FLAURA全生存期間に関する論文の精読

<FLAURA試験に関するこれまでの記事>

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 FLAURA試験の全生存期間解析に関する論文を細かく読んでみた。

 全生存期間の解析結果が興味深いことは間違いないが、本試験の主要評価項目は無増悪生存期間だったことを忘れてはならない。

 あくまで本試験は、主要評価項目である無増悪生存期間を延長したことに第一義がある。

 その上で、である。

 これまで、EGFR-TKIが絡むhead to head試験で、無増悪生存期間を延長するものの全生存期間を延長できなかった、ということが繰り返されてきた。

 そんな中で、主要評価項目の無増悪生存期間、副次評価項目の全生存期間を、いずれも延長したというのはやはり称賛に値する。

 pivotal trialであることは間違いないので、今後のために記録を残す。

Overall Survival with Osimertinib in Untreated, EGFR-Mutated Advanced NSCLC

S.S. Ramalingam, J.C. Soria et al., N Engl J Med 2019

DOI: 10.1056/NEJMoa191366

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1913662?query=RP

図表:

背景:

 オシメルチニブは第3世代の非可逆性のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)で、EGFR-TKI感受性遺伝子変異およびT790M耐性遺伝子変異を来したEGFRを選択的に阻害する。今回の第3相試験(FLAURA)では、EGFR陽性の進行非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、オシメルチニブと他のEGFR-TKIを比較した。本試験は、オシメルチニブが他のEGFR-TKIより有意に無増悪生存期間を延長することを示した(ハザード比0.46)。しかし、全生存期間に関する最終解析結果はいまだ示されていない。

方法:

 本試験では、556人のEGFR遺伝子変異(Exon 19欠失変異もしくはExon 21 L858R点突然変異)陽性未治療進行非小細胞肺がん患者を、1:1の比率でO群(オシメルチニブ 80mgを1日1回服用)とG/E群(ゲフィチニブ 250mgを1日1回服用、もしくはエルロチニブ 150mgを1日1回服用)に無作為に割り付けた。全生存期間は副次評価項目であった。

結果:

 生存期間中央値はO群で38.6ヶ月(95%信頼区間は34.5ヶ月から41.8ヶ月)、G/I群で31.8ヶ月(95%信頼区間は26.6ヶ月から36.0ヶ月)だった(ハザード比は0.80、95.05%信頼区間は0.64-1.00、P=0.046)。3年間の追跡期間後、O群では279人中79人(28%)が、G/I群では277人中26人(9%)がプロトコール治療を継続しており、各治療の継続期間中央値はO群で20.7ヶ月、G/I群で11.5ヶ月だった。Grade 3以上の有害事象はO群で42%、G/I群で47%だった。

結論:

 EGFR陽性の未治療進行非小細胞肺がん患者において、オシメルチニブを服用した患者ではゲフィチニブ/エルロチニブを服用した患者より全生存期間が延長した。より長期にわたり治療を継続したにもかかわらず、オシメルチニブによる有害事象プロファイルはゲフィチニブ/エルロチニブと同様だった。

本文より:

・2017年6月12日時点でデータカットオフを行った初回解析時点では、オシメルチニブはゲフィチニブ/エルロチニブと比較して有意に無増悪生存期間を延長した(中央値は18.9ヶ月 vs 10.2ヶ月、ハザード比は0.46、p<0.001)

・初回解析時点では、全生存期間に関するデータは不十分(データ集積率は25%)だったが、オシメルチニブ群が優位となる傾向にあった(ハザード比は0.63、p=0.007)

・本試験参加患者の主な適格条件は

 〇 18歳以上(日本では20歳以上)

 〇 未治療の局所進行/進行EGFR遺伝子変異(Exon19/Exon21)陽性非小細胞肺がん患者

 〇 初回治療としてゲフィチニブ/エルロチニブ使用可能な患者

 〇 中枢神経系への転移がある、もしくは疑われる患者でも、神経系の症状が安定していれば参加可能

生命倫理および人生体試料の取り扱いに関するスポンサー企業(アストラゼネカ社)の規定を順守する

・本試験はアストラゼネカ社の資金提供を受けている

・本試験のデザインは主任研究者2名(S.S.Ramalingam, J.C.Soria)とアストラゼネカ社により立案された

アストラゼネカ社はデータ集積と解析、および結果の解釈に責任を負った

・割付調整因子は以下の通り

〇 EGFR遺伝子変異タイプ(Exon 19 / Exon 21)

〇 人種(アジア人 / 非アジア人)

プロトコール治療は、病勢進行、忍容不能の毒性、もしくは試験参加同意の撤回に至るまでは継続された

・G/E群の患者は、以下の条件を満たした場合には、オープンラベルでオシメルチニブの治療を受けてよいこととした

 〇 初回のデータカットオフ時点以前のセントラル・レビューにおいて客観的に病勢進行と評価された、もしくは初回のデータカットオフ時点以後の治療担当医師の評価において病勢進行と判断された

 〇 病勢進行後にT790M耐性遺伝子変異が確認された

・初回のデータカットオフ時点以降では、効果判定は実地臨床の範囲内で行い、その結果はデータセンターでは回収しなかった

→無増悪生存期間にかかわるデータは、初回のデータカットオフ時点以降では回収せず、したがって無増悪生存期間に関するupdated dataは初回解析後は得られない仕組みになっていた

・患者の予後調査は、病勢進行後から全生存期間の最終解析終了まで、6週間ごとに行われた

・318人の死亡イベントが観察された時点で全生存期間の最終解析を行うことになっていた

・全生存期間の中間解析時点におけるp値は、統計学的に有意でなかった

・中間解析での評価を案分し、全生存期間の最終解析におけるp値の有意水準は0.0495、信頼区間は95.05%に設定された

・サブグループの各群に少なくとも20人の死亡イベントが観察されていなければ、その項目に関するサブグループ解析は行わないこととした

・2014年12月から2016年3月の期間に、556人の患者が無作為割付され、O群に279人、G/E群に277人が割り付けられ、少なくとも1回のプロトコール治療が行われた

・G/E群では、183人(66%)がゲフィチニブを、94人(34%)がエルロチニブを使用した

・データカットオフ時点で・・・

 321人の死亡イベントが発生していた(死亡データの回収率は58%)

治療期間中央値:O群 20.7ヶ月 vs G/E群 11.5ヶ月

プロトコール治療を続けていた患者数:O群 61人(22%)vs G/E群 13人(5%)

追跡期間中央値:O群 35.8ヶ月 vs G/E群 27.0ヶ月

生存期間中央値:O群 38.6ヶ月(95%信頼区間は34.5-41.8) vs G/E群 31.8ヶ月(95%信頼区間は26.6-36.0)、ハザード比0.80(95.05%信頼区間は0.64-1.00、p=0.046)

・12、24、36ヶ月時点で、全生存割合、プロトコール治療継続患者数はいずれもO群で一貫して高かった

 〇 12ヶ月生存割合:O群 89%(85-92%) vs G/E群 83%(77-87%)

 〇 24ヶ月生存割合:O群 74%(69-79%) vs G/E群 59%(53-65%)

 〇 36ヶ月生存割合:O群 54%(48-60%) vs G/E群 44%(38-50%)

 〇 12ヶ月間治療継続患者数:O群 194人(70%) vs G/E群 131人(47%)

 〇 24ヶ月間治療継続患者数:O群 118人(42%) vs G/E群 45人(16%)

 〇 36ヶ月間治療継続患者数:O群 78人(28%) vs G/E群 26人(9%)

・サブグループ解析の結果を見る限り、有意にO群で全生存期間が延長していたのは

 〇 65歳未満の患者(ハザード比 0.72、95%信頼区間 0.54-0.97)

 〇 非アジア人(ハザード比 0.54、95%信頼区間 0.38-0.77)

 〇 喫煙歴のある患者(ハザード比 0.70、95%信頼区間 0.49-1.00)

 〇 Performance status 1の患者(ハザード比 0.70、95%信頼区間 0.54-0.91)

 〇 Exon 19変異陽性の患者(ハザード比 0.68、95%信頼区間 0.51-0.90)

 〇 ctDNA analysis陽性の患者(ハザード比 0.77、95%信頼区間 0.60-0.99)

プロトコール治療の中断後、O群のうち133人(48%)とG/E群のうち180人(65%)が二次治療を受けた

・無作為割り付けから二次治療開始までの期間(time from randomization to first subsequent therapy or death, TFST)は、中央値はO群で25.5ヶ月(95%信頼区間は22.0-29.1ヶ月)、G/E群で13.7ヶ月(95%信頼区間は12.3-15.7ヶ月)、ハザード比は0.478(95%信頼区間は0.393-0.581)だった。

・二次治療を受けたG/E群180人のうち、オシメルチニブを二次治療で使用したのは85人(47%)で、これはG/E群全体の277人からすると31%に相当した

・三次治療を受けた患者はO群279人のうち72人(26%)、G/E群277人のうち92人(33%)だった

・二次治療を受けた患者のうち三次治療まで受けた患者の割合は、O群で133人中72人(54%)、G/E群で180人中92人(51%)だった

・Grade 3以上の有害事象はO群の42%、G/E群の47%に認めた

重篤な有害事象は各群で27%ずつに認められた

・心臓の左室駆出率の低下は、O群の14人(5%)、G/E群の5人(2%)に認めた

・心電図上のQT延長はO群の40人(14%)、G/E群の14人(5%)に認めた

間質性肺炎はO群の6人(2%)、G/E群の4人(1%)に認めた

・肺臓炎はO群の5人(2%)、G/E群の2人(1%)に認めた

・致死性の有害事象はO群の9人(3%)、G/E群の10人(4%)に認めた

プロトコール治療中断はO群の120人(43%)、G/E群の113人(41%)に認めた

プロトコール治療の投与量減量はO群の14人(5%)、G/E群の10人(4%)に認めた

・毒性によるプロトコール治療中止はO群の41人(15%)、G/E群の50人(18%)に認めた

・G/E群に対して、O群では生存期間が6.8ヶ月延長し、死亡リスクは20%低下した

プロトコール治療開始から3年の時点で、プロトコール治療を継続している患者数はO群においてG/E群の3倍に達した

・アジア人患者を対象として作成したKaplan-Meier生存曲線は、治療早期から約3年経過時点までは、O群のほうが優越性を示していた

・副次評価項目である全生存期間において、アジア人サブグループにおける本試験及びその解析は検出力不足だった

・O群、G/E群のいずれにおいても、プロトコール治療を終了した患者の約30%は二次治療を受けず、そのうち約70%は患者が死亡していたため治療導入できなかった

→解釈が難しいコメントで、結局、患者が二次治療を行う意思を示さなかったということか、それともプロトコール治療終了時点で何らかの理由により治療開始できなかったということか

・EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者では、診断時点で約25%が中枢神経系への転移を合併しており、診断後3年以内に約50%で中枢神経系への転移が新出する

・(登録時点で)中枢神経系への転移を有していた患者の18ヶ月無増悪生存割合はO群で58%(95%信頼区間は40-72%)、G/E群で40%(95%信頼区間は25-55%)だった(ハザード比 0.48、95%信頼区間0.26-0.86)

・オシメルチニブによる一次治療後の耐性化メカニズムを調べるため、オシメルチニブ投与前と病勢進行後に生検・血液サンプルを収集する第II相ELIOS試験が米国、イタリア、韓国、マレーシア、スペインの国際共同試験として進行中である

・オシメルチニブによる一次治療後に病勢進行した患者に対し、耐性化メカニズムを想定して有効な治療を模索するための第II相臨床試験も進行中である

〇 ORCHARD試験

 オシメルチニブ+Savolitinib(c-MET阻害薬)群

 オシメルチニブ+ゲフィチニブ群

 オシメルチニブ+ネシツムマブ(抗EGFR抗体)群

 カルボプラチン+ペメトレキセド+デュルバルマブ群

 標準治療群

〇 SAVANNAH試験 

 c-MET陽性が確認された患者に対するオシメルチニブ+Savolitinib併用療法