・オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか

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 今回の報告では、二次治療でオシメルチニブが導入され、その後に病勢進行した患者が対象ということで、現在の実臨床とは乖離があるかも知れません。

 また、耐性機序に即して分子標的薬の治療を選択したとはいえ、既存の治療薬を使いまわしただけなので、今回の報告を以て耐性機序同定やそれに基づく分子標的薬選択は意味がない、とまでは言いません。

 しかし、オシメルチニブ耐性化後に既存の分子標的薬を、それも耐性機序を同定せずに使いまわす、という治療は多かれ少なかれ行われているのではないでしょうか。

 今回の報告は、そうした治療態度はあまり報われない、ということを裏付けています。

 要約中では耐性化機序に基づく分子標的治療と化学療法の間には無増悪生存期間の違いはないと書かれていますが、数字だけみると化学療法の方が有望に感じます。

 現時点では、耐性化機序にこだわらず、オシメルチニブ耐性化後はKEYNOTE-189レジメンでの治療に切り替えた方がまだ希望が持てるのではないでしょうか。

 

 

 

 

Paired Liquid and Tissues Biopsies to Guide Treatment for Patients That Progress on 2nd Line Osimertinib Treatment

 

Tijmen van der Wel et al., WCLC2021 Abst.#MA07.03

 

背景:

 高い奏効割合と忍容性を示すにも関わらず、大多数の患者においてオシメルチニブに対する耐性化が起こることは避けられない。個々の患者における耐性機序の同定は、引き続く分子標的治療の指針となり得る。今回の取り組みでは、以下の2点を目的とした。

1)オシメルチニブによる二次治療後に病勢進行に至った患者に対して、リキッドバイオプシーと組織生検を同時に行うことにより耐性機序を同定する、

2)オシメルチニブ中止後、次に行う治療による無増悪生存期間を算出する

 

方法:

 2019年09月から2021年02月までに、二次治療としてのオシメルチニブ投与後に病勢進行に至った50人の患者を集積し、今回の単施設前向き研究に組み入れた。対象患者は、リキッドバイオプシーと組織生検の両方を受けた。リキッドバイオプシーの解析には、AVENIO ctDNA拡張パネルを用いた。組織生検の解析には、検索対象遺伝子を定めた次世代シーケンサーパネル解析と、Archer FusionPlex Lung Version 1を用いた。こうして得られた解析結果は、毎週開催される分子腫瘍会議(Molecular Tumor Board, MTB)において個々の患者ごとに議論された。この会議では、個別化医療に向けて助言することを目的とした。MTB開催後の治療効果については、6-8週間ごとにCTで評価した。

 

結果:

 EGFR遺伝子変異は、リキッドバイオプシーでは50人中37人(74%)で、組織生検では50人中48人(96%)で確認された。リキッドバイオプシーと組織生検で結果が一致したのは、50人中35人(70%)だった。50人中39人(78%)では、1種以上の耐性化機序がリキッドバイオプシーないしは組織生検で同定され、そのうち15人では2種以上の耐性化機序が関わっていた。頻度が高かった耐性化機序は、MET増幅が38%、EGFR C797S変異が16%だった。

 MTBでの議論に基づき、23人の患者が分子標的薬の治療を受け、16人の患者が化学療法を受けた。4人の患者は緩和医療のみを受けた。6人の患者はオシメルチニブ使用を継続し、そのうち3人は追加の局所制御治療も併せて行った。1人の患者では、まだ化学療法を開始していなかった。分子標的薬使用の内訳は、BRAF V600E変異陽性患者に対するダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が1人、BRAF融合遺伝子陽性患者に対するダブラフェニブ単剤療法もしくはダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が計3人、EGFR G724S/L718Q変異に対する第2世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤療法が計2人、トランス型のT790M/C797S変異に対する第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤療法が計2人、MET増幅陽性患者に対するクリゾチニブ単剤療法が計8人、ALK融合遺伝子陽性患者に対するクリゾチニブ単剤療法が1人、MET増幅+ALK融合遺伝子併存患者に対するクリゾチニブ単剤療法が1人、HER2増幅/過剰発現患者に対するT-DM1単剤療法が5人だった。無増悪生存期間中央値は化学療法適用患者では5.2ヶ月(95%信頼区間3.9-6.5)、分子標的薬適用患者では3.3ヶ月(95%信頼区間は1.4-5.2ヶ月)だった。追跡期間中央値は化学療法適用患者では9.1ヶ月、分子標的薬適用患者では7.2ヶ月だった。分子標的薬を適用した患者では、同定された耐性機序の数は無増悪生存期間の長短とは無関係だった。1種の耐性機序が同定された患者における無増悪生存期間中央値は5.8ヶ月(95%信頼区間4.2-7.5)で、2種以上の耐性機序が同定された患者における無増悪生存期間中央値は3.2ヶ月(95%信頼区間0.2-6.2)だった。

 分子標的薬使用後に病勢進行した患者のうち、10人ではさらに組織生検が行われた。10人中5人(50%)では新たな耐性機序が明らかとなったものの、そのうち治療標的となり得たのは3人(30%)に留まった。

 

結論:

 今回対象とした患者集団では、二次治療でオシメルチニブを使用したのちに病勢進行に至った患者でリキッドバイオプシーと組織生検を合わせて行っても、その結果を踏まえた分子標的治療と化学療法の間では無増悪生存期間に違いはなかった。オシメルチニブ耐性化後の分子標的治療の効果が比較的短期間に留まるのは、同時発生、異時発生を問わず、高頻度に複数の耐性化機序が関わっているためかもしれない。