・METエクソン14スキップ変異治療後の耐性化、その傾向と対策

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 AmoyDx肺癌マルチパネルIVDが今後普及すると、診断率が高まると見込まれるMETエクソン14スキップ変異を有する非小細胞肺がん。

 非小細胞肺がん全体の3%を占めるとされ、その頻度はEGFR、KRASの次くらい、ALKと同等くらいのイメージを持っておくといいのではないでしょうか。

 

 我が国では、METエクソン14スキップ変異を有する非小細胞肺がんの治療薬として、カプマチニブとテポチニブが承認されています。そのほかにも開発中の薬品はありますが、METエクソン14スキップ変異の治療薬には、Type Ia、Type Ib、Type IIという区分があるようです。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬やALK融合遺伝子阻害薬には第1世代、第2世代、第3世代といった区分がしばしば用いられますが、METエクソン14スキップ変異に対する治療薬の分類では異なる視点が用いられています。今回取り上げる論文の導入部分に詳しく記載されていましたので、以下に記します。

 

 Type I MET-TKIにはクリゾチニブ、カプマチニブ、テポチニブ、savolitinibが含まれる。Type I MET-TKIはアスパラギン酸-フェニルアラニン-グリシン(DFG)モチーフがATP結合部位へと突き出るような酵素活性部位を介してMETと結合する。さらにType I MET-TKIは、METのsolvent front領域のG1163部位との相互作用を介して結合するType Ia(クリゾチニブが分類される)と、そうした結合様式を持たないType Ib(カプマチニブ、テポチニブ、savolitinib)に再分類される。
 Type II MET-TKIにはcabozantinib、merestinib、glesatinibが含まれる。Type I MET-TKIとは対照的に、Type II MET-TKIは不活性なDFGの外部の構造を介してMETと結合する。 
 METのチロシンキナーゼ領域の二次的耐性変異であるD1228変異やY1230変異は、Type I MET-TKIとの化学結合を弱める。G1163変異はType Iaのクリゾチニブへの耐性化をもたらすが、Type Ibのテポチニブやsavolitinib、あるいはcapmatinibの活性への影響はないとされる。一方で、L1195変異やF1200変異はType IIのMET-TKIへの耐性化をもたらす。

 

 冒頭に掲げた図表に示されているように、一口にMETエクソン14スキップ変異といっても、変異部位によって有効な薬が異なります。いまのところ我が国ではType Ibに分類されるカプマチニブとテポチニブしか使用できないわけですが、今後METエクソン14スキップ変異の診断数が増えてくると、自ずとType IIの薬の需要が増してくると予想されます。

 

 

Molecular Mechanisms of Acquired Resistance to MET Tyrosine Kinase Inhibitors in Patients with MET Exon 14–Mutant NSCLC | Clinical Cancer Research | American Association for Cancer Research (aacrjournals.org)

 

Gonzalo Recondo et al.
Clin Cancer Res. 2020 Jun 1;26(11):2615-2625. 
doi: 10.1158/1078-0432.CCR-19-3608. Epub 2020 Feb 7.

 

目的:
 METチロシンキナーゼ阻害薬(MET-TKI)に対する分子生物学的耐性化メカニズムはほとんどよくわかっていない。今回は、type Iあるいはtype IIのMET-TKIへの耐性化メカニズムを明らかにするとともに、METエクソン14スキップ変異陽性非小細胞肺がん患者に対するこれらMET-TKIの有効性について検証した。

 

方法:
 MET-TKI治療中に病勢進行した際に起こった遺伝子変化を患者血清もしくは生検検体を用い、次世代シーケンサーで解析した。

 

結果:
 MET-TKI治療中に耐性化し、その時点での生検組織もしくは血清を入手できた20人の患者が対象となった。既知の耐性化異常、あるいは耐性化への関与が疑われる異常が検出されたのはそのうち15人(75%)だった。コドンH1094、G1163、D1228、Y1230のMETキナーゼドメイン変異が単一あるいは複合で出現、あるいはMETエクソン14スキップ変異アリルの高レベルの増幅といった、MET-TKI作用部位そのものの耐性変化(on-target耐性)は7人(35%)で認められた。KRAS遺伝子変異、KRAS増幅、EGFR増幅、HER2増幅、BRAF増幅といったMET-TKI作用部位以外の耐性変化(off-target耐性)は9人(45%)で認められた。両方の耐性メカニズムを併せ持っていた患者は1人いた。on-target耐性を示した患者のうち2人では、type Iからtype-IIのMET-TKIへ、もしくはtype-IIのMET-TKIからとtype IのMET-TKIへ切り替えることで部分奏効(PR)の効果が得られた。

 

結論:
 二次的なon-target変異やバイパス経路の活性化がMET-TKIへの耐性化を招いていた。こうした分子生物学的耐性メカニズムをより深く理解することで、耐性化を克服するための治療開発が促されると考える。

 

 

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 現在METエクソン14スキップ変異陽性肺がんに対して我が国で使用可能なカプマチニブとテポチニブは、2019年の米国臨床腫瘍学会で初めてまとまった報告が成されました。その翌年、2020年には我が国でも使用可能になりました。

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 テポチニブに関する第II相VISION試験の論文です。

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 テポチニブの効果、アジア人に限って検証したらどうだったか、という報告です。

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