・中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性

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 中国人を対象としたRET阻害薬のデータが公表されていました。  

 SelpercatinibもPralsetinibも、奏効割合という点では変わりはなさそうです。  Pralsetinibでは骨髄抑制の有害事象が目立ちます。

 

 

 Efficacy and Safety of Selpercatinib in Chinese Patients With RET Fusion-Positive Non-Small Cell Lung Cancer: A Phase 2 Trial

 

Shun Lu et al.

WCLC 2021 Abst.#MA02.01

 

背景:

 Serpercatinibは、rearranged during transfection(RET)キナーゼに対する高い選択性と阻害活性を有する、この分野では初めての薬であり、中枢神経系への活性も有する。RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんやRET変異のある甲状腺がんに対して多数の国々で承認されている。今回は、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんの中国人患者を対象に、Serpercatinibの効果と安全性を検証した初めての臨床試験であるLIBRETTO-321試験について報告する。

 
方法:
 LIBRETTO-321試験は、オープンラベル、多施設共同の第II相試験であり、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんを含むRET遺伝子異常陽性進行固形がんの中国人患者を対象とした。Selpercatinib 160mgを1日2回経口投与し、28日間の治療を1サイクルとして、病勢進行、忍容不能の毒性、臨床試験参加への患者同意撤回、患者死亡のいずれかが発生するまで治療を継続した。主要評価項目はRECIST ver.1.1準拠の独立効果判定委員会(IRC)評価による奏効割合とした。副次評価項目の主なものは、奏効持続期間(DoR)、中枢神経病変における奏効割合(CNS-ORR)、中枢神経病変における奏効持続期間(CNS-DoR)、安全性とした。有効性評価はprimary analysis setとresponse evaluable patientsに分けて行った。primary analysis set(PAS)は中央臨床検査部においてRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんと確認された患者集団であり、response evaluable population(REP)は本試験に登録され、測定可能病変を有し、少なくとも1回は効果判定を受けた全ての非小細胞肺がん患者集団である。安全性はプロトコール治療を受けた全ての患者に対して評価した。
 
結果:
 2021年3月25日までに、77人の患者が登録され、この中には47人のRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者が含まれており、26人はPASの基準を満たした。PASの患者集団の観察期間中央値は9.7ヶ月で、IRC評価による奏効割合は69.2%(95%信頼区間48.2-85.7)で、治療歴のない患者では87.5%、治療歴のある患者では61.1%だった。奏効持続期間中央値は未到達で、9ヶ月奏効持続割合は93.8%だった。REP集団は総数45人で、観察期間中央値は10.4ヶ月、IRC評価による奏効割合は66.7%(95%信頼区間51.0-80.0)だった。治療開始前に測定可能な中枢神経病変を有していた5人の患者のうち、4人(80%)はIRC評価による中枢神経病変の奏効基準を満たしており、9ヶ月後も効果が持続していた。安全性評価対象となった77人において、Grade 3以上の有害事象で頻度が高かったのは高血圧(19.5%)、AST上昇(15.6%)、ALT上昇(15.6%)だった。ほとんどの有害事象はGrade 1もしくは2だった。有害事象のためSelpercatinibの治療中止に至った割合は5.2%で、用量減量を必要としたのは32.5%だった。Selpercatinibとは無関係と思われる有害事象で1人の患者が死亡した。
 
結論:
 Selpercatinibは中国人のRET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がん患者に対して、強力で持続的な抗腫瘍活性を示し、LIBRETTO-001試験で示された知見と同様だった。
 
 

Efficacy and Safety of Pralsetinib in Chinese Patients with Advanced RET Fusion+ Non-Small Cell Lung Cancer

 

Qing Zhou et al.

WCLC 2021 Abst.#MA02.02

 

背景:

 RET融合遺伝子は非小細胞肺がん患者のおよそ1-2%で認められるドライバー遺伝子異常として同定された。PralsetinibはRET遺伝子異常に対する高い選択性および阻害活性を持つRET阻害薬である。ARROW試験は第I / II相、オープンラベルの臨床試験で、非小細胞肺がんをはじめとした種々のRET遺伝子異常陽性進行固形がんに対するPralsetinibの安全性と抗腫瘍活性を評価する初の臨床試験である。前回のWCLC2020において、プラチナ併用化学療法後にPralsetinibを使用したRET融合遺伝子陽性進行非小細胞がんの中国人患者集団における効果と安全性について報告した。今回はその後の最新情報に加え、未治療RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がんの中国人患者集団におけるPralsetinibの効果と安全性についても報告する。

 
方法:
 未治療、もしくはプラチナ併用化学療法治療歴のあるRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がン中国人患者を対象に、Pralsetinib 400mg/日を投与した。主要評価項目は独立効果判定委員会によるRECIST ver.1.1準拠の奏効割合、安全性プロファイルとした。副次評価項目には奏効持続期間(DoR)、病勢コントロール割合(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)を含めた。
 
結果:
 2021年4月12日までに、68人のRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん中国人患者(プラチナ併用化学療法治療歴あり:37人、治療歴なし:31人)がPralsetininbの治療を受けた。治療前の段階で、ほとんど(95.6%)の患者がECOG-PS1の状態だった。RET融合遺伝子の融合パートナー(KIF5Bが66.2%、CCDC6が17.6%、その他が16.2%)、脳転移合併割合(33.8%)はこれまで知られているデータとほぼ同様だった。治療効果は図表に示したとおりであり、Pralsetinibは治療歴の有無に関わらず高い奏効割合を示した。少なくとも1回のPralsetinib投与を受けた患者は安全性評価対象とした(n=68)。治療関連有害事象として頻度が高かったのは、AST上昇(80.9%)、好中球減少(79.4%)、貧血(67.6%)、白血球減少(60.3%)、ALT上昇(57.4%)だった。10.3%の患者が有害事象を理由にPralsetinibの使用を中止した。
 
結論:
  PralsetinibはRET融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん中国人患者において、治療歴の有無に関わらず、早くかつ深い臨床的活性を有する有望な分子標的薬である。中国人患者におけるPralsetinibの有効性は、国際共同試験におけるデータと同様で、治療歴のない中国人患者でも同様の有効性を示した。安全性プロファイルは管理可能であり、未知の有害事象には見舞われなかった。Pralsetinibは良好な有効性・安全性プロファイルを有し、RET融合遺伝子陽性進行非小細胞肺がんの中国人患者に対して新しい医療を提案している。