・ビタミンC、自然治癒、ルルドの泉

 先日に続き、いま読んでいる本からの引用です。

 決してブログのネタにするために読み始めたわけではなく、どちらかというとiDeCoやNISAでの銘柄選びの基礎知識を得ようと思って手を付けた本なのですが、なぜかがんに関わる記述が随所に見られます。

 昨今大量投与療法や美白目的での歯科医院等での内服処方が見られるようになったビタミンCについて触れられていましたので、取り上げてみました。

 2008年出版の本ですが、免疫チェックポイントの登場を予言するような記述があり、そういった点でも興味深いです。

 

 

 

「まぐれー投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」

 

 ナシーム・ニコラス・タレブ著、望月衛

 ダイヤモンド社、2008年、p206-208 

 

<がんの治療法>

 

 アジアやヨーロッパへ旅して帰ってくると、よく時差ボケでとても朝早くに目が覚める。

 ときどき、めったにないことだけれど、テレビをつけて市場の情報を探したりする。

 そんな朝の冒険をしていて驚くのは、怪しい製薬業者が自分たちの製品の効能を訴えるコマーシャルがやたらと目につくことだ。

 そういう時間帯のコマーシャル枠が安いせいなのは間違いない。

 自分たちの正しさを証明するために、彼らのやり方で病気が治った人に納得のいきそうな証言をさせている。

 たとえばあるとき、咽頭がんが治った人が出てきてビタミンを組み合わせた薬のおかげだと言い、そんな薬が特別ご奉仕価格の14.95ドルで帰るのだと訴えているのを見た。

 その人は心の底からそう思っているようだった(もちろん報酬をもらって証言しているのだろうけれど、報酬は多分、一生分の薬なんだろう)。

 

 私たちは随分進歩したのに、いまだにそういう情報に基づいて紡機と治療法の関係を信じる人がいる。

 そして、どんな科学的証拠をいくら積み上げても、真剣で感情に訴える証言ほどには信じてもらえない。

 そういう証言をするのはいつも市井の人とは限らない。

 (関係のない分野の)ノーベル賞受賞者の証言なら十分だ。

 ノーベル化学賞を受賞したライナス・ポーリングはビタミンCの薬効を信じていて、毎日膨大な量を摂取していたと言われている。

 彼は話がとても旨かったので、ビタミンCには治癒力があるという通念を作るのに一役買ってしまった。

 たくさん医学調査が行われたけれど、ポーリングの主張を裏付けることはできなかった。

 それでも「ノーベル賞受賞者」の主張は覆せず、結局多くの人にとってはそんな調査結果も馬の耳に念仏だった。

 ポーリングは薬が専門ではなかったのに、だ。

 

 そういう主張の害と言えば、だいたいの場合詐欺師が儲けることぐらいしかないけれど、科学的に実証された治療を止めて怪しい方法に頼り、正しい治療を受けなかったために亡くなるがん患者がたくさん出るかもしれない。

 非科学的な方法は「代替療法」という名前で呼ばれている。

 実証されていない治療法であり、医療というのは1種類しかなくて代替医療なんて医療ではないと、医学業界がいくら言ってもマスコミにはやっぱりわからない。

 

 先ほどでっち上げの治療で病気が治ったという人が、いった通りのことを心の底から信じていると書いたけれど、読者のみなさんはそうは思えないかもしれない。

 そんなことが起きる理由は、「自然治癒」だ。

 がん患者のほんの一握りは、全くよく分からない理由でがん細胞が消えてなくなり「奇跡的に」回復する。

 患者の免疫系の何かのスイッチが入って身体のがん細胞を全滅させるのだ。

 そういう人たちはヴァーモントの湧水をコップに一杯飲んでも、干し肉をかんでも、あの綺麗な包装紙に包まれた薬を飲んでも、結局同じように治るのだ。

 最後に、自然治癒は言うほど自然ではないかもしれない。

 結局、私たちの知識ではまだわからない何かが原因なのかもしれない。

 

 宇宙物理学者の故カール・セーガンは科学的思考を熱心に広めた人であり、非科学的なものを執念深く攻撃した人だ。

 彼はフランスのルルドの泉へ行ってがんが治ったというケースを調べた。

 ただ聖なる泉に触れるだけで病気が治ると信じられている場所だ。

 興味深いことが分かった。

 この場所を訪れた全がん患者のうち治った人の割合は、どちらかと言えば、自然治癒の起きる割合よりも低かった。

 つまり、ルルドの泉へ行かなかった人よりも治る割合は低かったのだ!

 統計学者だったら、がん患者が生き残るオッズはルルドへ行くと低下すると推測すべきなのだろうか?