・進行肺扁平上皮がんにおけるシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用療法

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 ネシツムマブ。

 今回(2022年)の日本臨床腫瘍学会総会で耳にするまでの長い間、その存在すら忘れていました。

 というのも、第III相臨床試験で有効性が確認されてはいたものの、毎年のように華々しく取り上げられた免疫チェックポイント阻害薬の陰にすっかり隠れてしまっていたからです。

 

 2015年に論文報告された第III相国際共同SQUIRE試験では、進行肺扁平上皮がん患者さんを対象にシスプラチン+ジェムシタビン併用療法にネシツムマブを上乗せすることの意義が検証されました。ネシツムマブ上乗せによる生存期間中央値延長効果は1.6ヶ月、無増悪生存期間中央値延長効果は0.2ヶ月、奏効割合に至っては有意差がつかず、極めてインパクトの薄い結果でした。しかしながら、がん細胞の上皮成長因子受容体(EGFR)発現が強い患者さんに限って言えば、全生存期間に関するハザード比は0.75(95%信頼区間0.60-0.94)とシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ群で良好な結果を示しました。

 我が国では、シスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブの有効性を日本人で再検証する目的でJFCM試験が行われました。国際共同試験と同様の治療内容で、ただしシスプラチン+ジェムシタビン併用療法は最大4コースまでと海外よりも2コース短縮されました。従来よく行われたように、海外の第III相試験の良好な結果を受けて、国内でランダム化第II相試験を行い、同じような傾向が示されれば薬事承認に持っていく、という手法がとられています。実際のところ、ネシツムマブ上乗せによる生存期間中央値延長効果は4.1ヶ月、無増悪生存期間中央値延長効果は0.2ヶ月、奏効割合改善は30.2%であり、生存期間と奏効割合ではSQUIRE試験を遥かに凌ぐ改善を示しています。加えて、がん細胞のEGFR高発現の患者に限れば、生存期間中央値延長効果は5.4ヶ月、無増悪生存期間中央値延長効果は0.3ヶ月、奏効割合改善は35.4%とその差がさらに際立ちます。免疫染色でEGFR発現の有無を見るだけですので、取り組みやすいバイオマーカー検索と言えるのではないでしょうか。

 進行肺扁平上皮がんの治療戦略全体を考えるとき、日本人で有効性の高い治療の1つとして、がん細胞のEGFR発現を確認したうえでシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブも選択肢に入れておく必要がありそうです。

 ナブパクリタキセルの供給が滞っており、治療選択肢が限られるいま、本治療も有効に活用しなければなりません。

 

 

oitahaiganpractice.hatenablog.com

 

 

Necitumumab plus gemcitabine and cisplatin versus gemcitabine and cisplatin alone as first-line therapy in patients with stage IV squamous non-small-cell lung cancer (SQUIRE): an open-label, randomised, controlled phase 3 trial

 

Nick Thatcher et al.

Lancet Oncol. 2015 Jul;16(7):763-74.

doi: 10.1016/S1470-2045(15)00021-2. Epub 2015 Jun 1.

 

背景:

 ネシツムマブは第2世代の遺伝子組み換えヒト免疫ブロブリンG1クラス抗上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体である。今回の試験では、未治療IV期肺扁平上皮がん患者に対し、シスプラチン+ジェムシタビン併用療法にネシツムマブを上乗せすることの意義を検証した。

 

方法:

 26か国、184施設で今回のオープンラベル無作為化第III相臨床試験を行った。18歳以上で、病理組織診もしくは細胞診で確定診断したIV期肺扁平上皮がん患者で、ECOG-PSが0-2、臓器機能が保たれていて、過去に化学療法歴がないものを対象とした。患者をシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用群(GC+N群:シスプラチン75mg/㎡を1日目、ジェムシタビン1250mg/㎡を1日目と8日目、ネシツムマブ800mgを1日目と8日目、3週で1コース)とシスプラチン+ジェムシタビン併用群(GC群:シスプラチン75mg/㎡を1日目、ジェムシタビン1250mg/㎡を1日目と8日目、3週で1コース)に1:1の割合で無作為に割り付けた。シスプラチンとジェムシタビンの投与は最大6コースまでとし、ネシツムマブは病勢進行もしくは忍容不能の毒性に至るまで継続した。割付調整因子はECOG-PSと患者の居住地域とした。ネシツムマブ併用群では挫創様皮疹が高率に出現する(見た目でそれとわかってしまい、盲検化の意味がない)ため、今回の試験では盲検化は行わなかった。主要評価項目はIntention To Treat解析による全生存期間とした。

 

結果:

 2010年1月7日から2012年2月22日までの期間で、1093人の患者が無作為割付された(GC+N群545人、GC群548人)。全生存期間はGC+N群で有意に改善した(ハザード比0.84(95%信頼区間0.74-0.96)、p=0.01、中央値はGC+N群で11.5ヶ月(95%信頼区間10.4-12.6)、GC群で9.9ヶ月(95%信頼区間8.9-11.1)。無増悪生存期間もGC+N群で有意に改善した(ハザード比0.84(95%信頼区間0.75-0.95)、p=0.006、中央値はGC+N群で5.7ヶ月、GC群で5.5ヶ月)。奏効割合は有意差を認めなかった(GC+N群31%(95%信頼区間27-35)、GC群29%(95%信頼区間25-33)、p=0.40)。

 GC群と比較して、GC+N群ではGrade3以上の有害事象が出現した割合(GC+N群72% vs GC群62%)、深刻な有害事象が出現した割合(GC+N群48% vs GC群38%)がいずれも高かった。GC+N群では、Grade 3-4の低マグネシウム血症(GC+N群9% vs GC群1%)とGrade 3の皮疹(GC+N群4% vs GC群1%未満)がより多かった。病勢進行に関連したものも含めて、致死的な有害事象はGC+N群で12%、GC群で11%認められ、そのうち有害事象が死因と考えられるものはGC+N群で3%、GC群で2%だった。全体として、GC+N群における安全性は忍容可能であり、想定の範囲内だった。

 

結論:

 進行肺扁平上皮がん患者の1次治療においてシスプラチン+ジェムシタビン併用療法にネシツムマブを上乗せすることにより生存期間が延長した。本治療は1次治療の新しい選択肢である。

 

 

 

Necitumumab plus gemcitabine and cisplatin versus gemcitabine and cisplatin alone as first-line treatment for stage IV squamous non-small cell lung cancer: A phase 1b and randomized, open-label, multicenter, phase 2 trial in Japan ( JFCM study )

 

Satoshi Watanabe et al

Lung Cancer. 2019 Mar;129:55-62.

doi: 10.1016/j.lungcan.2019.01.005. Epub 2019 Jan 16.

 

目的:

 ネシツムマブは、遺伝子組み換えヒト免疫ブロブリンG1クラス抗上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体である。今回のオープンラベル多施設共同第Ib/II相試験では、日本人未治療進行肺扁平上皮がん患者に対し、シスプラチン+ジェムシタビン併用療法にネシツムマブを上乗せすることの意義を検証した。

 

方法:

 第Ib相試験部分は、第II相試験部分におけるジェムシタビン投与量を定めることを目的とした。第II相試験部分は、シスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用群(GC+N群:シスプラチン75mg/㎡を1日目、ジェムシタビン1250mg/㎡を1日目と8日目、ネシツムマブ800mgを1日目と8日目、3週で1コース)とシスプラチン+ジェムシタビン併用群(GC群:シスプラチン75mg/㎡を1日目、ジェムシタビン1250mg/㎡を1日目と8日目、3週で1コース)に1:1の割合で無作為に割り付けた。シスプラチンとジェムシタビンの投与は最大4コースまでとし、ネシツムマブは病勢進行もしくは忍容不能の毒性に至るまで継続した。第II相部分の主要評価項目は全生存期間とした。

 

結果:

 第II相試験部分では181人の患者から、GC+N群に90人、GC群に91人が無作為割付された。全生存期間はGC+N群で有意に改善した(ハザード比0.66(95%信頼区間0.47-0.93)、p=0.0161、中央値はGC+N群で14.9ヶ月、GC群で10.8ヶ月)。無増悪生存期間もGC+N群で有意に改善した(ハザード比0.56(95%信頼区間0.41-0.78)、p=0.0004、中央値はGC+N群で4.2ヶ月、GC群で4.0ヶ月)。奏効割合もGC+N群で有意に改善した(GC+N群51.1%(95%信頼区間40.8-61.4)、GC群20.9%(95%信頼区間12.5-29.2)、p<0.0001)。全体の181人中175人で、免疫染色によりがん細胞のEGFR発現状態を評価できた。GC+N群ではEGFR陽性69人、EGFR陰性18人、GC群ではEGFR陽性77人、EGFR陰性11人だった。EGFR陽性患者サブグループで治療効果を解析したところ、全生存期間(ハザード比0.62(95%信頼区間0.43-0.90)、p=0.011、中央値はGC+N群14.8ヶ月、GC群9.4ヶ月)、無増悪生存期間(ハザード比0.54(95%信頼区間0.38-0.76)、p<0.001、中央値はGC+N群4.2ヶ月、GC群3.9ヶ月)、奏効割合(GC+N群53.6%、GC群18.2%、p<0.001)と、いずれもGC+N群で良好だった。一方、EGFR陰性患者サブグループでは、全生存期間(ハザード比0.76(95%信頼区間0.31-1.87)、p=0.554、中央値はGC+N群19.6ヶ月、GC群19.1ヶ月)、無増悪生存期間(ハザード比0.97(95%信頼区間0.42-2.28)、p=0.953、中央値はGC+N群4.2ヶ月、GC群4.2ヶ月)、奏効割合(GC+N群38.9%、GC群45.5%、p=0.728)と、両群間に差はなかった。GC群に比し、GC+N群で5%以上頻度が高かったGrade3以上の有害事象は、好中球減少(42% vs 35%)、発熱性好中球減少(12% vs 3%)、食欲不振(11% vs 4%)、挫創(6% vs 0%)だった。

 

結論:

 日本人進行肺扁平上皮がん患者に対するGC+N併用一次療法は忍容性良好で、有意かつ意義のある臨床的有用性を示した。