全ての肺がん患者さんで遺伝子変異検査を行うべきか?

 EGFR遺伝子変異、ALK再構成、ROS1再構成、KIF5-RET再構成、KRAS遺伝子変異などなど、分子標的薬治療に直結する遺伝子異常が増えてきて、臨床にどの程度応用するべきかの判断を迫られるようになりました。

 患者さんの立場からすると、よい治療に結びつく可能性があるのなら全ての検査を受けたい、というところだと思いますが、どの検査も手元に「患者さんのがん組織」がないとできません。

 われわれ肺がんの診断に携わる内科医は、できるだけ安全に、そして確実に診断できるように、との思いで気管支鏡を行い、最小限の侵襲(患者さんの体を診療のためにやむを得ず「生検」などで傷つけること)でがん組織を採取するようにと心がけています。

 そして、「できるだけ安全に、場合によっては診断がつかなくても検査を中断して、他の診断方法を考えよう」「たくさん組織があったらもっといろいろな遺伝子検査が出来るのに」という相矛盾する思いに板ばさみになりながら検査しています。

 遺伝子検査を行う際にも、その遺伝子異常を持つ患者さんによく見られる背景を考えつつ、

・扁平上皮癌の患者さんにはEGFR遺伝子変異検査を控えて、KRAS変異を調べておく

・80歳の腺癌の患者さんには、EGFR遺伝子変異検査を行ってもALK再構成の検査は控える

といった、できるだけ生検組織を節約する(=その患者さんに本当に必要な検査のために温存する)という姿勢が大切だと思います。

 これだけ遺伝子変異やそれに対応した治療の重要性が増してくれば、たとえ進行がんの患者さんであっても、確実な治療方針確定のために「遺伝子診断のための外科的生検」というのもあっていいのかもしれません。

 リンパ腫や精巣腫瘍といった、薬物療法で治癒を目指しうる疾患では既に一般的な手法です。