・NTRK融合遺伝子陽性固形がん(肺がんを含む)に対するラロトレクチニブ

 2021年3月23日に製造販売承認、2021年05月19日に薬価収載、2021年07月07日に発売されたラロトレクチニブ。

 対象疾患は「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌」であり、肺がんを含む多彩ながんが治療対象です。

 NTRK陽性肺がんにはまだお目にかかったことはありませんが、エヌトレクチニブに続き、ラロトレクチニブも使用可能になったというのは喜ばしいことです。

 

 

 

 

Efficacy of Larotrectinib in TRK Fusion-Positive Cancers in Adults and Children

Alexander Drilon et al.
N Engl J Med. 2018 Feb 22;378(8):731-739. 
doi: 10.1056/NEJMoa1714448.

 

背景:
 トロポミオシン受容体キナーゼ(tropomyosin receptor kinase, TRK)3種のうち1種の融合遺伝子は、小児や成人の様々ながんを引き起こす。こうした融合遺伝子を有する小児、成人のがんに対し、選択性の高いTRK阻害薬であるラロトレクチニブの有効性と安全性を評価した。

 

方法:
 臨床試験参加施設それぞれで日常的に行った分子プロファイリング検査により、連続的・前向きに特定したTRK融合遺伝子陽性がんの患者を対象に、3種のプロトコールのうち1つに組み入れた。
1)成人を対象とした第I相試験
2)小児を対象とした第I-II相試験
3)ティーンエイジャーと成人を対象とした第II相試験
 主要評価項目は上記3プロトコールの結果を統合した上での、独立効果判定委員会評価による奏効割合とした。副次評価項目は奏効持続期間、無増悪生存期間、安全性とした。

 

結果:
 55人の患者が本試験に参加し、プロトコール治療を受けた。患者の年齢は4歳から76歳までだった。がん種は17種に及んだ。独立効果判定委員会評価による奏効割合は75%(95%信頼区間61-85)だった。担当医評価による奏効割合は80%(95%信頼区間67-90)だった。1年間経過時点で、71%の患者で奏効が持続しており、55%の患者で無増悪生存の状態にあった。奏効持続期間、無増悪生存期間ともに中央値に達していなかった。経過観察期間中央値9.4ヶ月の段階で、奏効した患者のうち86%(38/44)はプロトコール治療を継続しているか、あるいは治癒を目指した外科手術を受けるかしていた。有害事象の多くはGrade1相当で、担当医によりラロトレクチニブに関連していると判断されたGrade3-4の有害事象で、患者の5%以上に発生した者は見られなかった。治療関連有害事象でラロトレクチニブを中止した患者はいなかった。

 

結論:
 TRK融合遺伝子陽性がんに対し、ラロトレクチニブは患者年齢やがん種に関係なく、顕著で持続的な抗腫瘍活性を示した。

 

 

 

Larotrectinib in patients with TRK fusion-positive solid tumours: a pooled analysis of three phase 1/2 clinical trials

David S Hong et al.
Lancet Oncol. 2020 Apr;21(4):531-540. 
doi: 10.1016/S1470-2045(19)30856-3. Epub 2020 Feb 24.

 

背景:
 選択的TRK阻害薬であるラロトレクチニブは、当初の55人の患者を対象とした有効性・安全性解析結果に基づいて、小児・成人のTRK融合遺伝子陽性進行固形がんに対して薬事承認されている。今回の報告では、より多くのTRK融合遺伝子陽性固形癌患者に対するラロトレクチニブの有効性や長期安全性について検証した。

 

方法:

 成人を対象とした第I相試験、小児を対象とした第I / II相試験、ティーンエイジャーと成人を対象とした第II相試験に患者を組み入れてプロトコール治療を行った。各試験において、適格条件に若干の相違があった。今回の統合解析では、適格患者は生後1ヶ月以上で、局所進行期もしくは進行期、中枢神経以外が原発巣のTRK融合遺伝子陽性固形がんで、(もしあれば)標準治療は既に施行済みのものとした。今回の解析対象集団は55人で、ラロトレクチニブの薬事承認の根拠となるよう位置付けられた。ラロトレクチニブは経口投与(カプセル製剤もしくは液剤として)され、28日間を1コースとして継続投与し、成人では概ね100mg/回を1日2回、小児では概ね体表面積1平米あたり100mg/回(催告100mg/回)を1日2回服用した。主要評価項目は担当医評価による奏効割合とし、ITT解析を行った。

 

結果:

 2014年5月1日から2019年2月19日までに、159人のTRK融合遺伝子陽性がん患者が登録され、ラロトレクチニブによる治療を受けた。患者年齢は生後1ヶ月から84歳まで幅があった。担当医評価による奏効割合は79%(121 / 153, 95%信頼区間72-85)で、16%(24 / 153)は完全奏効だった。無増悪生存期間中央値はTRK融合遺伝子の有無に拠らずラロトレクチニブの治療を受けた安全性解析対象集団260人において、Grade 3-4のラロトレクチニブ関連有害事象として頻度が高かったのはALT上昇(3%, 8 / 260)、貧血(2%, 6 / 260)、好中球減少(2%, 5 / 260)だった。重篤なラロトレクチニブ関連有害事象はALT上昇(1%未満, 2 / 260)、AST上昇(1%未満, 2 / 260)、嘔気(1%未満, 2 / 260)だった。治療関連死は認めなかった。  

 なお、母集団159人中、肺がん患者は12人(8%)で、奏効割合は75%(9 / 12, 95%信頼区間43-95)だった。

 

結論:

 進行固形がんの中には、ラロトレクチニブが極めて有効なTRK融合遺伝子陽性の集団が存在する。安全性も良好で、ラロトレクチニブの長期投与に耐えうる。