・RET肺がんとpralsetinib

 セルペルカチニブとは異なるもうひとつのRET阻害薬、pralsetinibについて。

 有効性はともかく、有害事象に関する注意事項がとても多いようです。

 致死的な有害事象が5%で認められたというので、おだやかではありません。

 

 

Pralsetinib for NSCLC With RET Gene Fusions

 

ASCO post

By Matthew Stenger

October 10, 2020

 

 2020年9月4日、pralsetinib(Gavreto)は、米国食品医薬品局(FDA)が承認した検査法で診断された成人のRET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者に対する迅速承認を取得した。FDAは同時に、pralsetinibのコンパニオン診断法として、Oncomine Dx Target testを承認した。

 今回の承認は、多施設共同、オープンラベル、マルチコホート臨床試験であるARROW試験の結果に基づいている。本臨床試験では、RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者のうち、過去にプラチナ併用化学療法を行った後に病勢進行に至った患者集団と、過去に治療歴のない患者集団を別々のコホートとして組み入れている。試験参加者は全て、pralsetinibを1日1回400mg内服し、病勢進行もしくは忍容不能の有害事象に見舞われるまでは継続することとした。主要評価項目は独立効果判定委員会の判定による奏効割合と奏効持続期間とし、RECIST ver. 1.1を用いて評価した。

 プラチナ併用化学療法治療歴のあるコホート87人において、奏効した人数は50人(奏効割合57%、95%信頼区間は46-68%)で、完全奏効は5.7%認められた。奏効持続期間中央値は未到達(95%信頼区間は15.2ヶ月-未到達)だった。少なくとも6ヶ月以上奏効が持続している患者の割合は、奏効した患者のうち80%だった。

 本試験参加前に、プラチナ併用化学療法と同時併用、あるいは逐次併用でPD-1/PD-L1阻害薬を用いた患者39人に対する探索的サブグループ解析を行ったところ、奏効割合は59%(95%信頼区間は42-74%)で、奏効持続期間中央値は未到達(95%信頼区間は11.3ヶ月-未到達)だった。治療開始前に測定可能な中枢神経系病変を有していた8人の患者において、中枢神経系病変の奏効割合は4人(50%、うち、完全奏効は2人)で、4人中3人では、腫瘍縮小が6ヶ月後にも持続していた。

 過去に治療歴のない27人においては、奏効した人数は19人(奏効割合70%、95%信頼区間は50-86%)で、完全奏効は11%に認められた。無増悪生存期間中央値は9.0ヶ月(95%信頼区間は6.3ヶ月-未到達)だった、6ヶ月経過した段階で、奏効が持続しているのはこのうち58%にのぼっていた。

 pralsetinibは野生型RET、RET融合遺伝子(CCDC6-RET)、RET遺伝子変異(RET V804L, RET V804M, RET V918T)に対するキナーゼ阻害薬である。RET阻害に必要な血中濃度よりも高い、しかし臨床的には到達可能な血中濃度において、pralsetinibはDDR1、TRKC、FLT3、JAK1-2、TRKA、VEGFR2、PDGFRb、FGFR1といった他のドライバーも阻害する。細胞株を用いた検討では、RETを阻害するのに必要なpralsetinibの濃度はVEGFR2を阻害するのに必要な濃度の14分の1、FGFR2の40分の1、JAK2の12分の1であるという。

 RET融合遺伝子やRET遺伝子変異の産物である蛋白は、それより下部のシグナル伝達系を活性化することにより腫瘍化を促進し、制御不能な細胞浸潤を引き起こす。pralsetinibはKIF5B-RET、CCDC6-RET、RET M918T、RET C634W、RET V804E、RET V804L、RET V804MといったRET融合遺伝子、RET遺伝子変異を有する培養細胞株、あるいは腫瘍移植動物モデルにおいて、抗腫瘍活性を示した。加えて、pralsetinibはKIF5B-RETもしくはCCDC6-RETを発現させた腫瘍を脳に移植したマウスモデルにおいても、マウスの生存期間を延長した。

 

 pralsetinibを使用するにあたり、FDAの承認を得た検査法を用いてRET融合遺伝子を検出しなければならない。pralsebinitの推奨容量は400mg1日1回で、空腹時に服用することとされており、病勢進行もしくは忍容不能の有害事象が出現するまで継続する。有害事象が発生した際には、300mg、200mg、100mgと100mg刻みで減量する。100mgでも忍容不能となった場合には、使用を中止する。使用説明書には、薬剤性肺障害、高血圧、肝障害、出血性合併症など、grade 3 / 4の有害事象が発生した際の対処法について細かく記載されている。

 強力なCYP3A阻害薬、p-グリコプロテインとCYP3A阻害薬の複合体、強力なCYP3A作動薬はpralsetinibとの併用を避ける必要がある。やむを得ず併用する際のpralsetinibの減量の仕方についても使用説明書に記載されている。

 ARROW試験に参加した220人の患者における安全性データが報告されている。患者の年齢中央値は60歳(26-87歳)、52%は女性で、50%は白人で、41%はアジア人だった。4%はヒスパニック系/ラテン系だった。

 全グレードの有害事象の中で主なもの(25%以上に認められたもの)は、AST上昇(69%)、貧血(54%)、リンパ球減少(52%)、好中球減少(52%)、ALT上昇(46%)、クレアチニン上昇(42%)、ALP上昇(40%)、倦怠感(35%)、便秘(35%)、筋肉痛(27%)、リン酸低下(27%)、血小板減少(26%)だった。

 grade 3-4の有害事象で主なものは、高血圧(14%)、肺炎(8%)、下痢(3.2%)、リンパ球減少(20%)、好中球減少(10%)、リン酸低下(9%)だった。

 患者の45%で深刻な有害事象を認めた。これらのうち、少なくとも2%以上を占めたのは肺炎、薬剤性肺障害、敗血症、尿路感染症、発熱だった。患者の60%でpralsetinibの中断が必要だった。このうち原因の2%以上を占めたのは、好中球減少、薬剤性肺障害、貧血、高血圧、肺炎、発熱、AST上昇、クレアチンキナーゼ上昇、倦怠感、白血球減少、血小板減少、嘔吐、ALT上昇、敗血症、呼吸困難だった。患者の36%でpralsetinibの減量が必要だった。このうち原因の2%以上を占めたのは、好中球減少、貧血、薬剤性肺障害、倦怠感、高血圧、肺炎、白血球減少だった。患者の15%でpralsetinibの中止が必要だったが、その原因の主なものは薬剤性肺障害(1.8%)、肺炎(1.8%)、敗血症(1%)だった。致死的な有害事象は全体の5%に認められ、そのうち3人は肺炎、2人は敗血症だった。

 pralsetinibには薬剤性肺障害、高血圧、肝障害、出血性合併症、創治癒遅延、催奇形性が警告事項として付されている。

 反復する薬剤性肺障害、もしくはgrade 3 / 4の薬剤性肺障害が見られた場合には、それ以降pralsetinibは使用してはならない。高血圧のコントロールができていない患者にはpralsetinibを開始してはならない。血圧は治療開始前に適正にコントロールされなければならず、治療開始後1週間、更にその後も少なくとも月に1回と必要な時にモニタリングされなければならない。ALTとASTは治療開始前、治療開始後3か月間は2週間ごと、治療開始後4か月目以降は毎月と必要な時にモニタリングされなければならない。重篤な、致命的な出血性合併症に見舞われたら、それ以降pralsetinibは使用してはならない。待機手術の少なくとも5日前、大きな手術後の少なくとも2週間、手術創が治癒するまではpralsetinibの使用は見合わせなければならない。pralsetinib使用中は授乳は避けなければならない。

 

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