・タルクは噴霧するのがいいのか、懸濁液を注入するのがいいのか

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 がんによる悪性胸水貯留患者さんに対し、しばしば行われる胸膜癒着術。

 胸膜癒着術に使用される薬は様々ありますが、この使用法に特化した薬としてタルク末があります。

 本来は胸腔鏡下にパウダーとして肺表面へ散布するのが正しい方法であると、呼吸器内視鏡学会主催のセミナーで聞きました。

 一方、国内で一般に行われているのは、胸腔ドレーンから懸濁液を注入する方法です。

 懸濁液注入法は果たして妥当なのか、今回取り上げる臨床試験で検証されていました。

 結論から言えば懸濁液注入法で事足りるらしいのですが、原発巣が肺がんや乳がんの場合は胸腔鏡下で噴霧する方が治療成功率が高いようです。

 とはいえ、胸腔鏡は全身麻酔下、局所麻酔下ともに、思い立ったらすぐできる、という処置ではありませんし、担当医がだれでも胸腔鏡処置をできる、というわけでもありませんので、我が国の診療実態には懸濁液注入法の方が合っているのかもしれません。

 

 

Phase III intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion

 

Carolyn M Dresler et al., Chest. 2005 Mar;127(3):909-15.

doi: 10.1378/chest.127.3.909.

 

目的:

 悪性胸水に対して胸膜癒着術を行うにあたり、最適なタルクの注入法を検証すること

 

方法:

 確定診断済みの悪性胸水に対し、胸腔鏡下でのタルク噴霧法(TTI群)と、胸腔ドレーンからのタルク懸濁液注入法(TS群)を比較する前向き無作為化臨床試験を計画した。主要評価項目は、胸膜癒着術により90%超の肺再膨張が得られた存命患者における、レントゲン上の30日胸水無増悪割合とした。合併症、患者死亡、QoLについても評価した。

 

結果:

 501人の患者が登録され、適格と判断された患者をTTI群(242人)とTS群(240人)に無作為割付した。患者背景や悪性腫瘍原発巣は両治療群間で同様だった。30日胸水無増悪割合は両群同等だった(TTI群78%、TS群71%)。しかし、原発巣が肺がんもしくは乳がんの患者集団では、TS群よりもTTI群の方が胸水コントロールは良好だった。(TTI群82%、TS群67%)。頻度の高い合併症には発熱、呼吸困難、疼痛があった。治療関連死はTTI群で9人、TS群で7人認められた。呼吸器合併症を発症したのは、TTI群で14%、TS群で6%と、TTI群でより高頻度に認められた。呼吸不全はTS群の4%、TTI群の8%に認められた。そのうちTTI群で6人、TS群で5人、治療関連死にいたった。QoL評価では、TS群と比較してTTI群の方が倦怠感がよりマイルドだったが、その他には有意な差は認めなかった。

 

結論:

 噴霧法、懸濁液注入法、いずれも同様の有効性を認めた。肺がんや乳がんの患者においては、噴霧法の方がよいかもしれない。