  若手の先生を見ていると、透視で的中しているかどうかをないがしろにしているように思われることが多々ある。  鉗子やブラシで病巣にアプローチしたとき、透視所見で病巣が動いているかどうかは、的中しているかどうかを見る上で大切だと思う。  また、EBUSで的中したとしても、その経路イメージをレントゲン撮影しておき、のちに通常鉗子でアプローチして十分量の組織を採取することが欠かせない。  これをしておかないと、組織量不足で遺伝子変異やPD-L1の評価ができないことになりかねない。  基本的にはこれだけ。  あとは、気管支鏡のハンドリング、鉗子やブラシのモディファイ、誘導鉗子の利用などの細かいテクニック、検査中の迅速細胞診などの付随事項はあるが、診断率を上げるための基本は上記の1、2、3だと思う。    今回例示した患者の病巣は長径10mm未満、透視画像ではほぼ不可視だったが、予定通りの気管支を追跡できた。  病理診断の中間報告が先ほど返ってきた。  P40(扁平上皮癌で陽性)とTTF-1(腺癌で陽性)の免疫染色を追加するとのことなので、低分化な非小細胞肺癌であることは間違いなさそう。  結果がどう出るか楽しみだ。